講演情報

[T4-O-15]三波川帯におけるマイクロブーディン構造を用いた応力・歪解析

*外山 和也1、道林 克禎1 (1. 名古屋大学大学院環境学研究科(岩鉱))
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キーワード:

マイクロブーディン、古差応力計、三波川帯、レオロジー、藍閃石

 藍閃石や紅簾石のような柱状の変成鉱物には,変成作用を受けると差応力で破断して列車が連なったようなマイクロブーディン構造を示すことがある.この構造を有するメタチャート(珪質変成岩)中の紅簾石や断層岩中の電気石から差応力を推定するマイクロブーディン古差応力計が提案された.しかし,これらの古差応力計から算出される差応力は相対値にとどまっている.本研究では,三波川帯の結晶片岩類に着目し,マイクロブーディン古差応力計を再検討することで応力・歪履歴を求める方法を考案した.
三波川帯で採取された試料について研磨薄片を面構造(片理)に垂直で伸長線構造に平行な面(XZ面)で作成した.主要な構成鉱物は石英,曹長石,赤鉄鉱,白雲母,藍閃石,紅簾石であり,藍閃石,紅簾石は柱状であった.マイクロブーディン構造について,各柱状鉱物のアスペクト比(長軸/短軸)やブーディン間距離などの形状指標を計測した.研磨薄片内の数100個以上の柱状鉱物粒子を効率的に計測するため,Python v.3.12.4 (Spyder v.5.5.1.)を用いた画像解析プログラムを開発した.また,電子線後方散乱回折(EBSD)法による結晶方位測定から石英の結晶方位ファブリックと粒径を測定した.
和歌山県四邑川地域のサンプルについて,研磨薄片内の藍閃石の多くはマイクロブーディン構造を示しており,非ブーディン粒子に比べてアスペクト比が高い傾向にあった.ブーディン化した粒子は主に2~3つに分割されていたが,中にはそれ以上に分割された粒子も確認された.一方,石英の平均粒径から動的再結晶粒径差応力計を用いることで差応力を約43 MPaと推定した.
測定したマイクロブーディンの形状パラメーターをLi & Ji (2020)のマイクロブーディン古差応力計(以下,LJ法)に適用した.しかし,LJ法ではブーディン間距離と柱状鉱物のアスペクト比の関係をうまく説明できないため,LJ法の一部を改良した新しい方法(LJ-T法)を導出した.加えて,動的再結晶粒径差応力計の結果とマイクロブーディン古差応力計を組み合わせることで,藍閃石の引張強度が639 MPaと算出された.さらに,ブーディン間距離と柱状鉱物の長軸の長さを用いて歪量,引張強度を用いて各マイクロブーティンが被った差応力を計算した.結果として歪量の小さいマイクロブーディンほど被った差応力が増大する傾向が確認された.以上の結果は,本研究で開発したマイクロブーディン古差応力計(LJ-T法)が,変成岩の応力・歪履歴を解明する強力なツールになることを示す.
文献:Masuda et al., 2004, J. Metamor. Geol., 22; Li and Ji., 2020, J. Struct. Geol., 130; Cross et al., 2017, Geophys. Res. Lett., 44, 6667-6674.