講演情報
[T14-O-7]布田川断層を貫通したボーリング孔における深度300m以深の断層破砕帯内の亀裂を充填する粘土
*澁谷 奨1、林 為人2、神谷 奈々2 (1. 株式会社地圏総合コンサルタント、2. 京都大学大学院工学研究科)
キーワード:
布田川断層、断層破砕帯、流入粘土、亀裂、X線回折法
熊本県益城町では,2016年の熊本地震に際して活動した布田川断層を貫通した学術ボーリングFDB孔(掘削長692 m)の掘削が京都大学により実施された(京都大学, 2018).FDB孔では深度約350~600 mの区間に布田川断層の破砕帯が確認されており,深度354~514 mの先阿蘇火山岩類の安山岩が分布する区間において,多くの開口亀裂に粘土が充填する(Shibutani et al., 2022).本講演では,2016年熊本地震の際に活動したとされるFDB孔の深度461 mの断層周辺で確認される亀裂を充填する粘土を対象に肉眼観察とX線回折分析を行った結果を基に,粘土の特徴と成因について報告する.
亀裂を充填する粘土は,全体に淘汰の良い非常に細粒な粒子からなる半固結の粘土である.粘土は,均質なものと葉理のような層状構造がみられるものがある.粘土の色調は,黄褐色,赤褐色,暗褐~淡褐色を示す.赤褐色の粘土が色調の異なる粘土を割るように貫入する構造を持つこともある.また,粘土内には,少量の安山岩の岩片を含む場合がある.母岩である安山岩と粘土の境界面には,横ずれセンスの条線が確認されることがあり,粘土内では粘土の層状構造を切る亀裂がみられる.
X線回折分析は,深度460~500 mの区間で確認された亀裂を充填する粘土を対象に計5試料,粘土と接する母岩の安山岩を対象に計3試料で行った.分析の結果,定方位で分析を行った黄褐色と赤褐色の粘土は,スメクタイトをやや多く含み,雲母類,カオリナイト,ハロイサイトを僅かに含む.粘土鉱物以外では,石英,斜長石をやや多く含み,普通角閃石,赤鉄鉱,磁鉄鉱~磁赤鉄鉱を僅かに含む.不定方位で分析を行った暗褐~淡褐色の粘土は,黄褐色と赤褐色の粘土と類似した粘土鉱物を含むが,粘土鉱物以外で普通輝石,斜方輝石,石膏を僅かに含む.一方,母岩の安山岩は,粘土鉱物を含まず,斜長石を多く含み,普通輝石,斜方輝石,赤鉄鉱,磁鉄鉱~磁赤鉄鉱を僅かに含む.石英と普通角閃石は,母岩の安山岩には含まれず,粘土にのみ認められる.斜長石は,粘土と安山岩の両方に含まれるが,安山岩での相対的な含有率(石英指数QI)を粘土と比較すると2.5倍以上高いことも特徴である.
断層破砕帯内では,断層運動により形成される断層粘土や熱水変質粘土,流入粘土など,成因が異なる粘土が形成されることがあり,これらの粘土は,色調や粒度分布,粘土鉱物の種類,化学組成などが異なることが知られている(例えば,脇坂ほか, 2002).流入粘土は,山根・荒谷(2017)の定義によれば,岩盤の開口亀裂を充填する未固結~半固結状の黄褐色粘土で,粘土が地下水流動に伴い開口亀裂に移動・堆積したものとされている.本研究で確認された粘土は,脇坂ほか(2002)の粘土を構成する粘土鉱物の組み合わせを参考にすると,風化粘土や流入粘土に特徴的に含まれるハロイサイト,流入粘土に含まれることが多いスメクタイトが認められる.加えて,粘土に見られる層状構造や粒度特性は,先行研究で報告されている流入粘土に類似しており,母岩の安山岩に含まれない鉱物(石英,普通角閃石)が粘土内で認められたことから,布田川断層の破砕帯内に見られる多くの粘土は流入粘土であると考えられる.
断層破砕帯が地下水の流動経路としての役割があることは先行研究において知られている(例えば,Faulkner et al., 2010).本研究の亀裂を充填する粘土が存在する区間は,母岩の間隙以外にき裂間隙が存在することがShibutani et al. (2024)により確認され,断層破砕帯内の岩盤において地下水流動の可能性があることが示唆されている.これらの先行研究は,布田川断層の破砕帯内に地下水流動の影響により形成される流入粘土が存在することと調和的である.
引用文献
京都大学(2018)平成29年度原子力施設等防災対策等委託費(追加ボーリングコアを用いた断層破砕物質の分析)事業_(2), https://www.nsr.go.jp/nra/chotatsu/yosanshikou/itaku_houkoku_h29.html.;Shibutani et al. (2022) Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 23(1), e2021GC009966.;脇坂ほか(2002)土木技術資料,44-3,34-39.;山根・荒谷(2017)応用地質技術年報,36,63-70.;Faulkner et al. (2010) J. Struct. Geol. 32, 1557-1575.;Shibutani et al. (2024) Materials Transactions, 65(8), 844-851.
亀裂を充填する粘土は,全体に淘汰の良い非常に細粒な粒子からなる半固結の粘土である.粘土は,均質なものと葉理のような層状構造がみられるものがある.粘土の色調は,黄褐色,赤褐色,暗褐~淡褐色を示す.赤褐色の粘土が色調の異なる粘土を割るように貫入する構造を持つこともある.また,粘土内には,少量の安山岩の岩片を含む場合がある.母岩である安山岩と粘土の境界面には,横ずれセンスの条線が確認されることがあり,粘土内では粘土の層状構造を切る亀裂がみられる.
X線回折分析は,深度460~500 mの区間で確認された亀裂を充填する粘土を対象に計5試料,粘土と接する母岩の安山岩を対象に計3試料で行った.分析の結果,定方位で分析を行った黄褐色と赤褐色の粘土は,スメクタイトをやや多く含み,雲母類,カオリナイト,ハロイサイトを僅かに含む.粘土鉱物以外では,石英,斜長石をやや多く含み,普通角閃石,赤鉄鉱,磁鉄鉱~磁赤鉄鉱を僅かに含む.不定方位で分析を行った暗褐~淡褐色の粘土は,黄褐色と赤褐色の粘土と類似した粘土鉱物を含むが,粘土鉱物以外で普通輝石,斜方輝石,石膏を僅かに含む.一方,母岩の安山岩は,粘土鉱物を含まず,斜長石を多く含み,普通輝石,斜方輝石,赤鉄鉱,磁鉄鉱~磁赤鉄鉱を僅かに含む.石英と普通角閃石は,母岩の安山岩には含まれず,粘土にのみ認められる.斜長石は,粘土と安山岩の両方に含まれるが,安山岩での相対的な含有率(石英指数QI)を粘土と比較すると2.5倍以上高いことも特徴である.
断層破砕帯内では,断層運動により形成される断層粘土や熱水変質粘土,流入粘土など,成因が異なる粘土が形成されることがあり,これらの粘土は,色調や粒度分布,粘土鉱物の種類,化学組成などが異なることが知られている(例えば,脇坂ほか, 2002).流入粘土は,山根・荒谷(2017)の定義によれば,岩盤の開口亀裂を充填する未固結~半固結状の黄褐色粘土で,粘土が地下水流動に伴い開口亀裂に移動・堆積したものとされている.本研究で確認された粘土は,脇坂ほか(2002)の粘土を構成する粘土鉱物の組み合わせを参考にすると,風化粘土や流入粘土に特徴的に含まれるハロイサイト,流入粘土に含まれることが多いスメクタイトが認められる.加えて,粘土に見られる層状構造や粒度特性は,先行研究で報告されている流入粘土に類似しており,母岩の安山岩に含まれない鉱物(石英,普通角閃石)が粘土内で認められたことから,布田川断層の破砕帯内に見られる多くの粘土は流入粘土であると考えられる.
断層破砕帯が地下水の流動経路としての役割があることは先行研究において知られている(例えば,Faulkner et al., 2010).本研究の亀裂を充填する粘土が存在する区間は,母岩の間隙以外にき裂間隙が存在することがShibutani et al. (2024)により確認され,断層破砕帯内の岩盤において地下水流動の可能性があることが示唆されている.これらの先行研究は,布田川断層の破砕帯内に地下水流動の影響により形成される流入粘土が存在することと調和的である.
引用文献
京都大学(2018)平成29年度原子力施設等防災対策等委託費(追加ボーリングコアを用いた断層破砕物質の分析)事業_(2), https://www.nsr.go.jp/nra/chotatsu/yosanshikou/itaku_houkoku_h29.html.;Shibutani et al. (2022) Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 23(1), e2021GC009966.;脇坂ほか(2002)土木技術資料,44-3,34-39.;山根・荒谷(2017)応用地質技術年報,36,63-70.;Faulkner et al. (2010) J. Struct. Geol. 32, 1557-1575.;Shibutani et al. (2024) Materials Transactions, 65(8), 844-851.
