講演情報

[T7-O-12]インド中原生界,Vindhyan超層群Chitrakoot層の堆積学的・地球化学的特徴:古環境への示唆

*パンディ アブヒシェク1、チャクラボルティ パルタ2、中田 亮一3、狩野 彰宏4、白石 史人1 (1. 広島大学、2. デリー大学、3. 海洋研究開発機構、4. 東京大学)
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 中原生代(16–10億年前)は,2つの理由から重要な意義を持っている:(i)初期真核生物の多様化が遅れたことで進化の停滞が生じたこと,および(ii)大気中の酸素濃度(0.1% PAL)がパスツール点(1% PAL)を下回っていたことである.両方の理由を結びつける共通の要因は,古環境と酸化還元状態である.したがって,中原生代における初期真核生物の生存可能性を解明するためには,古環境の解釈が不可欠である.近年,インドの下部Vindhyan超群に含まれる中原生界Chitrakoot層から,紅藻類(クラウングループ)を含む保存のよい初期真核生物の微化石が報告された.しかし先行研究では,これらの初期真核生物が生息していた古環境と酸化還元状態について議論されていなかった.ゆえに本研究では,地質調査,堆積岩岩石学,地球化学(希土類元素(REE)および炭素・酸素同位体)を用いることで,Chitrakoot層の古環境と酸化還元状態を解明することを目的とする.野外調査の結果,下位から3つの堆積相(ペロイド質苦灰岩,海緑石質砂岩,および層状苦灰岩)が調査地で一貫して見られた.ヘリングボーン斜交層理,トラフ型斜交層理,ウェーブリップル,平行層理などの堆積構造の存在は,潮汐と波が存在する沿岸環境であったことを示唆している.岩石学的特徴からは,ペロイド質苦灰岩は沿岸環境における通気帯のセメント化を経験したことが示された.本研究では,ペロイド質苦灰岩の珪化マトリックスから,保存の良い真核生物の微化石が発見さた.一部のペロイドは内部が珪化しており,球状シアノバクテリアが含まれている.上部の層状苦灰岩には,リン酸塩オンコライトが局所的に存在する.リン酸塩オンコライトには,リン酸塩沈殿時の生物活動を示す糸状微化石とガス泡が含まれている.PAASで規格化した希土類元素(REE)パターンはほぼ平坦で,外洋のようなパターンを欠いている.LaとGd異常の変動,Y/Ho比(≧27),Pr/Yb値の変動,および高い砕屑性成分(TiとAl)は,沿岸環境(例えば河口や沿岸のラグーン)において,淡水と海水を端成分とする混合が起きた可能性を示唆している.炭酸塩から真のCe負異常が検出されなかったことから,浅海(亜酸化・無酸素環境)においてCe(III)を酸化する溶存酸素が存在しなかったことを示している.興味深いことに,Sangrampurセクションのペロイドは強いCe正異常を示しており,これは形成時が還元的環境であったか,後の続成作用の影響を示唆している.しかし,ペロイド内部に酸素発生型原核生物(例えば球状シアノバクテリア)が存在することから,初期の真核生物が生存し進化するための小さな酸素オアシスが存在した可能性が考えられる.