講演情報

[T4-P-1]蛇紋岩化反応に着目した九州の天然水素ポテンシャル評価:長崎・大分・熊本における露頭調査と初期分析

*宍田 哲大1、山田 泰広2、石須 慶一2、伊藤 茜2 (1. 九州大学 工学府、2. 九州大学 工学研究院)
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キーワード:

超苦鉄質岩、蛇紋岩、天然水素

 脱炭素社会の実現に向け、二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギー源として水素の利活用が期待されている。その中で、地下で自然に生成される天然水素が新たなエネルギー資源として世界的に注目を集めている。国内では、長野県白馬村の八方温泉において、かんらん岩などの超苦鉄質岩が水と反応して蛇紋岩に変化する蛇紋岩化反応に伴い生成された天然水素が確認されている。蛇紋岩化反応では、かんらん石に含まれる2価の鉄イオンが水と反応し、3価の鉄イオンを含む磁鉄鉱(マグネタイト)などを晶出する過程で、副産物として水素が生成される。蛇紋岩化反応は200~350℃において反応が活発になることがわかっている。

Fe2+-オリビン(olivine) + H2O → Fe3+-磁鉄鋼 + 蛇紋石 + H2

九州地方では、長崎県長崎市南西部、大分県佐賀関半島、そして熊本県山都町から宮崎県五ヶ瀬町にかけての地域に蛇紋岩体が点在している。本研究では、これらの蛇紋岩が天然水素の根源岩となりうる可能性に着目し、その生成ポテンシャルを評価することを目的とする。調査にあたり、まず産業技術総合研究所の「20万分の1日本シームレス地質図」を用いて蛇紋岩の分布域を抽出し、地理情報システム(GIS)や衛生写真等を活用して現地調査が可能な露頭を選定した。その結果、各地域の蛇紋岩には顕著な特徴の違いが認められた。

長崎県(布巻道路周辺):原岩である超苦鉄質岩の組織や鉱物が比較的多く残存していた。

大分県(黒ヶ浜周辺):蛇紋岩化が著しく進行しており、露頭表面は部分的に粘土化していた。

熊本県(緑川林道):強いせん断変形を受けていた。

これらの岩石学的特徴の多様性は、原岩の化学組成や形成後の広域的なテクトニクスの影響を反映しているものと推察される。特に、蛇紋岩化の進行度や変形の様式は、水素の生成効率や、生成された水素の地下での移動・集積プロセスを制御する重要な要因と考えられる。本発表では、これら九州各地の蛇紋岩の産状と岩石学的特徴を報告し、それぞれの特徴が天然水素の生成・胚胎ポテンシャルに与える影響について考察する。