講演情報
[T5-O-13]日向灘の地形的・熱学的特徴 ―KS-21-08およびKS-25-03航海報告―
*木下 正高1、土岐 知弘2、橋本 善孝3、濱田 洋平4、KS-21-08 航海研究者1、KS-25-03 航海研究者1 (1. 東京大学地震研究所、2. 琉球大学理学部、3. 高知大学教育研究部、4. 海洋研究開発機構)
キーワード:
日向灘、熱流量、海山沈み込み、スロー地震
海山の沈み込みと上盤堆積物の相互作用により、両者とその境界面付近の応力場や有効強度は擾乱を受ける。それは巨大地震発生条件をmodifyし、おそらくは固着を弱めるであろう(Wang and Bilek, 2011など)。M8超の巨大地震発生が懸念される南海トラフの西端、日向灘周辺ではこれまでM8級の地震は発生していない。日向灘には、四国海盆と西フィリピン海盆の境界をなす、九州-パラオ海嶺(KPR)が沈み込んでいる。KPRとして沈み込んだ海山の周囲でスロー地震(微動・超低周波地震=VLFE・スロースリップ=SSE を総称)が時折発生し,震源位置が数十 km/day 程度で移動することが知られている。スロー地震の発生原因の一つが間隙水圧異常と提案されている(Takemura et al., 2023EPS; Ozawa et al., 2024JGR). 地下の流体(圧)異常を検出するためには、地震波解析から低速度層を検出し、かつ、科学掘削によりその場の間隙水圧を計測することが必要である。また上盤破砕帯などがあると、高圧の流体が破砕帯をつたって海底に湧出する可能性がある。 日向灘での反射法地震探査断面の解析により、BSR深度から熱流量が推定されている(Kinoshita et al., 2021 AGU)。海山の周辺では熱流量が40mW/m2を下回る低熱流量であり、特にLeading edgeでは20mW/m2といる超低熱流量が得られている。ただしこれらはBSR深度(海底下数百m)での熱流量であり、海底付近の局所的な水の流れや堆積等の擾乱は反映されないはずである。2021年8月(KS-21-18航海)および2025年4月(KS-25-3航海)に、日向灘での熱流量測定・コア採取・地形調査を行った(図)。プローブによる熱流量測定により33個の温度勾配が得られた。別途ピストンコアから得られた熱伝導率を用いて熱流量値を得ることができた。また沈み込んだ海山周辺の詳細な地形・表層構造が明らかになってきた。これまでに得られている反射法地震探査データから、日向灘沖で沈み込んだKPR(九州パラオ海嶺)上面の形状がある程度明らかになってきた。それを用いて海山上面でのSlip tendency (Ts)を推定し、前弧にあるToi smtのほぼ下にあるKPRの縁にそってTsが大きいことが示された(Kinoshita et al., 2025JpGU)。その場所のうち、特に北側(沈み込む前方側)でTremorなどが頻発している。地形およびSBPを精査した結果、Toi smtとその北側は、NNE-SSW走向のリッジやBasinが卓越している。おそらくは(海山沈み込みとは独立な)前弧付加体形成に伴うfrontal / imbricate thrustsであろうと推測する。そのような構造に対して、Toi smtの陸側(NW側)の地形がたかまっており、リッジが陸側にやや曲げられているように見える。SBPの記録と地形から、Toi smtの西の表層が圧縮性の構造が見て取れる。一方、海山のE~SE斜面には円弧滑りや地すべりと思われる地形が多数見受けられる。海山のNW側の地震構造でも逆断層的な構造がみえており、海山の沈み込みに伴う変形場が海底地形にも表れていると推測する。なお、海山の北(31°25-30’N)にある深海谷は、おそらく既存の断層性高まりを浸食していると考えられる。海底での熱流量計測の結果、限られた点数ながら、基本的には30-60 mW/m2 程度の低熱流量が観測された。一方、Toi smtの陸側、NE-SW方向に沿って、70 mW/m2を超える高熱流量が存在することが分かった。特に海山NEの海底谷において、300mW/m2を超える高い熱流量が観測されたのは特筆すべきである。低熱流量は,BSRから推定された値とほぼ整合的である。海洋地殻基盤(あるいはKPR)の形成年代)が古いことが一因と考えられる。一方、Toi smt陸側の高熱流量はBSRからの推定値とは整合しない。その原因としては、地形効果や堆積・浸食効果がありうるが、海山沈み込みによる周囲の応力異常・水理擾乱に起因する流体循環、特に地下の断層破砕帯を通じた局所的な流体上昇の可能性があるが、今回はコア試料の間隙水化学分析から特に流体上昇を示す証拠は得られていない。本発表では、このほかコア試料のCTや物性、記載などについても提示する予定である。なお本研究は科研費(基盤S、24H00020, 2024-2028) による。また東京大学大気海洋研究所の共同利用公募航海により実現した。感謝いたします。

