講演情報
[T7-O-20]ベトナム北東部デボン紀-石炭紀境界堆積岩におけるバイオマーカーを用いた古環境復元
*四木 りさ1、沢田 健1,2、高嶋 礼詩3、小松 俊文4 (1. 北海道大学理学院自然史科学専攻、2. 北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、3. 東北大学学術資源研究公開センター総合学術博物館、4. 熊本大学大学院先端科学研究部基礎科学部門)
キーワード:
バイオマーカー、デボン紀-石炭紀境界、ハンゲンベルグ事変、ベトナム
[はじめに] デボン紀-石炭紀(D-C)境界は、海洋無酸素事変(OAE)がおこり、それに関連して海洋生物や陸上植物の約45%が絶滅したされるハンゲンベルグ事変が起こったことが知られている。ハンゲンベルグ事変では、海水準変動が繰り返し発生していたことが推測されており、ヨーロッパや北米で無酸素・高硫黄な環境が有光層にまで広がる有光層ユーキシニア(PZE)が形成されていたと考えられている(Kaiser et al., 2016; Marynowski et al., 2012; Sahoo et al., 2023)。しかし、ハンゲンベルグ事変が発生した原因は未だ解明されていない。本研究では、ベトナム北東部デボン紀-石炭紀境界堆積岩のバイオマーカー分析から、堆積環境や古海洋環境を復元した。
[試料と方法] 分析試料はハンゲンベルグ事変の層準を含む、デボン紀ファメニアン後期から石炭紀トルネーシアン前期におけるベトナム北東部Cat Ba島のCat Co層群Pho Han層の黒色頁岩および灰色石灰岩を用いた。バイオマーカー分析では、有機溶媒抽出とシリカゲルカラム分けの後、尿素アダクト法により直鎖アルカンと分枝状・環状アルカンを分別し,GC-MSによる分析を行った。
[結果と考察] バイオマーカー分析の結果、酸化環境で生成されるプリスタン(Pr)、還元環境で生成されるフィタン(Ph)、真核生物に由来するステラン、高塩分環境において生成されるガンマセラン、バクテリアに由来するホパン、高硫黄環境を示すジベンゾチオフェン(DBT)が検出された。酸化還元指標であるPr/Ph比は、全層準を通して約0.5以下の値を取っており、還元的な環境であったことが示された。海/陸比を表すC27/C29ステラン比は、全層準を通して高い値をとっており、海起源の寄与が高いことが示された。DBTは、ハンゲンベルグ事変において高い値を示した。DBTは、その起源や生成経路が明らかにされていない一方で、有機物への硫黄の付加が、堆積場の硫黄の濃度と関係していて、堆積場の酸化還元指標となり得るとする研究例もある(Hughes et al., 1995)。したがって、ハンゲンベルグ事変では、DBTの生成に必要な硫黄が海洋中に多く存在する、より高硫黄環境であった可能性が示唆される。さらに、海洋の成層化の指標であるガンマセランインデックス(ガンマセランとC30ホパンの比; Sinninghe Damsté et al., 1995)は、全層準を通して0.15以下という低い値を示した。この結果から、本研究の層準の堆積時には海洋が成層化していなかったことが推測された。
[引用文献]
Hughes et al. (1995) Geochimica et Cosmochimica Acta 59, 3581-3598.
Kaiser et al. (2016) Geological Society, London, Special Publications 423, 387-437.
Marynowski et al. (2012) Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 346–347, 66–86.
Sahoo et al. (2023) Nature 615, 640-645.
Sinninghe Damsté et al. (1995) Geochimica et Cosmochimica Acta 59, 1895-1900.
[試料と方法] 分析試料はハンゲンベルグ事変の層準を含む、デボン紀ファメニアン後期から石炭紀トルネーシアン前期におけるベトナム北東部Cat Ba島のCat Co層群Pho Han層の黒色頁岩および灰色石灰岩を用いた。バイオマーカー分析では、有機溶媒抽出とシリカゲルカラム分けの後、尿素アダクト法により直鎖アルカンと分枝状・環状アルカンを分別し,GC-MSによる分析を行った。
[結果と考察] バイオマーカー分析の結果、酸化環境で生成されるプリスタン(Pr)、還元環境で生成されるフィタン(Ph)、真核生物に由来するステラン、高塩分環境において生成されるガンマセラン、バクテリアに由来するホパン、高硫黄環境を示すジベンゾチオフェン(DBT)が検出された。酸化還元指標であるPr/Ph比は、全層準を通して約0.5以下の値を取っており、還元的な環境であったことが示された。海/陸比を表すC27/C29ステラン比は、全層準を通して高い値をとっており、海起源の寄与が高いことが示された。DBTは、ハンゲンベルグ事変において高い値を示した。DBTは、その起源や生成経路が明らかにされていない一方で、有機物への硫黄の付加が、堆積場の硫黄の濃度と関係していて、堆積場の酸化還元指標となり得るとする研究例もある(Hughes et al., 1995)。したがって、ハンゲンベルグ事変では、DBTの生成に必要な硫黄が海洋中に多く存在する、より高硫黄環境であった可能性が示唆される。さらに、海洋の成層化の指標であるガンマセランインデックス(ガンマセランとC30ホパンの比; Sinninghe Damsté et al., 1995)は、全層準を通して0.15以下という低い値を示した。この結果から、本研究の層準の堆積時には海洋が成層化していなかったことが推測された。
[引用文献]
Hughes et al. (1995) Geochimica et Cosmochimica Acta 59, 3581-3598.
Kaiser et al. (2016) Geological Society, London, Special Publications 423, 387-437.
Marynowski et al. (2012) Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 346–347, 66–86.
Sahoo et al. (2023) Nature 615, 640-645.
Sinninghe Damsté et al. (1995) Geochimica et Cosmochimica Acta 59, 1895-1900.
