講演情報

[T5-O-6]微細構造観察に基づく地震サイクル間の動的な岩石-流体間反応:白亜系四万十帯牟岐メランジュ・南阿波断層

*細川 貴弘1、 橋本 善孝1、Rüdiger KILIAN2、Michael STIPP2 (1. 高知大学、2. Martin Luther University Halle-Wittenberg)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

四万十帯、微細構造、岩石-流体間反応、ウルトラカタクレーサイト、カソードルミネッセンス

 沈み込みプレート境界において流体は、変形及び物質の再分配に大きな役割を果たすと考えられる(e.g., Fisher et al., 2021)。変形と石英のセメンテーションは、流体圧と断層強度に大きな影響を与える。そのため、過去の沈み込み帯における岩石-流体間反応を研究することは重要である。これまで、走査型電子顕微鏡-カソードルミネッセンス(SEM-CL)を用いて、岩石-流体間反応について研究されてきた(e.g., Knipe and Lloyd, 1994)。CL像は、他の手法では観察できない微細構造や微量元素(Ti、Alなど)の変化を検出でき、石英脈の複雑な形成履歴の復元に広く利用されてきた(e.g., Götze, 2012)。本研究では、白亜紀四万十帯の牟岐メランジュの北縁断層である南阿波断層のウルトラカタクレーサイトの微細構造を観察することで、地震サイクル間の岩石-流体間反応を明らかにする。

牟岐メランジュは、主に砂岩ブロックと頁岩マトリックスからなり、少量の玄武岩、チャート、凝灰岩、赤色頁岩を伴う構造性メランジュである。牟岐メランジュの最北端には、主に整然とした砂岩層からなる日和佐層との境界をなす南阿波断層があり、これは沈み込みプレート境界のルーフスラストと解釈されている。断層帯は、厚さ約1-2 mの葉状カタクレーサイトと、薄い(最大数 mm)ウルトラカタクレーサイトから構成される。また、この断層帯では、カタクレーサイト内からシュードタキライトが発見されている (e.g., Kitamura et al.,2005)。

本研究では、厚さ0.1〜0.2 mmのウルトラカタクレーサイト層を含む断層岩を、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡-カソードルミネッセンス(SEM-CL)を用いて分析した。ウルトラカタクレーサイトは、細粒で淘汰の悪い砕屑物で構成されている。ウルトラカタクレーサイト内及び近傍の石英粒子には微小亀裂、水圧破砕、伸長亀裂、成長帯を示すCLパターンが観察された。BSE像や偏光顕微鏡像で単一粒子に見える領域は、中程度から高いCL強度の石英粒子の集合体であり、低いCL強度の石英マトリックスに囲まれている。微小亀裂内の石英セメントも低いCL強度を示し、脆性変形による粒径の減少と微小亀裂の形成が石英の沈殿を伴っていることを示唆する。一方、水圧破砕や伸長亀裂内の石英セメントは高いCL強度を示し、急速な成長に伴う微量元素の取り込みと一致する(e.g., Landtwing and Pettke, 2005)。これらの特徴は、地震性すべりに伴う静岩圧を超える流体圧と、それに続く急減圧や移流による石英の急速な沈殿によって説明できる。

これらの観察結果は、ウルトラカタクレーサイトが脆性破壊と石英のセメンテーションのサイクルを記録しており、地震サイクル中の動的な岩石-流体間反応を反映していることを示唆してる。これらのプロセスは、断層強度の回復、そして地震発生間隔に影響を与える可能性がある。

引用文献
Fisher et al., 2021, Geosphere, 17(6), 1686–1703.
Knipe and Lloyd, 1994, Pure and Applied Geophysics, 143(1), 229-254.
Götze, 2012, Microscopy and microanalysis, 18(6), 1270-1284.
Kitamura et al., 2005, Tectonics, 24(5).
Landtwing and Pettke, 2005, American Mineralogist, 90(1), 122-131.