講演情報
[T4-O-20]cleavable olivineからわかる地質学的に重要なこと
*安東 淳一1、富岡 尚敬2、前川 寛和3 (1. 広島大学、2. JAMSTEC・高知コア研、3. 大阪公立大学)
キーワード:
蛇紋岩化、パイプ拡散、粒界拡散
【はじめに】 cleavable olivineは“裂開”が発達するオリビンで、蛇紋岩化した超塩基性岩中に存在する。“裂開”とは、オリビンの(100)、(010)、(001)に平行に発達する劈開様の面に沿って蛇紋石の一種であるアンチゴライトが晶出する組織である。“裂開”は(100)に沿って発達するものが多い(相川、1981;Nozaka and Ito, 2011)。日本国内では、神居古潭帯鷹泊超苦鉄質岩体をはじめ約10の超塩基性岩体や、伊豆‐小笠原‐マリアナ海溝に沿って露出する蛇紋岩海山で確認されている。オリビンは、結晶構造的に(100)には劈開は発達しないので、なぜ裂開が形成されるのかといった問題は、オリビンの含水化過程を明らかにするうえで重要だと考えられる。本研究はcleavable olivineの成因を微細組織のキャラクタリゼーションによって明らかにすることを目的とした。
【試料と観察手法】 本研究で使用した試料は、マリアナ前弧北部の雷神海山を構成するアンチゴライト化が進んだ超塩基性岩(ダナイト)である。1) 偏光顕微鏡、SEM、TEMを用いた微細組織観察、2)SEM-EBSDによるオリビンの裂開面と格子選択配向(CPO)の測定、3)ラマン分光分析による蛇紋石鉱物の同定を行った。
【観察結果と考察】 観察の結果、cleavable olivineは以下の特徴を有することが明らかとなった。1)ダナイトを構成するオリビンは、[100]{0kl}のすべり系によって形成された強いCPOを示す。また、このすべり系によって形成されたと考えられる(100)に平行な亜結晶粒界と波動消光が顕著に発達する。以上のことから、オリビンは[100]{0kl}のすべり系による転位クリープによって塑性変形したことが分かる。2)裂開は、(100)に平行に発達した亜結晶粒界に沿って形成されていることが多い。亜結晶粒界は転位の配列によって形成されるため、転位の存在と裂開の形成は強く関係することが分かる。3) 裂開中にはアンチゴライトが晶出しており、ホストのオリビンの(100)とアンチゴライトの(001)はトポタキシャルな関係を持つ。この結果は、オリビンの結晶構造を利用してアンチゴライトが晶出した事を示す。4)ダナイトを構成する“オリビンの粒界”には、リザーダイトが晶出している。このリザーダイトは、ホストのオリビンとはトポタキシャルな関係を持たない。また粒界には、マグネタイト、カルサイトの晶出が確認できた。以上の結果は、本試料は二段階の蛇紋岩化作用受けていることが明らかとなった(アンチゴライト化の後にリザーダイト化が生じた)。上記した1)~3)の特徴は、神居古潭帯鷹泊超苦鉄質岩体中から採取したcleavable olivineでも確認することができた。 これらの観察結果から、cleavable olivineは次の様な形成過程で形成されたと結論できる。1) 上部マントルで、ダナイトを構成するオリビンが[100]{0kl}すべり系による転位クリープによって塑性変形した。その結果、CPOが形成され、かつ(100)に平行な面上に転位が配列し亜結晶粒界が形成された。2) 亜結晶粒界を構成する転位に沿って水が拡散(パイプ拡散)し、亜結晶粒界上にホストのオリビンとトポタキシャルな関係を持つアンチゴライトが晶出した。これにより裂開が形成された。その後ダナイトが上昇し、3)粒界にリザーダイト、マグネタイト、カルサイトが晶出した。本研究の重要な結論は、アンチゴライト化が転位に沿った水の拡散(パイプ拡散)によって進行し、その結果としてcleavable olivineが生成される、ということである。一般的に、オリビンのアンチゴライト化は粒界(粒界拡散)やクラック面から進行する。「粒界拡散」と「パイプ拡散」を比較した場合、cleavable olivine は粒界が閉じた高圧下、すなわち粒界拡散が起こりにくい環境で形成されると考えられる。したがって、cleavable olivine の存在は、高圧下において元素拡散が主にパイプ拡散によって支配されていることを強く示唆する。
引用文献:相川 (1981) 岩石鉱物鉱床学会誌, 76, 61-67. Nozaka and Ito (2011) Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 106, 36-50.
【試料と観察手法】 本研究で使用した試料は、マリアナ前弧北部の雷神海山を構成するアンチゴライト化が進んだ超塩基性岩(ダナイト)である。1) 偏光顕微鏡、SEM、TEMを用いた微細組織観察、2)SEM-EBSDによるオリビンの裂開面と格子選択配向(CPO)の測定、3)ラマン分光分析による蛇紋石鉱物の同定を行った。
【観察結果と考察】 観察の結果、cleavable olivineは以下の特徴を有することが明らかとなった。1)ダナイトを構成するオリビンは、[100]{0kl}のすべり系によって形成された強いCPOを示す。また、このすべり系によって形成されたと考えられる(100)に平行な亜結晶粒界と波動消光が顕著に発達する。以上のことから、オリビンは[100]{0kl}のすべり系による転位クリープによって塑性変形したことが分かる。2)裂開は、(100)に平行に発達した亜結晶粒界に沿って形成されていることが多い。亜結晶粒界は転位の配列によって形成されるため、転位の存在と裂開の形成は強く関係することが分かる。3) 裂開中にはアンチゴライトが晶出しており、ホストのオリビンの(100)とアンチゴライトの(001)はトポタキシャルな関係を持つ。この結果は、オリビンの結晶構造を利用してアンチゴライトが晶出した事を示す。4)ダナイトを構成する“オリビンの粒界”には、リザーダイトが晶出している。このリザーダイトは、ホストのオリビンとはトポタキシャルな関係を持たない。また粒界には、マグネタイト、カルサイトの晶出が確認できた。以上の結果は、本試料は二段階の蛇紋岩化作用受けていることが明らかとなった(アンチゴライト化の後にリザーダイト化が生じた)。上記した1)~3)の特徴は、神居古潭帯鷹泊超苦鉄質岩体中から採取したcleavable olivineでも確認することができた。 これらの観察結果から、cleavable olivineは次の様な形成過程で形成されたと結論できる。1) 上部マントルで、ダナイトを構成するオリビンが[100]{0kl}すべり系による転位クリープによって塑性変形した。その結果、CPOが形成され、かつ(100)に平行な面上に転位が配列し亜結晶粒界が形成された。2) 亜結晶粒界を構成する転位に沿って水が拡散(パイプ拡散)し、亜結晶粒界上にホストのオリビンとトポタキシャルな関係を持つアンチゴライトが晶出した。これにより裂開が形成された。その後ダナイトが上昇し、3)粒界にリザーダイト、マグネタイト、カルサイトが晶出した。本研究の重要な結論は、アンチゴライト化が転位に沿った水の拡散(パイプ拡散)によって進行し、その結果としてcleavable olivineが生成される、ということである。一般的に、オリビンのアンチゴライト化は粒界(粒界拡散)やクラック面から進行する。「粒界拡散」と「パイプ拡散」を比較した場合、cleavable olivine は粒界が閉じた高圧下、すなわち粒界拡散が起こりにくい環境で形成されると考えられる。したがって、cleavable olivine の存在は、高圧下において元素拡散が主にパイプ拡散によって支配されていることを強く示唆する。
引用文献:相川 (1981) 岩石鉱物鉱床学会誌, 76, 61-67. Nozaka and Ito (2011) Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 106, 36-50.
