講演情報

[T14-O-3]霧島山新燃岳2025年噴火の火山灰構成粒子の時間変化(速報)

*木尾 竜也1、宮城 磯治1、東宮 昭彦1、岩橋 くるみ1、及川 輝樹1、松本 恵子1、古川 竜太1、草野 有紀1、山﨑 誠子1、風早 竜之介1、篠原 宏志1、池永 有弥1、新谷 直己1、石塚 吉浩1 (1. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)
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【ハイライト講演】  霧島山新燃岳では2025年6月22日に約7年ぶりに噴火活動を再開し、8月22日現在も断続的な噴火が継続し、深部からのマグマ供給も示唆される。木尾竜也会員らは、刻々と変化する火山噴火に伴う火山灰構成粒子の時間変化を丹念に調査している。新燃岳のマグマ内や火口内で何が起こっていて、今後どう変化するのか、最新の研究成果に注目されたし。 ※ハイライト講演とは...

キーワード:

霧島火山、新燃岳、火山灰、構成物特性、噴火推移


 霧島山新燃岳では2025年6月22日に約7年ぶりに噴火活動を再開し,その後も断続的な噴火が継続している(7月9日現在).また,多量の二酸化硫黄ガスも放出していることから,深部からのマグマ供給が継続していることが示唆されている.これに伴って,火山灰の構成粒子が時間経過とともにどのように変化しているのかを把握することは,噴火活動やマグマの挙動を理解する上で基礎的かつ重要である.そこで本発表では,2025年6月22日~7月上旬にかけて採取した降下火山灰について,構成粒子の種類とその量比の時間変化を追跡したので,その結果について報告する.
 火山灰は産総研または気象庁(宮崎地方気象台・鹿児島地方気象台)が採取したもので,これらを蒸留水で洗浄した後,篩い分けを行い粒径125~250 µmの粒子をキーエンス社のデジタルマイクロスコープ(VHX-8000)で観察・分類した.なお,この間の火山灰はいずれも礫サイズを含まず,中流砂サイズ以下(大半はシルトサイズ以下)であった.
 6月22日から28日にかけては,噴煙高度数百~千数百m程度の連続噴火が断続的に発生していた.火山灰は主に,斜長石や輝石などの遊離結晶片(C)、黒色や灰色の不透明岩片(DL),しばしば黄鉄鉱を伴う白色不透明岩片(WL),赤色~橙色の酸化岩片(RL),緻密でやや透明感のある淡色粒子(LP),そして光沢を有し発泡痕のある黒色~暗褐色ガラス片(DG)を含んでいた.特にDGは6月22日~28日までの火山灰において1 %未満しか含まれておらず,気泡内が白色物質で充填されているものが多かった.時間経過とともにDLの割合は減少し,LPの割合が増加する傾向が見られた.このような特徴から,6月22日~28日の火山灰は,新燃岳火口内の2011年溶岩や2018年溶岩(一部熱水変質部)を破壊したものが主体であると考えられる.LPの増加は,破砕する溶岩の場所あるいは深度の違いを反映している可能性がある.
 一方,7月2日の噴火はそれまでより明らかに大きく,噴煙高度が初めて2000 mを超え,噴煙量はやや多量,噴火中には傾斜計の動きも見られた.7月2日火山灰ではDGの割合が3 %と6月に比べて数倍に増加し,その多くは気泡内に白色物質を含まない新鮮な発泡ガラス片であった.これらDG粒子の形態は流動的で,地表付近で赤色酸化した岩片を包有しているものも確認されたことから,新たに供給されたマグマの破片であることが強く示唆される.続く7月3日には噴煙高度5000 mの噴火が発生し,この火山灰ではDGが再び減少し,気泡内に白色物質が付着したものや発泡痕を有する不透明暗色岩片(DL)が多数観察された.これはDGが変質や結晶化を経てDLの一部を形成した可能性を示している.7月4日にはDGが再度増加したが,気泡内や隙間を白色物質が埋めたものが多かった.さらに7月4日から6日にかけて採取された火山灰には,従来の粒子に加えて,ガラス光沢を有する緻密な黒色~暗褐色岩片(GL)が顕著に認められるようになった.このGL粒子は7月4日火山灰で約4 %,7月5日火山灰で約15 %,7月5~6日火山灰で約18 %を占めていた.一方,同期間におけるDGの含有量は2~6 %,DLは40 %前後で比較的安定していた.DGは,気泡内に白色物質を含まない新鮮なものが主体であった.
 これらの特徴から,7月2日~6日の噴火でも主に新燃岳火口内に既に存在する2011年や2018年溶岩の破片が主要構成物だったと推察されるが,DGのような流動的な形態を持つ新鮮なマグマ破片が継続的に噴出していることも明らかになった.特にGL粒子の出現は,今回新たに供給されたマグマが火口内や地下で脱ガスおよび結晶化を受けた後に噴出している可能性を示唆している.
 霧島山新燃岳2025年噴火では,連続的な火山灰採取と観察によって,刻々と火山灰構成粒子の量比が変化していることが明らかとなった.今後は,構成粒子の組織や化学組成分析を行うなどして,より一層の噴火活動推移の理解に取り組んでいく必要がある.