講演情報

[T4-P-5]オマーンオフィオライト下部地殻―上部マントルの蛇紋石の局所酸素同位体分析

*吉田 一貴1、Scicchitano Maria Rosa2、岡本 敦3 (1. 高エネルギー加速器研究機構、2. ポツダム地球科学研究センター、3. 東北大学)
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キーワード:

蛇紋石、蛇紋岩化反応、酸素同位体、オマーンオフィオライト、岩石ー水反応

 下部地殻やマントル岩石に含まれるかんらん石や輝石と水の反応(蛇紋岩化反応)は海洋底や沈み込み帯における水と物質移動において重要な役割を果たしている。しかしながら、海洋底の下部地殻や上部マントルにおける蛇紋岩化の条件や温度は十分に解明されていない。世界最大級のオフィオライトであるオマーンオフィオライトは、海洋リソスフェアの下部地殻から上部マントルにおける岩石―水相互作用の遍歴を詳細に調べる機会を提供している。その一方で、オマーンオフィオライトの蛇紋岩化反応は、様々なテクトニックセッティング(海洋底・沈み込み帯・大陸)において、異なる流体(海水・沈み込み変成流体・雨水)や温度条件で複数の段階で生じていると考えられているが、その詳細は明らかではない。 本研究では、オマーンオフィオライトにおける蛇紋岩化ステージと流体の起源を明らかにすることを目的として、2次イオン質量分析(SIMS)を用いて蛇紋石の局所酸素同位体分析を行った。 分析試料はOman Drilling Project CMサイトの斑れい岩(1試料)・ダナイト(2試料)・ハルツバージャイト(2試料)と、オマーンオフィオライト北部岩体のHilti massifのハルツバージャイトから採取した蛇紋岩脈(1試料)の合計6試料である。各試料の異なる組織の蛇紋石について合計179点の酸素同位体をSIMSで分析した。試料と一緒にマウントされた標準試料(UWSrp-1)の再現性は±0.20‰(1σ)であり、インクルージョンや空隙が確認された測定点については議論から除外した。蛇紋石は組織の違いによって異なる酸素同位体比を示した。斑れい岩にみられるメッシュリムのδ18Oは 2.9-3.8 ‰であり、メッシュコア(δ18O = 6.6-6.9‰)よりも低いδ18Oを示した。このことは、メッシュリムの蛇紋岩化のあとにメッシュコアがより低温で蛇紋岩化したことを示唆する。ハルツバージャイトのメッシュリムのδ18Oは3.7-5.3‰であり、斑れい岩よりも高い酸素同位体比を示す。直方輝石が蛇紋岩化した場所のδ18Oは4.1-5.2‰であり、かんらん石が蛇紋岩化した場所と大きな違いはなかった。ダナイトのメッシュ組織はマグネタイトのインクルージョンの存在により酸素同位体比を正しく測定することができなかった。ダナイトおよびハルツバージャイトのメッシュ組織は後のステージで形成されたと考えられるアンチゴライト±クリソタイル脈によって切られている。これらのアンチゴライト±クリソタイル脈の酸素同位体比は、北部岩体の試料を除いて、メッシュ組織およびバスタイトよりも低いδ18Oを示した(δ18O=0.1-3.1‰)。アンチゴライト±クリソタイル脈中のアンチゴライトとクリソタイルのδ18Oはそれぞれ0.1-2.6 ‰および0.8-3.1‰で、クリソタイルの分析誤差の範囲内(~1‰)で一致した。このことは、クリソタイルがアンチゴライトと同程度の比較的高温で形成したことを示唆しており、クリソタイルが蛇紋石の準安定相であるという仮説を支持する(Evans, 2004)。 海水(δ18O=0‰)を仮定すると, メッシュ組織の蛇紋岩化温度として182±38°C, アンチゴライト±クリソタイル脈の形成温度として236±35°Cが得られた. ただし, アンチゴライト±クリソタイル脈を形成した流体は沈み込み起源の可能性があるため, ここで見積もられる温度は最低温度である. このことは、メッシュ組織よりも高温でアンチゴライト±クリソタイル脈が形成されたことを示唆する。これらの結果は、オマーンオフィオライトの地殻マントル境界から上部マントルは比較的低温の蛇紋岩化の後に、より高温の流体イベントを経験していることを示唆する。