講演情報
[T13-P-31]岡山平野の沖積層下に伏在する地下更新統層序の予察的検討
*納谷 友規1、田辺 晋1、水野 清秀1、本郷 美佐緒2、小網 晴男3、鈴木 茂之4 (1. 産業技術総合研究所地質調査総合センター、2. 有限会社アルプス調査所、3. 岡山県立岡山朝日高等学校、4. 岡山大学)
キーワード:
岡山平野、更新統、地下地質、テフラ、花粉化石、珪藻化石
岡山平野は岡山県南部の瀬戸内海沿岸部に拡がる中国地方最大の沖積平野である.日本各地の他の沿岸平野と同様に,岡山平野を形作る第四紀の堆積盆は更新世以降のテクトニクスと汎世界的海水準変動を反映して発達してきたと考えられる.更新世の段丘がほとんど分布しない岡山平野において,更新統は沖積層の下位に伏在している.そのため,更新世以降の堆積盆発達を検討するためにはボーリング調査によって沖積層よりも下位の地質を明らかにする必要がある.岡山平野地下の更新統の堆積環境については歌代ほか(1975)で報告されているが,年代については明らかにされていない.本発表は,岡山平野に伏在する更新統の層序を明らかにすることを目的として,3本のボーリングコアの解析を行ったので,これまでに明らかになった層序の概要について報告する.
今回は,新たに掘削された2本のコア(GS-OY-1・GS-OY-2)の解析をするとともに,岡山県立岡山朝日高等学校で掘削された既存コア(鈴木・小網,2012)の再解析をした.以下に各コアの概要を述べる.
岡山朝日高等学校コアは,岡山朝日高等学校敷地内の標高7m地点から掘削された掘削長42 mのコアである.沖積層の基底は深度9 m付近にあり,以下深度42mまでが更新統で孔底は基盤岩に達していない.更新統の最上部は有機質泥層からなり,ATテフラを挟有する(鈴木・小網,2012).また,深度25.7 mに挟在する細粒火山灰層(鈴木・小網,2012)は宇和盆地などでAso-1テフラに対比されるテフラ(Matsu'ura & Ueno, 2022)に対比されることが明らかになった.珪藻化石の検鏡により,沖積層の深度6 m付近には汽水ー海生珪藻が認められ,海水の影響下での堆積が示唆された.更新統からはほとんど珪藻化石が産出しなかったが,わずかに産出した珪藻化石は淡水生種のみであった.花粉分析の結果,深度40 m以深はCyclocarya属が少量産出することから,大阪層群の花粉化石群集(本郷,2009)との対比により,中期更新世のMIS15より古い年代が示唆される.
GS-OY-1コアは岡山市南区七区の標高0.37 m地点から掘削された掘削長70.2 mのコアである.沖積層の基底は深度13.9 mにあり,以下深度65 mまでが更新統で,深度65 m以深は古第三系と考えられる砂質泥岩からなる.更新統の最上部にはATテフラが混在するテフラ濃集層が認められ,さらに深度58 m以深には複数の火山灰層が確認された.珪藻化石検鏡の結果,更新統の深度18–23 mは海成層で,それ以外の深度は淡水成層であると推定された.花粉分析の結果,深度58 m以深はMIS15よりも古い可能性がある.
GS-OY-2コアは倉敷市六間川緑地の標高0.77m地点から掘削られた掘削長58 mのコアである.沖積層の基底は深度8.7 mにあり,以下深度56.1 mまでが更新統で,深度56.1 m以深から堀止め深度までは花崗岩からなる.更新統の最上部には複数の火山灰層が挟在しその中にはATテフラが含まれる.深度28–37 mの区間には複数の火山灰層が挟在する.珪藻化石の検鏡結果から,更新統の深度17–22 mは海成層で,それ以外の深度は淡水成層であると推定された.
3本のコアの解析結果から,岡山平野の更新統層序に関するいくつかの特徴が明らかになった.更新統最上部はATテフラを挟在する淡水成泥層や有機質泥層からなり,この地層を沖積層の海成層が不整合を介して覆う.そして,ATテフラを挟在する層準よりも下位に層厚5–7 mの海成層があり,おそらくこの海成層は最終間氷期の海進によって堆積した地層と考えられる.この海成層よりも上位は上部更新統で,この海成層よりも下位が中部更新統に対比される.Aso-1テフラが確認されたので,中部更新統にMIS8–7の地層が挟在するのは確実である.また,地点によって深度は変わるが,岡山平野の深度40 m以深には,中期更新世前期のMIS15よりも古い層準が挟まることが花粉化石群集から示唆される.中部更新統については,上記以外のどの海洋酸素同位体ステージに対応する地層が存在するのか,またそれらがどの程度連続して累重するのか,さらに,それよりも下位の下部更新統の存否については,現時点で明らかでない.今後,テフラの対比や花粉化石分析を進めることで詳しく検討する予定である.
引用文献:本郷(2009)地質学雑誌,115,64–79.Matsu'ura & Ueno (2022) Quaternary Geochronology, 73, 101383. 鈴木・小網(2012)財団法人八雲環境科学振興財団研究レポート集, 13, 81-87. 歌代ほか (1975) 第四紀研究. 14, 139-150.
今回は,新たに掘削された2本のコア(GS-OY-1・GS-OY-2)の解析をするとともに,岡山県立岡山朝日高等学校で掘削された既存コア(鈴木・小網,2012)の再解析をした.以下に各コアの概要を述べる.
岡山朝日高等学校コアは,岡山朝日高等学校敷地内の標高7m地点から掘削された掘削長42 mのコアである.沖積層の基底は深度9 m付近にあり,以下深度42mまでが更新統で孔底は基盤岩に達していない.更新統の最上部は有機質泥層からなり,ATテフラを挟有する(鈴木・小網,2012).また,深度25.7 mに挟在する細粒火山灰層(鈴木・小網,2012)は宇和盆地などでAso-1テフラに対比されるテフラ(Matsu'ura & Ueno, 2022)に対比されることが明らかになった.珪藻化石の検鏡により,沖積層の深度6 m付近には汽水ー海生珪藻が認められ,海水の影響下での堆積が示唆された.更新統からはほとんど珪藻化石が産出しなかったが,わずかに産出した珪藻化石は淡水生種のみであった.花粉分析の結果,深度40 m以深はCyclocarya属が少量産出することから,大阪層群の花粉化石群集(本郷,2009)との対比により,中期更新世のMIS15より古い年代が示唆される.
GS-OY-1コアは岡山市南区七区の標高0.37 m地点から掘削された掘削長70.2 mのコアである.沖積層の基底は深度13.9 mにあり,以下深度65 mまでが更新統で,深度65 m以深は古第三系と考えられる砂質泥岩からなる.更新統の最上部にはATテフラが混在するテフラ濃集層が認められ,さらに深度58 m以深には複数の火山灰層が確認された.珪藻化石検鏡の結果,更新統の深度18–23 mは海成層で,それ以外の深度は淡水成層であると推定された.花粉分析の結果,深度58 m以深はMIS15よりも古い可能性がある.
GS-OY-2コアは倉敷市六間川緑地の標高0.77m地点から掘削られた掘削長58 mのコアである.沖積層の基底は深度8.7 mにあり,以下深度56.1 mまでが更新統で,深度56.1 m以深から堀止め深度までは花崗岩からなる.更新統の最上部には複数の火山灰層が挟在しその中にはATテフラが含まれる.深度28–37 mの区間には複数の火山灰層が挟在する.珪藻化石の検鏡結果から,更新統の深度17–22 mは海成層で,それ以外の深度は淡水成層であると推定された.
3本のコアの解析結果から,岡山平野の更新統層序に関するいくつかの特徴が明らかになった.更新統最上部はATテフラを挟在する淡水成泥層や有機質泥層からなり,この地層を沖積層の海成層が不整合を介して覆う.そして,ATテフラを挟在する層準よりも下位に層厚5–7 mの海成層があり,おそらくこの海成層は最終間氷期の海進によって堆積した地層と考えられる.この海成層よりも上位は上部更新統で,この海成層よりも下位が中部更新統に対比される.Aso-1テフラが確認されたので,中部更新統にMIS8–7の地層が挟在するのは確実である.また,地点によって深度は変わるが,岡山平野の深度40 m以深には,中期更新世前期のMIS15よりも古い層準が挟まることが花粉化石群集から示唆される.中部更新統については,上記以外のどの海洋酸素同位体ステージに対応する地層が存在するのか,またそれらがどの程度連続して累重するのか,さらに,それよりも下位の下部更新統の存否については,現時点で明らかでない.今後,テフラの対比や花粉化石分析を進めることで詳しく検討する予定である.
引用文献:本郷(2009)地質学雑誌,115,64–79.Matsu'ura & Ueno (2022) Quaternary Geochronology, 73, 101383. 鈴木・小網(2012)財団法人八雲環境科学振興財団研究レポート集, 13, 81-87. 歌代ほか (1975) 第四紀研究. 14, 139-150.
