講演情報
[T5-O-10]地震発生帯の岩石の弾性的性質:スケール依存性および地震発生プロセスへの影響
*奥田 花也1、赤松 祐哉1、北村 真奈美2、澤井 みち代3 (1. 海洋研究開発機構、2. 産業技術総合研究所、3. 千葉大学)
キーワード:
四万十帯、コア、弾性波速度、スケール、地震
岩石の弾性的性質は地震発生プロセスを司るパラメータの一つである。弾性的性質は地震波速度から推定することができ、kmスケールでは1 Hzほどの低周波での地震波構造探査によって、cmスケールでは1 MHzほどの高周波の超音波によって、大構造や岩石サンプルの地震波速度の測定が行われてきた。とくに沈み込み帯においては、岩石サンプルの地震波速度の情報を用いて、断層強度に直接的に影響を及ぼす間隙水圧の推定が行われている。しかし異なる周波数での地震波速度は、空隙を移動する流体の効果によって含水条件では変化し、cmからkmまでの大きく異なるスケールを比較する場合には注意が必要である。
深海掘削では到達できない地震発生帯深度における岩石の弾性的性質とその解釈についてより理解を深めるため、本研究では高知県須崎市の四万十帯において、地震発生帯深度を経験したと解釈されている横浪メランジュの西方延長から採取された600 mにおよぶ陸上掘削コアを用い、その弾性的性質を測定した。まず浅部から深部までの全体をカバーするようにcmスケールの30サンプルを採取し、空隙率と乾燥・湿潤条件での1 MHzのP波およびS波速度を測定した。湿潤条件でのP波速度は5-6 km/s、空隙率は4%以下であった。これらのデータをDifferential Effective Medium theory (DEM)と比較することで、地震発生帯を構成する岩石のcmスケールでの弾性的性質は、代表的なアスペクト比が0.01程度の空隙で説明できることを明らかにした[1]。
次に600 mのコアから岩相の連続性の良い3か所を選択し、合計約130 mにわたって5 cm間隔で乾燥条件での1 MHzのP波速度を測定した。そして得られたP波速度を、上記で明らかにしたcmスケールでの空隙構造をもとに、DEMを用いて低周波極限における湿潤条件でのP波速度に変換した。この変換されたP波速度を、同じ深度でkHzオーダーの周波数によって坑内で計測されたmスケールのP波速度と比較すると、坑内計測のものが変換されたP波速度より1 km/sほど遅かった。この差はcmスケールのサンプルには含まれない、より大きなスケールの空隙構造、すなわちmスケールの亀裂の存在によってP波速度が下がったことを意味している[2]。
一般にkmスケールの大構造で見られる低いP波速度は異常間隙水圧と関連付けられることが多い。しかしmスケールの亀裂が空隙率にして数%入るだけでP波速度は急激に下がることがDEMから予想される。実際、上記のcmスケールとmスケールにおけるP波速度の差は、1%以下の空隙率に相当する亀裂の存在によって説明される。このような亀裂は高い透水率をもつため、異常間隙水圧をむしろ解消する方向に働く。よってこれまで地震波構造探査で見られる低P波速度領域は異常間隙水圧に相当するのではなく、大きな亀裂が多く存在する場所とも解釈することができる[2]。
ではこれらの弾性的性質は地震発生プロセスにどう影響するだろうか。cmスケールのサンプルの弾性波速度から岩石のcmスケールでの剪断剛性率を計算し、そこから速度状態依存摩擦構成則から導かれる、地震の核形成のための臨界核サイズを求めると、3から38 cmの破壊から地震が始まることが明らかになった。もし異常間隙水圧がある場合にはこのサイズは数mまで大きくなりうる。このサイズは剪断剛性率(すなわちS波速度の2乗)に比例し、大きな亀裂がある場合には小さくなる。しかしmスケールの亀裂が少量存在することで弾性的性質は大きく変化するため、地震の核形成に伴って徐々に大きくなる亀裂に対して、変形に伴って臨界核サイズが動的に変化し、それに応じて断層すべりの加速および破壊の進展が加減速される可能性がある[1]。
[1] H. Okuda, Y. Akamatsu, M. Kitamura, M. Sawai (2025). Elastic properties of rocks from the seismogenic zone and minimum fault size to nucleate megathrust earthquakes. Prog. Earth Planet. Sci. 12, 47. doi: 10.1186/s40645-025-00723-5
[2] Y. Akamatsu, H. Okuda, M. Kitamura, M. Sawai (2025). Mesoscale fractures control the scale dependences of seismic velocity and fluid flow in subduction zones. Tectonophysics. 896, 230606. doi: 10.1016/j.tecto.2024.230606
深海掘削では到達できない地震発生帯深度における岩石の弾性的性質とその解釈についてより理解を深めるため、本研究では高知県須崎市の四万十帯において、地震発生帯深度を経験したと解釈されている横浪メランジュの西方延長から採取された600 mにおよぶ陸上掘削コアを用い、その弾性的性質を測定した。まず浅部から深部までの全体をカバーするようにcmスケールの30サンプルを採取し、空隙率と乾燥・湿潤条件での1 MHzのP波およびS波速度を測定した。湿潤条件でのP波速度は5-6 km/s、空隙率は4%以下であった。これらのデータをDifferential Effective Medium theory (DEM)と比較することで、地震発生帯を構成する岩石のcmスケールでの弾性的性質は、代表的なアスペクト比が0.01程度の空隙で説明できることを明らかにした[1]。
次に600 mのコアから岩相の連続性の良い3か所を選択し、合計約130 mにわたって5 cm間隔で乾燥条件での1 MHzのP波速度を測定した。そして得られたP波速度を、上記で明らかにしたcmスケールでの空隙構造をもとに、DEMを用いて低周波極限における湿潤条件でのP波速度に変換した。この変換されたP波速度を、同じ深度でkHzオーダーの周波数によって坑内で計測されたmスケールのP波速度と比較すると、坑内計測のものが変換されたP波速度より1 km/sほど遅かった。この差はcmスケールのサンプルには含まれない、より大きなスケールの空隙構造、すなわちmスケールの亀裂の存在によってP波速度が下がったことを意味している[2]。
一般にkmスケールの大構造で見られる低いP波速度は異常間隙水圧と関連付けられることが多い。しかしmスケールの亀裂が空隙率にして数%入るだけでP波速度は急激に下がることがDEMから予想される。実際、上記のcmスケールとmスケールにおけるP波速度の差は、1%以下の空隙率に相当する亀裂の存在によって説明される。このような亀裂は高い透水率をもつため、異常間隙水圧をむしろ解消する方向に働く。よってこれまで地震波構造探査で見られる低P波速度領域は異常間隙水圧に相当するのではなく、大きな亀裂が多く存在する場所とも解釈することができる[2]。
ではこれらの弾性的性質は地震発生プロセスにどう影響するだろうか。cmスケールのサンプルの弾性波速度から岩石のcmスケールでの剪断剛性率を計算し、そこから速度状態依存摩擦構成則から導かれる、地震の核形成のための臨界核サイズを求めると、3から38 cmの破壊から地震が始まることが明らかになった。もし異常間隙水圧がある場合にはこのサイズは数mまで大きくなりうる。このサイズは剪断剛性率(すなわちS波速度の2乗)に比例し、大きな亀裂がある場合には小さくなる。しかしmスケールの亀裂が少量存在することで弾性的性質は大きく変化するため、地震の核形成に伴って徐々に大きくなる亀裂に対して、変形に伴って臨界核サイズが動的に変化し、それに応じて断層すべりの加速および破壊の進展が加減速される可能性がある[1]。
[1] H. Okuda, Y. Akamatsu, M. Kitamura, M. Sawai (2025). Elastic properties of rocks from the seismogenic zone and minimum fault size to nucleate megathrust earthquakes. Prog. Earth Planet. Sci. 12, 47. doi: 10.1186/s40645-025-00723-5
[2] Y. Akamatsu, H. Okuda, M. Kitamura, M. Sawai (2025). Mesoscale fractures control the scale dependences of seismic velocity and fluid flow in subduction zones. Tectonophysics. 896, 230606. doi: 10.1016/j.tecto.2024.230606
