講演情報
[T13-O-11]東アジア先ジュラ紀ニッポニデス造山帯の一部としての黒瀬川帯:銚子半島の三畳紀付加体の地体構造上の意義
*磯崎 行雄1、堤 之恭2、岩本 直哉3、上田 脩郎3 (1. 東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学 宇宙地球科学教室、2. 国立科学博物館理学研究グループ、3. 銚子市教育委員会銚子ジオパーク推進協議会事務局)
キーワード:
黒瀬川帯、西南日本、付加体、造山帯、砕屑性ジルコン、U-Pb 年代
先ジュラ紀のプレート沈み込み型造山帯産物からなる西南日本の黒瀬川帯の分布は, 九州から関東まで1000 km以上に及ぶ. その東限はこれまで関東山地東縁とされた(坂ほか, 1989; 沢田ほか, 2020)が, 千葉県銚子半島には浅海相白亜系や三畳紀チャートなどの秩父帯要素に隣接して産する年代未詳の砕屑岩(愛宕山層群; 尾崎, 1959;千坂, 1967; 高橋, 1990など )中のフズリナ化石が黒瀬川帯の特徴を持つ. この砂岩の帰属を特定するため, 砕屑性ジルコンU-Pb年代を測定した結果, 三畳紀前期-中期粒子の卓越と約237 Ma(同中期-後期境界頃)の最若粒子を検出した. この三畳紀砂岩のジルコン年代パタンは, 四国の黒瀬川帯のペルム紀-三畳紀付加体砂岩のそれ(Hara et al., 2018など)にほぼ一致する. 西南日本の秩父帯および黒瀬川帯の東西の帯状配列が, 従来より150 km東方の銚子半島まで連続することが確認された.
銚子半島で一旦海中に没する黒瀬川帯の東延長は, さらに北方の東北日本まで追跡される可能性が高い. 黒瀬川帯構成要素に比較可能な地質体として, 東北日本の南部北上・根田茂帯の古生代弧花崗岩類, 高圧変成岩, 前弧堆積岩および蛇紋岩, 阿武隈帯の竹貫変成岩の原岩や花崗岩類中の捕獲古生代岩石などの多様な古生代岩石群などが列挙される. さらに日本海対岸の極東ロシア沿海州のSergeevka帯の要素もよく類似する. これらの黒瀬川帯および沿海州まで追跡されるその延長部の構成岩石類は. いずれもカンブリア紀以降の古生代および三畳紀の弧-海溝系, すなわち大南中国(Greater South China)地塊の古太平洋側に発達したNIpponides造山帯(Sengor & Natal'in, 1996)の産物である. 中新世の日本海拡大で乱された古生代造山帯要素の初生配列を復元する上で, 西南日本と東北日本の要素とが折れ曲がって接続する銚子半島で検出された黒瀬川帯要素は貴重なチェック要素である.
黒瀬川帯およびその東北方延長部の地質体は, いずれも低角度で下位に向かって若くなる極性を持つ累重ナップ構造によって特徴付けられ, プレート沈み込み型造山帯の現地性産状を残している. 黒瀬川帯自体の分布幅は模式地の四国で10 km未満であるのに対して, 東北日本の南部北上帯・根田茂帯また阿武隈帯の相当地質体の分布幅は約100 kmに及ぶ. ただし西南日本でも黒瀬川帯と共通の岩石を産する長門構造帯と飛騨外縁帯は各々狭長だが、黒瀬川帯と合わせた広域での分布幅はほぼ同じオーダーである. 黒瀬川帯を含むNIpponides造山帯の古生代・三畳紀部分は, 少なくとも琉球弧西南端に近い石垣島・西表島からロシア沿海州まで南北方向に総延長3000 km以上に及び, 同造山帯はユーラシア中央部の中央アジア造山帯(CAOB)やヒマラヤ造山帯に並ぶアジア内の第一級の地質構造とみなされる. その中にあって複雑な岩石組み合わせと地質構造を持つ黒瀬川帯相当地質体はNipponides検出の良いマーカーとなる.
ちなみにCAOBは, 古生代末にほぼ形成を終了した東西方向の造山帯だが、その東端部は南北配列のGSC地塊とNipponidesと接している. ロシア沿海・中国吉林省・北朝鮮国境のLaoelin-Grodekov帯, 日本海中部の大和堆, そして飛騨帯と西方延長が両造山帯の接合領域にあたり, 両造山帯は極東アジアでT字路交差点の形で接している. 特に両者間に位置するGSCの西縁が主たる接合境界(大和構造線; Isozaki et al., 2023; 磯﨑ほか, 2024)となる. 日本列島内において, 同構造線はGSC縁辺で形成された飛騨外縁帯およびそれより海洋側の日本のすべての帯(黒瀬川帯を含む)と, その大陸側の飛騨帯との間を画する断層(内帯中央線あるいは長門-飛騨外縁構造線と呼ばれた)は日本列島で最重要の地体構造境界である.
文献 :千坂(1967) 淑徳大紀要, 1, 1-6; Hara et al. (2018) J Asian Earth Sci, 151, 112-130; Isozaki et al. (2023) IsArc, 32, e12475; 磯﨑ほか (2024) 地学雑, 133, 195-218; 尾崎 (1959) 国科博研報, 4, 188-201; 坂ほか (1989) 地質雑, 95, 339-342; 沢田ほか (2020) 地質雑, 126, 551-561; Sengor & Natal'in (1996) In Yin and Harrison eds. The tectonic evolution of Asia, Cambridge Univ. Press, 486-640; 高橋 (1990) 千葉中央博自然研報, 1, 1-13.
銚子半島で一旦海中に没する黒瀬川帯の東延長は, さらに北方の東北日本まで追跡される可能性が高い. 黒瀬川帯構成要素に比較可能な地質体として, 東北日本の南部北上・根田茂帯の古生代弧花崗岩類, 高圧変成岩, 前弧堆積岩および蛇紋岩, 阿武隈帯の竹貫変成岩の原岩や花崗岩類中の捕獲古生代岩石などの多様な古生代岩石群などが列挙される. さらに日本海対岸の極東ロシア沿海州のSergeevka帯の要素もよく類似する. これらの黒瀬川帯および沿海州まで追跡されるその延長部の構成岩石類は. いずれもカンブリア紀以降の古生代および三畳紀の弧-海溝系, すなわち大南中国(Greater South China)地塊の古太平洋側に発達したNIpponides造山帯(Sengor & Natal'in, 1996)の産物である. 中新世の日本海拡大で乱された古生代造山帯要素の初生配列を復元する上で, 西南日本と東北日本の要素とが折れ曲がって接続する銚子半島で検出された黒瀬川帯要素は貴重なチェック要素である.
黒瀬川帯およびその東北方延長部の地質体は, いずれも低角度で下位に向かって若くなる極性を持つ累重ナップ構造によって特徴付けられ, プレート沈み込み型造山帯の現地性産状を残している. 黒瀬川帯自体の分布幅は模式地の四国で10 km未満であるのに対して, 東北日本の南部北上帯・根田茂帯また阿武隈帯の相当地質体の分布幅は約100 kmに及ぶ. ただし西南日本でも黒瀬川帯と共通の岩石を産する長門構造帯と飛騨外縁帯は各々狭長だが、黒瀬川帯と合わせた広域での分布幅はほぼ同じオーダーである. 黒瀬川帯を含むNIpponides造山帯の古生代・三畳紀部分は, 少なくとも琉球弧西南端に近い石垣島・西表島からロシア沿海州まで南北方向に総延長3000 km以上に及び, 同造山帯はユーラシア中央部の中央アジア造山帯(CAOB)やヒマラヤ造山帯に並ぶアジア内の第一級の地質構造とみなされる. その中にあって複雑な岩石組み合わせと地質構造を持つ黒瀬川帯相当地質体はNipponides検出の良いマーカーとなる.
ちなみにCAOBは, 古生代末にほぼ形成を終了した東西方向の造山帯だが、その東端部は南北配列のGSC地塊とNipponidesと接している. ロシア沿海・中国吉林省・北朝鮮国境のLaoelin-Grodekov帯, 日本海中部の大和堆, そして飛騨帯と西方延長が両造山帯の接合領域にあたり, 両造山帯は極東アジアでT字路交差点の形で接している. 特に両者間に位置するGSCの西縁が主たる接合境界(大和構造線; Isozaki et al., 2023; 磯﨑ほか, 2024)となる. 日本列島内において, 同構造線はGSC縁辺で形成された飛騨外縁帯およびそれより海洋側の日本のすべての帯(黒瀬川帯を含む)と, その大陸側の飛騨帯との間を画する断層(内帯中央線あるいは長門-飛騨外縁構造線と呼ばれた)は日本列島で最重要の地体構造境界である.
文献 :千坂(1967) 淑徳大紀要, 1, 1-6; Hara et al. (2018) J Asian Earth Sci, 151, 112-130; Isozaki et al. (2023) IsArc, 32, e12475; 磯﨑ほか (2024) 地学雑, 133, 195-218; 尾崎 (1959) 国科博研報, 4, 188-201; 坂ほか (1989) 地質雑, 95, 339-342; 沢田ほか (2020) 地質雑, 126, 551-561; Sengor & Natal'in (1996) In Yin and Harrison eds. The tectonic evolution of Asia, Cambridge Univ. Press, 486-640; 高橋 (1990) 千葉中央博自然研報, 1, 1-13.
