講演情報

[T4-O-17]石英の変形再結晶組織におけるタイプ P/S 遷移の定量的指標とその要因

*中小路 一真1、清水 以知子2、道林 克禎3 (1. 東京大学、2. 京都大学、3. 名古屋大学)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

石英、高温高圧変形実験、動的再結晶、転位クリープ

 高温下で流動変形をした天然の岩石中にみられる石英の再結晶組織は変形時の温度、歪速度などの条件を反映していると考えられる。石英組織から変形条件を推定するための根拠として、実験的手法が用いられてきた。Masuda & Fujimura (1981, Tectonophysics) は細粒の石岩メノウに対し封圧0.4 GPa で高温高圧変形実験を行い、高温低歪速度条件下で直線状の粒界と等粒状粒子をもつType-P (Polygonal) 、低温高歪速度条件下で鋸状の粒界と伸長状粒子をもつType-S (Serrated) の動的再結晶微細組織が形成されることを報告した。さらに、Takahashi et al. (1998, JSG) はこれらの条件でできた実験試料に対しより定量的な解析を行い、結晶粒界のギザギザ度合いを表す面積–周囲長のフラクタル次元 Dの値が変形時の温度・歪速度条件によって変化することを報告した。天然試料の石英においても、剪断帯からの距離によってフラクタル次元Dが結晶粒径に相関して変化する結果が得られている(Anderson et al., 2025, JSG)。しかしながら、これまでの研究の石英の薄片写真に対する画像解析では、マニュアルで結晶粒界のトレースが行われているため、結晶と亜結晶の判別の基準が人によって同一ではなく、人間の眼で粒界を判別できる粒子を選別する際にバイアスが生じる可能性がある。そこで本研究は、細粒の石英岩を用いて高温高圧変形実験を行うとともに、実験後の動的再結晶組織の偏光顕微鏡像に対し、新たな画像処理手法を用いて視野内ほぼすべての結晶粒界を特定した。そして、各条件の微細組織の特徴を数値化し、Type-P/S遷移と比較した。

 実験には熊澤型固体圧式変形試験機を用いた。本試験機は上下のロードセルで応力を測定することにより、固体圧媒体による摩擦の影響を取り除き、正確な応力決定を行うことができる。出発物質には細粒の含水石英岩メノウを用いた。温度歪速度条件はMasuda & Fujimura (1981) のType-P/S 境界をカバーする800°C-1000°C, 10-4-10-6/secとした。封圧はType-P/S遷移の封圧依存性を調べるため、Masuda & Fujimura (1981) より高圧の1.5 GPaとした。実験回収試料の偏光顕微鏡観察によって、本実験でも、高温低歪速度条件から低温高歪速度条件にかけてType-P/S遷移が見られることが確認された。次に、波動消光の影響を低減するため、異なる偏光角で撮影した 6 枚の偏光顕微鏡写真を重ね、画像解析ソフトウェアを用いて、勾配フィルターおよび分割アルゴリズムwatershed法を適用し、粒界を半自動的に抽出した。それを用いて、アスペクト比、正規化周囲長(周囲長/同面積の楕円の周囲長)、フラクタル次元の三つの量を計算した。さらに、光学顕微鏡では正確に判別することが難しい薄片の厚さ (15 μm) 未満の粒子の影響も調べるため、走査型電子顕微鏡によるEBSD解析をあわせて行った。ステップ幅は1 μmとした。

 偏光顕微鏡像に対する解析においては、アスペクト比の平均値が高温低歪速度条件から低温高歪速度条件へと系統的に増加し、Type-P/S 遷移とよく対応していることが確認された。本解析結果において、Type-P/S境界はアスペクト比の2.30に対応する。一方、正規化周囲長やフラクタル次元には温度歪速度条件に応じた系統的な変化が見られなかった。EBSD像に対する解析においては、いずれの量においても、Type-P/S 遷移に対応する系統的な変化は見られなかった。また、典型的な粗粒のType-P組織が見られた最も高温で歪速度が小さい条件を除き、偏光顕微鏡像の解析から得られる値と比べ、EBSD像から計算されるアスペクト比と正規化周囲長の値は小さい値となった。このように、EBSDによって粒子を特定した場合に系統性が見られない理由としては、ピクセル解像度が1ミクロンであるため、結晶粒界の形を正確に描画できていないことが考えられる。

 以上の結果から、石英微細構造のType-P/S遷移の特徴は偏光顕微鏡像におけるアスペクト比によってよく捉えられることが明らかになった。本発表では、その物理的理由の考察も試みる。