講演情報

[T13-P-27]島根県大田市五十猛町周辺に分布する中新統川合・久利層砂岩の特徴の多様性

*日比野 翔吾1、酒井 哲弥2 (1. 島根大学大学院自然科学研究科環境システム科学専攻地球科学コース、2. 島根大学)
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【ハイライト講演】  本研究は島根県大田市の中新統の砕屑岩・火山砕屑岩の産状観察にもとづいて従来は曖昧であった砕屑岩,とくに砂岩を成因的に区別し,それらが陸側あるいは水底火山からの堆積物供給の中で複雑な形成過程を経たことを示そうとするものである. ※ハイライト講演とは...

キーワード:

中期中新世、砂岩、タービダイト、スランプ褶曲、リップル斜交葉理


 島根県大田市五十猛町から仁摩町には,中新統川合層・久利層・大森層が複雑に分布している. これまでの研究で, 川合層は砂岩及び礫岩からなり潟湖から浅海の堆積環境を示し, 久利層は下位から泥岩, 安山岩-デイサイト溶岩及び火砕岩, 流紋岩溶岩及び貫入岩, 流紋岩火砕岩からなり, 半深海の堆積環境を示すとされている(鹿野ほか,1998,2001).
 本研究では,地質調査を実施し,詳細な地質図を作成, 堆積相解析の適用で具体的な堆積環境の復元を試みた.その結果,本地区の川合・久利層の砂岩の特徴は地点によって様々な特徴をもつことが明らかになった.ここではその特徴とそれらの堆積場についての解釈を述べると共に,今回の発見がもたらす意義を述べる.  
 仁摩町宅野の川合層砂岩は, デイサイト質の細粒砂から粗粒砂からなり,塊状砂岩と平行葉理砂岩を繰り返す.これよりタービダイトの可能性が推測される.また仁摩町宅野東方では,安山岩に高角でオンラップする川合層砂岩も見つかった.そこには崩落によって定置したと解釈される巨礫も見つかった.この堆積物は,水中火山体の周辺に形成された,崖錐堆積物と解釈される.
 中新統大森層の砂岩とされていたものを川合層ないし久利層として扱うべきである地点が見つかった.五十猛地区の大森層は下位から流紋岩質火山礫凝灰岩,安山岩質凝灰角礫岩,礫岩及び砂岩からなる.そのうち,礫岩及び砂岩は五十猛周辺から猛鬼海岸にかけて帯状に連続して分布するとされてきたが(鹿野ほか,1998),分布が五十猛の海岸付近のみであった.猛鬼海岸で従来大森層とされる堆積物は砂岩・砂岩泥岩互層からなり,内部にスランプ褶曲が確認された. 砂岩には級化層理,平行葉理,リップル斜交葉理が認められた.それはタービダイトと解釈される.砂岩層中のリップル斜交葉理の示す古流向は, 東〜南方向の範囲を指す.すなわちこの砂岩層は,堆積当時の沖合から堆積物が供給されている.猛鬼海岸以外の大森層礫岩及び砂岩は安山岩の上位で, 主に南方の陸域から供給されていると判断される.現状では水中火山の侵食や崩壊に伴って運搬・堆積したものと推定され,泥岩主体の地層に砂岩や砂岩泥岩互層が挟まれることから,これは大森層の下位の地層として扱うべきである.
 川合層,久利層から大森層の堆積時, 調査対象エリアには,複雑に水中火山が分布していたことが推定される.水中火山体の崩壊により移動する堆積物は,火山体から離れる方向で,陸地からの堆積物供給方向と別方向に向くこともありうる.逆にそうした崩壊などが起こらなければ,泥質な堆積物(久利層の岩相を示す堆積物)が堆積しうる.このエリアの川合・久利層は当時の活発な水中火山活動を反映し,特に川合層は,模式地周辺の堆積環境より深い環境で,複雑な形成過程を経たことが指摘される.

参考文献 
鹿野和彦・松浦浩久・沢田順弘・竹内圭史,1998:石見大田及び大浦地域の地質. 地域地質研究報告(5万分の1の図幅), 地質調査所, 118p
鹿野和彦・宝田晋治・牧本 博・土谷信之・豊 遙秋,2001:温泉津及び江津地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1の図幅), 地質調査所, 129p