講演情報
[T4-P-7]緑泥石-アクチノ閃石片岩におけるアクチノ閃石の粒径に依存した変形機構の遷移
*窪田 虎太朗1、平内 健一1、イヨ トーマス2 (1. 静岡大学理学部地球科学科、2. 筑波大学)
キーワード:
アクチノ閃石、転位クリープ、溶解-析出クリープ、長崎変成岩類、沈み込み帯
沈み込み帯の浅部スラブ-マントル境界域のレオロジー的性質を調べることは,プレート境界における粘性デカップリングの程度やスロースリップに代表される深部スロー地震の発生機構を理解する上で重要である(Tarling et al 2019; Tulley et al., 2022; Nishiyama et al., 2023).Nishiyama et al. (2023)は長崎県西彼杵変成岩類の三重メランジュにおいて緑泥石-アクチノ閃石片岩(chlorite-actinolite schist; CAS)からなる剪断帯を報告し,マントルウェッジ起源の蛇紋岩と沈み込んだ海洋地殻起源の塩基性片岩との間の交代作用の結果形成されたことを明らかにした.さらに,CAS中のアクチノ閃石には化学的ゾーニングやゾーニングを切る構造(truncation)が認められることから,CASの主要な変形機構が溶解-沈殿クリープであったと結論付けている.しかし,CASの変形機構を明らかにするための構造岩石学的研究は,西彼杵変成岩類のCASを除いてほとんど行われていない.そこで本研究では,長崎県野母変成岩類に分布するCASを研究対象として,微細構造解析を行った.
野母変成岩類の川原木場には,蛇紋岩と塩基性片岩の岩相境界に沿って超塩基性メランジュが数mから数10 mの幅にわたって分布する(西山ほか, 1997).CASは超塩基性メランジュに発達する片理と平行な開口割れ目を充填する形で産する.微細構造観察の結果,CASは主に緑泥石とアクチノ閃石で構成されることがわかった.緑泥石は顕微鏡下で針状の細粒粒子からなり,綾織状組織で構成されるレンズ状部,あるいは形態定向配列した片状部として存在するほか,アパタイトやアクチノ閃石から歪シャドウとして析出している.アクチノ閃石は顕微鏡下で針状または長柱状をなし,幅広い粒径分布を示す.本研究では,粒径50 μm以上を粗粒粒子,粒径50 μm未満を細粒粒子と定義した.やや不規則に配列する粗粒粒子には顕著な波動消光が認められるのに対し,細粒粒子には強い形態定向配列が認められる. 細粒粒子からなる領域について,電子後方散乱回折法を用いた結晶方位解析を行った結果,[100]軸が片理面に垂直な方向に,[010]軸が片理面に平行で線構造に垂直な方向に,[001]軸が線構造に平行な方向に配向する顕著な結晶方位定向配列(CPO)が認められた.逆極点図方位マップを見ると,比較的粗粒な粒子(粒径10~50 μm)を中心として波動消光や亜粒界が存在する.そして粒径範囲2.3〜50 μmにおいて,粒径が小さくなるにつれてファブリック強度および結晶内方位差の程度を示す指標であるGOS(Grain Orientation Spread)が低くなり,かつ隣接粒子間の差方位角が低角な粒子ペアが少なくなる特徴がみられた.また,細粒アクチノ閃石についてエネルギー分散型X線分析法を用いた元素マッピングを行った結果,粒子の長軸に沿ったアルミニウムのゾーニングが認められた.
以上の微細構造観察結果から,CAS中のアクチノ閃石の支配的な変形機構の遷移について,以下のようなシナリオを提案する.まず,粗粒粒子では転位クリープが支配的な変形機構として作用していたと考えられる.その後,亜粒界回転による動的再結晶により粒径減少が起こるにつれて,転位クリープの影響が少なくなり,流体存在下において粒径に敏感な溶解-析出クリープが支配的な変形機構として作用するようになったと考えられる.また,細粒粒子集合体に認められる形態定向配列は,細粒粒子の析出時において,より結晶成長速度が大きい長軸方向である[001]軸方向に成長したことを反映していると考えられる.このようなアクチノ閃石の粒径に依存した変形機構の遷移は,変形の進行に伴うCASの強度低下を引き起こすと予想され,メランジュ内での変形がCASに集中し,CASがプレート境界における粘性デカップリングや深部スロー地震を引き起こす要因として機能する可能性を示唆する(Nishiyama et al., 2023).
引用文献:Tarling et al. (2019), Nature Geoscience, 12, 1034-1042. Tulley et al. (2022), Geophysical Research Letters, 49, e2022GL098945. Nishiyama et al. (2023), Lithos, 446-447, 107115. Lee et al. (2022), Journal of Structural Geology, 155, 104505, 西山ほか(1997), 日本地質学会104年学術大会見学旅行案内書, 131-162.
野母変成岩類の川原木場には,蛇紋岩と塩基性片岩の岩相境界に沿って超塩基性メランジュが数mから数10 mの幅にわたって分布する(西山ほか, 1997).CASは超塩基性メランジュに発達する片理と平行な開口割れ目を充填する形で産する.微細構造観察の結果,CASは主に緑泥石とアクチノ閃石で構成されることがわかった.緑泥石は顕微鏡下で針状の細粒粒子からなり,綾織状組織で構成されるレンズ状部,あるいは形態定向配列した片状部として存在するほか,アパタイトやアクチノ閃石から歪シャドウとして析出している.アクチノ閃石は顕微鏡下で針状または長柱状をなし,幅広い粒径分布を示す.本研究では,粒径50 μm以上を粗粒粒子,粒径50 μm未満を細粒粒子と定義した.やや不規則に配列する粗粒粒子には顕著な波動消光が認められるのに対し,細粒粒子には強い形態定向配列が認められる. 細粒粒子からなる領域について,電子後方散乱回折法を用いた結晶方位解析を行った結果,[100]軸が片理面に垂直な方向に,[010]軸が片理面に平行で線構造に垂直な方向に,[001]軸が線構造に平行な方向に配向する顕著な結晶方位定向配列(CPO)が認められた.逆極点図方位マップを見ると,比較的粗粒な粒子(粒径10~50 μm)を中心として波動消光や亜粒界が存在する.そして粒径範囲2.3〜50 μmにおいて,粒径が小さくなるにつれてファブリック強度および結晶内方位差の程度を示す指標であるGOS(Grain Orientation Spread)が低くなり,かつ隣接粒子間の差方位角が低角な粒子ペアが少なくなる特徴がみられた.また,細粒アクチノ閃石についてエネルギー分散型X線分析法を用いた元素マッピングを行った結果,粒子の長軸に沿ったアルミニウムのゾーニングが認められた.
以上の微細構造観察結果から,CAS中のアクチノ閃石の支配的な変形機構の遷移について,以下のようなシナリオを提案する.まず,粗粒粒子では転位クリープが支配的な変形機構として作用していたと考えられる.その後,亜粒界回転による動的再結晶により粒径減少が起こるにつれて,転位クリープの影響が少なくなり,流体存在下において粒径に敏感な溶解-析出クリープが支配的な変形機構として作用するようになったと考えられる.また,細粒粒子集合体に認められる形態定向配列は,細粒粒子の析出時において,より結晶成長速度が大きい長軸方向である[001]軸方向に成長したことを反映していると考えられる.このようなアクチノ閃石の粒径に依存した変形機構の遷移は,変形の進行に伴うCASの強度低下を引き起こすと予想され,メランジュ内での変形がCASに集中し,CASがプレート境界における粘性デカップリングや深部スロー地震を引き起こす要因として機能する可能性を示唆する(Nishiyama et al., 2023).
引用文献:Tarling et al. (2019), Nature Geoscience, 12, 1034-1042. Tulley et al. (2022), Geophysical Research Letters, 49, e2022GL098945. Nishiyama et al. (2023), Lithos, 446-447, 107115. Lee et al. (2022), Journal of Structural Geology, 155, 104505, 西山ほか(1997), 日本地質学会104年学術大会見学旅行案内書, 131-162.
