講演情報
[T14-O-6][招待講演]中部九州阿蘇地域におけるマグマ活動の時間変化とそのテクトニクス背景
*三好 雅也1、角野 浩史2、仙田 量子3、佐野 貴司4、新村 太郎5、古川 邦之6、川口 允孝7、長谷中 利昭8 (1. 福岡大学理学部、2. 東京大学先端科学技術研究センター、3. 九州大学比較社会文化研究院、4. 国立科学博物館理学研究部、5. 熊本学園大学経済学部、6. 愛知大学経営学部、7. 東京大学地震研究所、8. 熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター)
【ハイライト講演】 三好雅也会員らは中部九州の火山岩の岩石学学的研究に基づき、九州直下に沈み込んだスラブ起源流体のマントルへの関与を研究してきた。阿蘇地域の400万年間に及ぶ火山活動、マグマの劇的変化から、その背景となる沖縄トラフの拡大やフィリピン海プレートの関与までを論じる「阿蘇科学」の最先端を見逃すな。 ※ハイライト講演とは...
キーワード:
マグマ活動、テクトニクス、K-Ar年代、地球化学、阿蘇地域
中部九州阿蘇地域における火山活動様式は,カルデラ形成期とその前後で大きく異なり,各活動期におけるマグマの成因も異なることが明らかになってきている.本講演では,これらの活動期におけるマグマの特徴と成因について述べる.
先カルデラ期(Aso-1噴火,266 kaより前)の阿蘇地域における火山活動は,主に複数枚の分厚い溶岩の流出で特徴付けられる(先阿蘇火山岩類,小野・渡辺,1985).先阿蘇火山岩類の岩質は玄武岩~流紋岩と幅広く,特に安山岩が卓越している.先阿蘇火山岩類のSr同位体比は幅広く(0.7036~0.7046),地殻同化作用が主たる分化プロセスであったと考えられる.先阿蘇火山岩類のK-Ar年代値は0.8~0.4 Ma に集中し,この年代は北部九州における引張応力場における大規模溶岩流の活動時期と一致する.阿蘇カルデラ西方に位置する権現山を構成する玄武岩質安山岩溶岩(高Mg安山岩)は,先阿蘇火山岩類には含まれないが,阿蘇地域周辺において最も古い溶岩のひとつである(3.9 Ma;新村ほか,2008).
カルデラ形成期(266~89 ka,松本ほか,1991)の火山活動は,先カルデラ期とは対照的に4回の大規模火砕噴火(Aso-1~4)で特徴付けられ,それぞれの噴火の前には巨大なマグマ溜りが形成されていたとされる(小野・渡辺,1985).カルデラ形成期の噴出物も玄武岩~流紋岩と幅広く,供給システムとしては化学的に成層したマグマ溜り(Kaneko et al., 2007,2015)や動的なマグマ循環モデル(Miyagi et al., 2023)が提案されている. Aso-1からAso-2~Aso-4噴出物へとSr同位体比は低く均質になる(0.7040~0.7041; Hunter, 1998).これはマントル由来の玄武岩マグマの継続的な供給と,それに伴う巨大マグマ溜りの形成を示唆している.
後カルデラ期の火山活動(89 ka以降)は,カルデラ内において複数の成層火山および単成火山を形成する活動で特徴付けられる(小野・渡辺,1985).後カルデラ期火山噴出物の化学組成も玄武岩~流紋岩と多様であるが,それらに系統的時間変化はみとめられない(Miyoshi et al., 2012).後カルデラ期火山噴出物はAso-4噴出物よりも不均質なSr同位体比を示すため,それらはAso-4マグマの残存物ではなく,後カルデラ期に新たに生成されたマグマであると考えられる(Miyoshi et al., 2011).
上述のとおり,阿蘇地域における火山活動様式,マグマの化学組成および成因は,過去400万年間に劇的な変化を遂げてきた.特に苦鉄質マグマの時間変化は,テクトニクスの変動と密接に関連している可能性がある.3.9 Ma の高Mg安山岩の活動は,北部九州前弧域における高Mg安山岩の活動期(5.2~3.6 Ma)と重複し,その成因の一つとして沖縄トラフの拡大の影響が考えられる(Miyoshi et al., 2008).一方,0.8 Ma 以降の先カルデラ期~後カルデラ期を通じて活動した玄武岩マグマは島弧ソレアイトである.スラブ起源流体のトレーサーである苦鉄質噴出物のホウ素含有量は,3.9 Maから後カルデラ期にかけて増加傾向を示し,これはフィリピン海プレートの沈み込みの影響が時間とともに強まったことを示唆している.
文献
Hunter (1998) Jour. Petrol., 39, 1255–1284.
Kaneko et al. (2007) Jour. Volcanol. Geotherm. Res., 167, 160–180.
Kaneko et al. (2015) Jour. Volcanol. Geotherm. Res., 303, 41–58.
松本ほか(1991)日本火山学会1991年秋季大会講演予稿集,73.
Miyagi et al. (2023) Jour. Petrol., 64, 1–25.
Miyoshi et al. (2008) Jour. Min. Petr. Sci., 103, 183–191.
Miyoshi et al. (2011) Jour. Min. Petr. Sci., 106, 114–119.
Miyoshi et al. (2012) Jour. Volcanol. Geotherm. Res., 229-230, 64–73.
小野・渡辺(1985)火山地質図4,地質調査所.
新村ほか(2008)熊本学園大学論集『総合科学』,14,23–37.
