講演情報

[T5-O-12]四国沖外縁隆起帯のネオテクトニクス

*芦 寿一郎1、照井 孝之介2 (1. 東京大学、2. ENEOS Xplora)
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キーワード:

南海トラフ、活断層、活褶曲、横ずれ断層

 室戸岬から足摺岬沖には海丘が断続的に配列し外縁隆起帯を形成している(図).音波探査記録では,室戸岬から南に伸びる背斜構造は東落ちの断層群で切られた東翼と緩やかに傾斜した西翼からなる(岡村, 1990, 地質雑など).Matsu’ura(2015, Geomorphology)は段丘年代より隆起速度の見積もりを行い,室戸岬およびその南方海域に南北走向・西傾斜の断層による断層関連褶曲の存在を推定した.粟田・杉山(1989, 地震)は,南海トラフの各前弧域に逆L字型の隆起帯が発達しているとし,それらがプレートの斜め沈み込みに伴う右横ずれ逆断層運動で形成されたとしている.一方,前杢(2001, 地学雑誌)は室戸岬周辺の段丘の高度から隆起の履歴を調べ,残留隆起の大半は陸に近い断層の千年オーダーの間隔の活動による可能性を指摘した.本研究では海域の地形および地下構造から四国沖外縁隆起帯の発達に関する情報を得ることを目的とした.用いたデータはJAMSTECより提供を受けた海底地形データと反射法地震探査データ,および白鳳丸KH-15-2, KH-16-5次航海において深海曳航式サブボトムプロファイラー(SBP)で得られた海底浅部地下断面である.
 室戸岬南方の室戸海丘から足摺岬沖には北東-南西方向に長さ約130 km,幅約20 kmの範囲に海丘が多数認められる.いずれも北東-南西方向に伸びた形状をしている.これらの海丘群を含めて海底地形には北西-南東方向の直線的なリニアメントが認められる.足摺海底谷がこのうちの1本のリニアメントを横断する地点では,海底谷の東側斜面は直線的であるのに対して,西側斜面は下流側において谷底が拡張している.また,リニアメントを境とした段差の下流側にはリニアメントと同じ方向に並んだplunge pool(滝壺)が発達し,リニアメントに沿った右横ずれによる海底谷の流路の変遷を示唆する(照井・芦,2024, 地質学会要旨).室戸海丘南西の西室戸海丘と足摺岬南方約70 kmの無名の海丘(南足摺海丘と仮称)では,深海曳航式SBP探査の浅部地下構造断面において海底面まで達する高角の断層が認められる(Ashi et al., 2018, JpGU abstract).西室戸海丘の小堆積盆では深部ほど北西への傾斜の増加が見られ,傾動の累積を示す堆積構造が確認できる.南足摺海丘では,高角の断層と撓曲に挟まれたホルスト状の地形が捉えられフラワー構造と解釈される.外縁隆起帯を横断する複数の反射法地震探査断面においては,これらの構造の深部への連続が確認できる.
 以上の外縁隆起帯付近に認められる構造の,1)海底地形の凹凸によらず直線的なリニアメント,2)海底谷の右ずれを示唆するリニアメントを境とした谷底の非対称な拡張,3)フラワー構造を伴う海底面に達する断層とそれらに対応するリニアメントから,これらのリニアメントは高角の右横ずれ成分を持った活断層によるものであると解釈できる.リニアメントが左ステップのところには高まりが分布し,右横ずれの圧縮変形によるものと説明できる.外縁隆起帯は室戸海丘において北東-南西方向から南北方向へ走向が急変しており,足摺岬沖から北西方向へ連続する外縁隆起帯に沿った右横ずれ変形は,室戸海丘から室戸岬にかけて圧縮をもたらす.室戸岬における前杢(2001)の研究を考慮すると,室戸岬の残留隆起に関わる主なイベントは,プレート境界型地震によるものではなく外縁隆起帯付近の千年オーダーの間隔の断層活動によるものと考えられる.