講演情報

[T13-P-28]北部フォッサマグナ地域新第三系砂岩における供給源の検討

*橋本 周汰1、植田 勇人2、吉田 孝紀1 (1. 信州大学、2. 新潟大学)
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キーワード:

北部フォッサマグナ、砕屑性ジルコン、モード組成

  はじめに
 長野県北部に分布する北部フォッサマグナ新第三系は,おおむね南北方向の軸をもつ褶曲や断層に支配されて分布する[1].これらの堆積岩類については,多くの層序学的,堆積学的検討が行われてきた[2].その一方で,これらの砕屑物の供給源については,礫種[3,4]や古流向[5],砂岩のモード組成および砕屑性ザクロ石の化学組成[6]等の検討が行われてきた.
先行研究[6]では日影向斜地域と込地向斜地域において,ザクロ石の化学組成と砂岩モード組成の双方について地域間での差異が報告されている.本研究では,先述の2地域を対象として,ルートマップおよび柱状図を作成したうえで,砂岩試料についてモード組成と砕屑性ジルコン年代の測定を行い,より詳細な供給源の推定を行うことを目的とする.
野外踏査
日影向斜地域では,下から柳沢層,平床沢層,田之頭層が分布する.柳沢層については,便宜的に岩相から下部層,中部層,上部層の3部層に区分した.
込地向斜地域では,下から別所層,青木層,小川層が分布する. 青木層は先行研究[7,8]を踏襲し3部層(細田部層,池沢部層,小立野入部層)に区分した.小川層についても先行研究[8]に沿って4部層(差切部層,重部層,高桑凝灰岩,込地部層)に区分した.
砂岩モード組成
採取した砂岩試料について,Gazzi-Dickinson法[9]に従って各試料500点以上ポイントカウントを行った.Qm–F-Ltダイアグラムの造構場判別図ではいずれの試料も”Mixed Provenance”の領域付近にプロットされた.いずれも長石の約6-7割がカリ長石からなり,岩片は流紋岩などの珪長質火山岩片が7割以上を占める.
砕屑性ジルコン年代
柳沢層中部層,同上部層,青木層細田部層,小川層差切部層の計4試料について,新潟大学設置のLA-ICPMSを用い,U-Pb年代を測定した.全試料が新第三紀から原生代に至る幅広い年代を示したが,いずれも相対確率分布図において60-70 Ma付近に顕著なピークを示し,62-84 %の粒子が白亜紀および古第三紀の年代を示した.
また,いずれの試料も170-270 Maの年代を示す粒子をわずかに含んでおり,7-32%の粒子がペルム紀からジュラ紀の年代を示した.柳沢層中部層では最若ピーク(n = 7)から5.56 ± 0.27 Ma(MSWD = 0.78) の最大堆積年代が得られた.
議論
得られた最大堆積年代から,柳沢層は中新世後期-鮮新世にかけて堆積したと考えられる.最若ピークの年代はまとまっており,準同時的な火山活動の産物を含んでいると考えられる. ジュラ紀以前のジルコン粒子は美濃帯[10]や秩父帯[11]で報告された年代と類似しているが,飛騨帯の花崗岩類からも180-240 Maの年代が報告されており[12],今後更なる検討を要する.
一方,60-70 Maの多くの粒子は,白亜紀-古第三紀の火成岩体,またはそれらを後背地とする堆積岩類から供給されたと考えられるが,砂岩モード組成において斜長石に対しカリ長石の割合が高く,礫組成において砂岩礫の割合が少ない[4]ため,多くが花崗岩類から直接供給されたと考えられる.長野県では北アルプス地域[13]あるいは木曽・伊那地域[14,15]にこれらの年代の花崗岩が分布しており,北部フォッサマグナ埋積時にはこれらの岩体が供給源に露出していたことが示唆される.
引用文献
[1]北部フォッサマグナ団体研究グループ,1976,地質学論集,13,118-131.[2]西村・保柳,1992,地質雑,98,337-354.[3] Hirabayashi,1970,Earth Sci. (Chikyu Kagaku),24,79−92.[4]Hirabayashi,1970,Earth Sci. (Chikyu Kagaku),24,115−128.[5]鈴木,1977,地質雑,83,783-793. [6]宇野・保柳,2000,地質学論集,57,231-240.[7] 田中・関,1966信州大学教育学部研究論集,18,139-163.[8] 水野, 1976地質学論集, 13, 175-186.[9]Dickinson et al.,1983,Bull. Geol. Soc. Amer.,94,222-235.[10]箱岩ほか,2025,地質雑,131,31-38.[11]杉本ほか,2019,地質雑,125,827-832.[12]Yamada et al.,2021,J. Mineral. Petrol. Sci.,116,61-66. [13]伊藤ほか,2012,地質雑,118,449-456.[14]山田ほか,1992,地質調査所月報,43,759-779.[15]Yuhara et al.,2000,Island Arc,9,64-80.