講演情報

[T14-O-2]八重山海底地溝におけるマグマ貫入構造の空間変化:反射法地震探査による考察

*新井 隆太1、三澤 文慶2、大坪 誠2、木下 正高3、石野 沙季2、山本 朱音4,2 (1. 海洋研究開発機構、2. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター、3. 東京大学地震研究所、4. 筑波大学)
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キーワード:

沖縄トラフ、反射法地震探査、マグマ貫入、熱水噴出、八重山海底地溝

 琉球弧の背弧に位置する沖縄トラフでは、大陸地殻のリフティングに伴い、多様な地殻活動が進行している。特に沖縄トラフ南部において明瞭なリフト軸を形成している八重山海底地溝では、海底面を切る多数の正断層が発達し、その周囲には活動的な熱水噴出孔や海底火山の存在も報告されている(Ishibashi et al., 2015)。さらに、この地域では数年に一度の頻度で群発的な地震活動も繰り返し発生しており、ダイクの貫入との関連が示唆されている (Nakamura and Kinjo, 2018)。これらの現象は空間的に密接しており、リフティングに起因する相互に関連した地殻活動と考えられるが、背景にある地殻構造や岩石物性には未解明な点が多く、リフトシステムの総合的な理解には至っていない。こうした課題の解明を目的として、我々は沖縄トラフ南部において反射法地震探査をはじめとする複数の地球物理観測を実施してきた。本発表では、主に反射法データの解析結果に基づいて、八重山海底地溝におけるマグマ貫入構造の特徴について報告する。
 反射法データは白鳳丸による2航海 (KH-21-3およびKH-23-11) において取得された。いずれの航海でも、容量710立方インチのGIガンを25m間隔で発振し、ケーブル長1.2km・48チャンネルのハイドロフォンストリーマーを用いてデータを記録した。収録されたデータを、Surface-related multiple eliminationや高分解能ラドンフィルター等のノイズ除去処理を含む標準的な処理フローに従って解析した。速度解析には、既存の屈折法地震探査に基づく速度モデル(Arai et al., 2017) を参照し、得られた速度モデルをもとにPrestack time migration断面を深度断面へ変換した上で、貫入構造および断層構造の解釈を行った。本研究では、八重山海底地溝に直交する7測線および平行な1測線の合計8測線を解析対象とし、リフトに沿う方向の構造変化に着目して検討を行った。その結果、八重山海底地溝直下のマグマ貫入構造はリフト軸に沿って大きく変化することが明らかとなった。
 高温の熱水噴出が確認されている八重山海丘 (Miyazaki et al., 2017) を横切るYA3測線では、海丘直下に幅約3kmのマグマ貫入体が存在し、その上端は海底面近傍にまで達している。この貫入体は反射波振幅が周囲より著しく低く、散乱強度の高いダイク等から構成されていると考えられる。また、深度約4kmには、シルと解釈されるパッチ状の明瞭な反射面が貫入体に隣接して存在しており、これらの貫入構造が熱水活動と関係している可能性がある。
 YA3測線からわずか12km東方に位置するYA2測線では、顕著に異なる構造が観察された。ここでも八重山海底地溝の直下に貫入構造が認められるが、厚い堆積層の下に埋没している。貫入体上部にはリング断層に沿って100m以上の変位を伴うグラーベン構造が発達しており、これは地下のマグマ溜まりの崩壊に起因する急激かつ局所的な沈降を示唆している。また、貫入体の側方、深さ約4kmにおいて極性反転を示す反射波群が確認されており、流体または溶融体の集積による地震波速度の低下が示唆される
 八重山海底地溝周辺では、全体的に70mW/m²未満の低い熱流量が報告されており、火成活動は限定的と考えられているが、局所的には150mW/m²を超える高熱流量も観測されている (Kinoshita et al., 1990, 1991)。今回の反射法探査の結果では、これらの高熱流量地点の近傍において、局所的な温度異常の要因となりうる幅の狭い貫入体や深部反射面の存在を確認した。さらに、八重山海底地溝の縁辺部やその外側にも同様の構造が認められており、熱構造への影響が示唆される。

引用文献
Arai et al. (2017) JGR-SE, 122, 622–641
Ishibashi et al. (2015) Subseafloor biosphere linked to hydrothermal systems: TAIGA concept, 337–359
Kinoshita et al. (1990) BERI, 65, 571–588
Kinoshita et al. (1991) BERI, 66, 211–228
Miyazaki et al. (2017) RSOS, 4, 171570
Nakamura and Kinjo (2018) EPS, 70, 154