講演情報

[T5-O-5]浅部沈み込み帯における巨大地震後の断層帯の強度回復過程
-JTRACK・JFASTの水理特性に関する掘削データの比較-

*細野 日向子1,2、濱田 洋平3、奥田 花也3、大坪 誠1、谷川 亘3、廣瀬 丈洋3,2、Conin Marianne4、Fulton Patrick5、Kirkpatrick Jamie6、小平 秀一3、Regalla Christine7、氏家 恒太郎8、江口 暢久3、前田 玲奈3、奥津 なつみ3、Sean Toczko3 (1. 国立研究開発法人産業技術総合研究所、2. 広島大学、3. 国立研究開発法人海洋研究開発機構、4. ロレーヌ大学、5. コーネル大学、6. ネバダ大学、7. ノーザンアリゾナ大学、8. 筑波大学)
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キーワード:

JTRACK、透水テンソル

 地震の発生に伴い、震源断層の断層強度は大きく低下するが、すべりが停止した後、時間の経過とともに断層強度は回復(ヒーリング)する(e.g., Dieterich, 1972)。しかし、沈み込み帯で発生する海溝型巨大地震に伴う断層の強度回復が実際にどのように進行するのか、その実態は依然として明らかになっていない。自然界の内陸地震断層の調査では、断層面だけでなくより広範囲にわたる断層ダメージゾーンにおいて亀裂の閉口に伴う浸透率の低下が、地震後の断層面の強度回復と関連付けられている(e.g., Xue et al., 2013; Kitagawa & Kano, 2016)。そこで本研究では、2011年の東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震)に着目し、プレート境界断層周辺の浸透率の時間変化を解析することで、海溝型巨大地震後の断層帯の強度回復過程の理解を試みた。 東北沖地震ののち、国際深海科学掘削計画(IODP)により2012年にJFAST、2024年にJTRACKが東北沖地震の最大すべりを起こした地点で実施された。本研究では、2つの航海で実施された掘削同時検層によって得られた孔壁の比抵抗画像から亀裂などの浸透率の高い構造を抽出し、透水テンソル理論を適用して3次元の浸透率(透水テンソル)を算出した。さらに、掘削孔深度方向に連続して得られた透水テンソルの時間変化に基づき、沈み込み帯浅部において、どの深度でどの向きの浸透率がどの程度変化したのかを評価した。 2012年と2024年の平均透水テンソルの深度プロファイルを比較したところ、海底下100〜700 mの範囲では、浸透率に大きな変化は認められず、深度方向にも顕著な変化は見られなかった。一方で、プレート境界断層直上に相当する海底下700〜800 mの領域では、2024年における浸透率が2012年と比較して約4分の1に低下していた。この浸透率の低下は、地震時に開口したプレート境界断層のダメージゾーンに位置する亀裂がプレートの沈み込みに伴う応力の変化により徐々に閉塞した結果と考えられる。すなわち、700〜800 mの深度域がプレート境界断層における地震間の運動によって歪みを蓄積する深度として機能する可能性が示唆される。

引用文献
Dieterich, J. H. (1972). Time‐dependent friction in rocks. Journal of Geophysical Research, 77(20), 3690-3697.
Kitagawa, Y., & Kano, Y. (2016). Changes in permeability of the Nojima fault damage zone inferred from repeated water injection experiments. Earth, Planets and Space, 68, 1-9.
Xue, L., Li, H. B., Brodsky, E. E., Xu, Z. Q., Kano, Y., Wang, H., ... & Huang, Y. (2013). Continuous permeability measurements record healing inside the Wenchuan earthquake fault zone. Science, 340(6140), 1555-1559.