講演情報
[T7-O-18]北海道幌向川に分布する中新統川端層の有機物に富むタービダイト層の堆積学的調査
*山田 陽翔1、沢田 健2 (1. 北海道大学大学院理学院、2. 北海道大学理学研究院)
キーワード:
中新世、タービダイト、川端層、バイオマーカー、植物片濃集砂岩
[はじめに] 前期中新世末から中期中新世の北海道中央部では、島弧–島弧衝突により南北約400 km、幅数10 kmにわたる狭長な前縁堆積盆(foreland basins)が形成された。この南北に長いフォアランド堆積盆ではトラフ充填型タービダイトが厚く堆積し、陸上植物由来の有機物を多量に含んだタービダイト層が存在することから、断続的な混濁流の発生により陸源物質が海洋底へ直接かつ多量に輸送されてきたことが推察される(Furota et al., 2021)。石狩堆積盆のうち、中央部に位置する夕張地域に分布する中新統川端層において、有機物濃集砂岩層に着目し、タービダイト層についての詳細な堆積構造の記載や有機地球化学分析から陸源有機物の輸送経路/堆積プロセスの解明に向けて様々な研究が行われている(Okano and Sawada, 2007; Ismail et al., 2023; Asahi and Sawada, 2024)。本研究では、新たに石狩堆積盆の北部に位置する岩見沢地域幌向川セクションの中新統川端層に着目し、混濁流堆積物の堆積構造を明らかにした。加えてバイオマーカー分析により堆積岩試料の古海洋環境、陸源有機物の流入状態などの堆積環境評価を行い、陸源有機物の輸送プロセスを検討した。
[試料と方法] 本調査対象の幌向川セクションで分布する上部中新統川端層は約13.4Maから12.2Maであると推定され、タービダイトに分類されるような混濁流堆積物が広く分布する(久保田ほか、2010)。幌向川セクションで地質調査を実施し、泥岩層および砂岩層を採取した。採取した一部の試料は薄片を作成し、透過光顕微鏡下での粒度分析、蛍光顕微鏡下での有機物に富む葉理などの観察を行った。また、採取した試料は、全有機炭素含量(TOC)分析およびバイオマーカー分析を行った。
[結果と考察] 調査地域は主に砂岩泥岩互層で構成されており、堆積構造はBoumaシーケンスに類似したシーケンスが多い。また、特徴的に有機物が濃集して形成されたと考えられる有機物濃集砂岩層が観察された。この層の厚さは、いずれもおおよそ数10 cmであり、主に細粒-極細粒砂で構成されている。中程の部分には、有機物が数cmにわたって層状に発達している点が特徴的であった。蛍光顕微鏡下での観察の結果、有機物濃集砂岩層における有機物は、黒色かつ蛍光を発さない木片や白色から黄色の強い蛍光を発する植物の葉由来のクチクラが多数観察され、いずれも陸源物質に由来することが確認された。また、粒度分析からは、砂岩の下部は粒径約95μmから約110μmへと逆級化、中部が約110μmから約50μmへと正級化、上部が約50μmから約65μmへと再び逆級化する構造を持つことが明らかとなった。これらの特徴から、この有機物濃集砂岩層はハイパーピクナイトであることが示唆され、岩見沢地域では洪水に起因する陸源有機物輸送プロセスがあったことが推察される。全有機炭素含量(TOC)は、泥岩の試料において0.7%前後と低い値を示したが、砂岩の試料は1.0%を超える比較的高い値を示した。また、バイオマーカー分析の結果、試料からは植物の葉のワックス成分由来とされるn-アルカンや光合成色素由来であるプリスタン・フィタン、真核生物の細胞膜などに由来するステラン、ジアステレンなどが検出された。プリスタン/フィタン比(Pr/Ph)と有機物の陸海比を示すC27/(C27+C29)ステラン比から、泥岩層形成時に比べて砂岩層形成時は酸化的かつより陸源有機物の流入が顕著であったことを示した。n-アルカン淡水生植物寄与指標(Paq) は、泥岩試料に比べて砂岩試料は約2倍以上高い値を示し、湿地帯に繁茂するような淡水生植物の流入が顕著であったことが考えられる。堆積構造の解釈や有機地球化学分析により石狩堆積盆北部での陸源有機物の輸送プロセスとして一つとして湿地帯などを巻き込んだ洪水流が考えられ、陸域から活発な輸送による深海環境への有機物の供給が推測できる。
[引用文献]
Okano, K., Sawada, K. (2007) Geochemical Journal, 42.
Kawakami, G. (2013) InTech, pp. 131–152.
Furota, S. et al. (2021) International Journal of Coal Geology, 233, 103643.
Ismail, M.A. et al. (2023) Sedimentary Geology, 454., 106455.
Asahi, H., Sawada, K. (2024) Organic Geochemistry, 188, 104671.
久保田資浩ほか (2010) 石油技術協会誌,75.
[試料と方法] 本調査対象の幌向川セクションで分布する上部中新統川端層は約13.4Maから12.2Maであると推定され、タービダイトに分類されるような混濁流堆積物が広く分布する(久保田ほか、2010)。幌向川セクションで地質調査を実施し、泥岩層および砂岩層を採取した。採取した一部の試料は薄片を作成し、透過光顕微鏡下での粒度分析、蛍光顕微鏡下での有機物に富む葉理などの観察を行った。また、採取した試料は、全有機炭素含量(TOC)分析およびバイオマーカー分析を行った。
[結果と考察] 調査地域は主に砂岩泥岩互層で構成されており、堆積構造はBoumaシーケンスに類似したシーケンスが多い。また、特徴的に有機物が濃集して形成されたと考えられる有機物濃集砂岩層が観察された。この層の厚さは、いずれもおおよそ数10 cmであり、主に細粒-極細粒砂で構成されている。中程の部分には、有機物が数cmにわたって層状に発達している点が特徴的であった。蛍光顕微鏡下での観察の結果、有機物濃集砂岩層における有機物は、黒色かつ蛍光を発さない木片や白色から黄色の強い蛍光を発する植物の葉由来のクチクラが多数観察され、いずれも陸源物質に由来することが確認された。また、粒度分析からは、砂岩の下部は粒径約95μmから約110μmへと逆級化、中部が約110μmから約50μmへと正級化、上部が約50μmから約65μmへと再び逆級化する構造を持つことが明らかとなった。これらの特徴から、この有機物濃集砂岩層はハイパーピクナイトであることが示唆され、岩見沢地域では洪水に起因する陸源有機物輸送プロセスがあったことが推察される。全有機炭素含量(TOC)は、泥岩の試料において0.7%前後と低い値を示したが、砂岩の試料は1.0%を超える比較的高い値を示した。また、バイオマーカー分析の結果、試料からは植物の葉のワックス成分由来とされるn-アルカンや光合成色素由来であるプリスタン・フィタン、真核生物の細胞膜などに由来するステラン、ジアステレンなどが検出された。プリスタン/フィタン比(Pr/Ph)と有機物の陸海比を示すC27/(C27+C29)ステラン比から、泥岩層形成時に比べて砂岩層形成時は酸化的かつより陸源有機物の流入が顕著であったことを示した。n-アルカン淡水生植物寄与指標(Paq) は、泥岩試料に比べて砂岩試料は約2倍以上高い値を示し、湿地帯に繁茂するような淡水生植物の流入が顕著であったことが考えられる。堆積構造の解釈や有機地球化学分析により石狩堆積盆北部での陸源有機物の輸送プロセスとして一つとして湿地帯などを巻き込んだ洪水流が考えられ、陸域から活発な輸送による深海環境への有機物の供給が推測できる。
[引用文献]
Okano, K., Sawada, K. (2007) Geochemical Journal, 42.
Kawakami, G. (2013) InTech, pp. 131–152.
Furota, S. et al. (2021) International Journal of Coal Geology, 233, 103643.
Ismail, M.A. et al. (2023) Sedimentary Geology, 454., 106455.
Asahi, H., Sawada, K. (2024) Organic Geochemistry, 188, 104671.
久保田資浩ほか (2010) 石油技術協会誌,75.
