講演情報
[T5-O-9]沈み込み帯震源域における地殻の弾性率分布と地震発生帯への影響
*高 慎一郎1、濱田 洋平2、奥田 花也2、田村 芳彦2、坂口 有人1 (1. 山口大学大学院創成科学研究科、2. 海洋研究開発機構)
キーワード:
四万十帯、地震発生帯、沈み込み帯、三軸圧縮試験、弾性率
地震は断層の摩擦すべりによって発生し、その挙動はすべり面の速度弱化特性とシステム全体の弾性特性によって決められる(Dieterich, 1978)。従来、ある一定より深い領域が地震発生帯であり、それより浅部は未固結堆積物が速度強化特性を示すため、安定すべりが生じるとされてきた(Scholz, 1998; Ikari et al., 2007)。しかし、2011年東北地方太平洋沖地震では、非地震性とされていた浅部領域でも大規模な地震性すべりが発生した(Ide et al., 2011)。また、岩石の高速剪断試験により、様々な種類の岩石がその組成に関係なく速度弱化することが明らかとなった(Di Toro et al., 2011)。これらは速度弱化特性の有無だけでは地震発生帯の範囲を一義的に定義できない可能性を示唆する。そのため地震の周期や断層の変位量に影響を与える地殻の弾性特性についても、定量的に評価する必要がある。
西南日本の四万十帯は南海トラフ付加体の陸上延長であり、過去の震源深度の岩石が露出している。それは古地温約110~320℃までの地質体であり、南海トラフにおける地震発生帯の温度領域と大きく重なる(Hyndman and Wang, 1995)。本研究では四国・九州の四万十帯に分布する岩石に加え、マリアナ島弧の海洋底の岩石に対し、封圧下で圧縮試験を行う。過去の沈み込み帯震源域を構成していた岩石の弾性率を定量的に評価し、地殻の弾性特性が沈み込み帯震源域の範囲を制限する可能性について検討する。本研究は震源域の物性構造に対する新たな制約を与えるものであり、沈み込み帯における地震発生メカニズムの理解に役立つことが期待される。
沈み込み帯の上盤を構成する堆積岩として砂岩と泥岩を、古地温約110~140℃の四国東部日和佐地域から7試料、古地温約150~250℃の四国中西部地域から13試料、古地温約320℃の九州東部延岡地域から5試料採取した。下盤の海洋地殻を構成する岩石として、四国中西部地域および九州東部延岡地域から3試料、マリアナ島弧の海洋底露頭から2試料を用いた。
変位計で変形を測定し、簡易補正で弾性率を算出したが、発表では詳細補正した値を用いる。四国中西部・九州東部の堆積岩の弾性率は、55.12±5.26 GPaの範囲に集中した。これらの岩石は、地震発生深度の上限から下限に相当する深度のものであるが、弾性率は古地温に関係なくほぼ一定であった。一方、日和佐地域に分布する古地温約110℃の岩石の弾性率は42.76 GPa前後であり、他より顕著に低い値であった。海洋地殻の岩石として、マリアナ島弧の玄武岩質安山岩の弾性率は54 GPa以上であり、四国中西部や九州東部の四万十帯に分布する玄武岩も54~74 GPaであった。下盤を構成する岩石の弾性率は、上盤の堆積岩よりも同等またはそれ以上の高い値を示した。
沈み込み帯においては上盤と下盤で異なる弾性構造を持つと考えられる。下盤の海洋地殻の玄武岩は、沈み込む前から54〜58 GPaの高い弾性率を示し、沈み込んだ後も地温210℃付近で約54 GPa、さらに深い領域ではより高い弾性率を示すが、一貫して高い値である。一方、上盤では浅部の未固結堆積物の弾性率はおそらく極めて低い。これが温度にして約110℃付近で約43 GPaになり、地温約150℃付近で約55 GPaに到達して、地震発生帯である約150~320℃の間ではこの高い弾性率が一定のまま保たれる。
上盤と下盤が非対称な弾性構造を成し、プレート境界が固着していた場合、下盤が一定速度で沈み込むと、浅部では弾性率の小さい上盤が選択的に歪む。ただし上盤浅部の弾性率は小さいため応力レベルはあまり上がらない。地温150℃以上の深部になると、上盤の弾性率が下盤と同等に高くなるため、両方の岩盤が大きく歪み、かつ高い応力レベルになると予想される。たとえ浅部からプレート境界が固着し始めたとしても、上盤の弾性率が上昇する地温150℃以上にならなければ大地震は起こせないと考えられる。以上より、地殻を構成する岩石の弾性特性の分布は、沈み込み帯における地震発生帯の範囲を決定づける要因となり得ることが示唆される。
Dieterich, J. 1978, Rock friction and Earthquake Prediction. Giulio Di Toro et al. 2011, Nature, 471, 494-498. Hyndman, R. D. and Wang K. 1995, J Geophys Res, 100, B8, 15373-15392. Ide, S. et al. 2011, Science, 332, 1426-1429. Ikari M. J. et al. 2007, J Geophys Res, 112, B06423. Scholz, C. 1998, Nature, 391 37-42.
西南日本の四万十帯は南海トラフ付加体の陸上延長であり、過去の震源深度の岩石が露出している。それは古地温約110~320℃までの地質体であり、南海トラフにおける地震発生帯の温度領域と大きく重なる(Hyndman and Wang, 1995)。本研究では四国・九州の四万十帯に分布する岩石に加え、マリアナ島弧の海洋底の岩石に対し、封圧下で圧縮試験を行う。過去の沈み込み帯震源域を構成していた岩石の弾性率を定量的に評価し、地殻の弾性特性が沈み込み帯震源域の範囲を制限する可能性について検討する。本研究は震源域の物性構造に対する新たな制約を与えるものであり、沈み込み帯における地震発生メカニズムの理解に役立つことが期待される。
沈み込み帯の上盤を構成する堆積岩として砂岩と泥岩を、古地温約110~140℃の四国東部日和佐地域から7試料、古地温約150~250℃の四国中西部地域から13試料、古地温約320℃の九州東部延岡地域から5試料採取した。下盤の海洋地殻を構成する岩石として、四国中西部地域および九州東部延岡地域から3試料、マリアナ島弧の海洋底露頭から2試料を用いた。
変位計で変形を測定し、簡易補正で弾性率を算出したが、発表では詳細補正した値を用いる。四国中西部・九州東部の堆積岩の弾性率は、55.12±5.26 GPaの範囲に集中した。これらの岩石は、地震発生深度の上限から下限に相当する深度のものであるが、弾性率は古地温に関係なくほぼ一定であった。一方、日和佐地域に分布する古地温約110℃の岩石の弾性率は42.76 GPa前後であり、他より顕著に低い値であった。海洋地殻の岩石として、マリアナ島弧の玄武岩質安山岩の弾性率は54 GPa以上であり、四国中西部や九州東部の四万十帯に分布する玄武岩も54~74 GPaであった。下盤を構成する岩石の弾性率は、上盤の堆積岩よりも同等またはそれ以上の高い値を示した。
沈み込み帯においては上盤と下盤で異なる弾性構造を持つと考えられる。下盤の海洋地殻の玄武岩は、沈み込む前から54〜58 GPaの高い弾性率を示し、沈み込んだ後も地温210℃付近で約54 GPa、さらに深い領域ではより高い弾性率を示すが、一貫して高い値である。一方、上盤では浅部の未固結堆積物の弾性率はおそらく極めて低い。これが温度にして約110℃付近で約43 GPaになり、地温約150℃付近で約55 GPaに到達して、地震発生帯である約150~320℃の間ではこの高い弾性率が一定のまま保たれる。
上盤と下盤が非対称な弾性構造を成し、プレート境界が固着していた場合、下盤が一定速度で沈み込むと、浅部では弾性率の小さい上盤が選択的に歪む。ただし上盤浅部の弾性率は小さいため応力レベルはあまり上がらない。地温150℃以上の深部になると、上盤の弾性率が下盤と同等に高くなるため、両方の岩盤が大きく歪み、かつ高い応力レベルになると予想される。たとえ浅部からプレート境界が固着し始めたとしても、上盤の弾性率が上昇する地温150℃以上にならなければ大地震は起こせないと考えられる。以上より、地殻を構成する岩石の弾性特性の分布は、沈み込み帯における地震発生帯の範囲を決定づける要因となり得ることが示唆される。
Dieterich, J. 1978, Rock friction and Earthquake Prediction. Giulio Di Toro et al. 2011, Nature, 471, 494-498. Hyndman, R. D. and Wang K. 1995, J Geophys Res, 100, B8, 15373-15392. Ide, S. et al. 2011, Science, 332, 1426-1429. Ikari M. J. et al. 2007, J Geophys Res, 112, B06423. Scholz, C. 1998, Nature, 391 37-42.
