講演情報
[T4-O-16]低変成度泥質片岩の石英曹長石レイヤの変形組織:中部地方渋川地域三波川帯の例
*片桐 星来1、道林 克禎2 (1. 産業技術総合研究所地質調査総合センター、2. 名古屋大学大学院 環境学研究科(岩鉱))
キーワード:
三波川変成帯、泥質片岩、石英、曹長石、結晶方位定向配列
低温高圧型の変成岩は沈み込み帯における変形を記録しており,沈み込み帯の構造発達を推定する上でこれらの岩石の変形記録を解析することは非常に重要である.特に,変成温度300℃から350℃にあたる緑泥石帯相当の低変成度変成岩の形成場は石英曹長石の脆性-塑性遷移領域(Stöckhert, et al., 1999, Papeschi et al., 2018)であり,地震発生領域の下限として注目されている.高圧型変成岩の変形組織は,これまで珪質片岩や変形石英脈など,石英の岩石に占める割合が非常に高い岩石で多くの研究例がある.それに対して本研究では,より普遍的な低変成度変成岩の沈み込み帯における変形記録を明らかにすることを目的として,三波川変成岩類においてより広域に分布する泥質片岩の石英曹長石レイヤについて解析を行った.研究地域の中部地方渋川地域には御荷鉾緑色岩類と三波川結晶片岩が分布する.渋川地域では緑泥石帯の泥質片岩が広く分布し,主要鉱物組み合わせは石英+曹長石+緑泥石+白雲母+炭質物であり,一部の試料ではローソン石が観察される.石英と曹長石は非常に細粒であるため顕微鏡下で両者の識別は困難であるが,石英は泥質片岩の白色レイヤに,曹長石は白色レイヤと主に白雲母,緑泥石,炭質物で構成される黒色レイヤの両方で観察された.本研究では,本地域の泥質片岩に対し炭質物ラマン温度計を適用し,SEM-EBSD分析を行い,石英と曹長石の粒径分布,結晶方位定向配列(CPO)に注目し変形組織の形成条件を考察した.炭質物ラマン温度計を用いて推定した変成温度は280℃〜350℃程度だった.SEM-EBSD分析の結果から白色レイヤはさらに石英の割合が大きいレイヤ(石英リッチレイヤ)と曹長石の割合が大きいレイヤ(曹長石リッチレイヤ)に分かれて分布していた.多くの試料で,曹長石リッチレイヤは白色レイヤと黒色レイヤの境界部に観察された.石英の粒径は平均10μm,曹長石の粒径は平均10~16μmであり,どちらも変成温度との相関は示さないが,モード比と弱い正の相関を示した.石英のCPOパターンはクレフトガードル様を示すもの,タイプⅠクロスガードルを示すものの2パターンが観察された.曹長石は(100)[001]パターンを示す試料が多く,炭質物ラマン温度計から推定された変成温度が340℃以上の高温試料の一部では(010)[001]パターンが観察された.低温条件での曹長石のCPOパターンの報告は乏しく,曹長石の(100)[001]パターンはこれまで報告はないが,本地域の泥質片岩の変形組織は石英,曹長石両方の弱い塑性変形を示しており,低温条件下の遅い歪速度で変形が進行したことを示唆する.引用文献:Stöckhert et al. (1999), Journal of Structural Geology, 21, 351-369. Papeschi et al. (2018), Journal of Structural Geology, 113, 100-114.
