講演情報
[T4-P-12]熊本地震破壊端部の岩石摩擦特性と断層破壊停止メカニズムの実験的検証
溝口 一生1、*飯田 高弘2、谷口 友規2、飯塚 幸子2 (1. 電力中央研究所、2. 株式会社セレス)
キーワード:
熊本地震、岩石摩擦特性、断層破壊停止メカニズム
はじめに2016年熊本地震では、布田川断層系のほぼ全域と日奈久断層系北部約5kmの区間で地表地震断層が出現した(Shirahara et al., 2016)。この地震における破壊伝播の北東端部については、阿蘇カルデラ下の高温領域が破壊進展を妨げたとする研究がある(Yue et al., 2017)。一方、南西方向への破壊が日奈久断層北部で終息した要因については、Aoyagi et al.(2020)が地震波速度構造との関連を指摘しているが、決定的な解明には至っていない。さらに、この破壊終端域では地震後に大規模な余効変動が観測されており(Hashimoto, 2020; 遠田ほか, 2021)、この領域の断層岩が特異な力学特性を有することを示唆している。本研究では、熊本地震の破壊終端部周辺から採取した岩石試料の摩擦実験を通じて、地震時の断層挙動を支配する要因を明らかにすることを目的とした。実験手法本研究では、熊本地震の南西破壊限界付近に分布し、地殻上部の地震発生層の基盤を構成する以下の岩石試料を採取した:(1)肥後変成帯の白亜紀前期変成砂岩、(2)間の谷変成帯の三畳紀~ジュラ紀緑色片岩および泥質片岩、(3)肥後深成岩体の白亜紀前期花崗閃緑岩。これらの岩石を粉砕・篩分けし、粒径100μm以下の粉末を模擬ガウジとして使用した。実験には二軸せん断試験装置を用い、金属ブロック(50×50×80mm、中央部は100mm)を3段に配置し、接触面(50×80mm)に厚さ3mmのガウジ層を挟んだ。ブロック表面には1mm間隔の溝(深さ0.1mm)を設け、ガウジ内部での変形を促進させた。垂直応力40MPa一定条件下で、中央ブロックをせん断変位させ、速度・状態依存性摩擦則に基づく摩擦係数の速度依存性パラメータ(a-b = Δμss/Δln(V))を測定した。せん断速度は0.3~100μm/sの範囲で段階的に変化させ、各速度での定常摩擦を確認後、速度ステップ試験を3サイクル実施した。試料は室温・湿潤条件で実験を行った。実験結果と考察実験の結果、全試料で初期の静摩擦ピーク後、変位量3mm付近で定常状態に遷移することが確認された。変位量14mm時点での定常摩擦係数は、緑色片岩(0.620)、泥質片岩(0.612)、花崗閃緑岩(0.607)、変成砂岩(0.601)の順となった。摩擦パラメータa-bは、全試料において変位量の増加とともに減少する傾向を示した。変位量10mm以降では、花崗閃緑岩のa-b値は一貫して負値(速度弱化)を示し、地震性すべりを生じやすい特性を持つことが判明した。対照的に、間の谷変成帯の岩石(緑色片岩および泥質片岩)と変成砂岩は-0.001~0.0005の範囲でa-b値が変動し、条件によっては正値(速度強化)となることが確認された。特に、泥質片岩においてすべり速度の増加に伴いa-b値が負から正へと系統的に変化した。この速度強化特性は、地震破壊時の断層すべり加速に対して摩擦強度が増加することを意味し、破壊伝播に対するブレーキとして機能する(Scholz, 1998)。これらの結果は、熊本地震の破壊が日奈久断層北部で停止した要因として、間の谷変成帯の岩石、特に泥質片岩が持つ速度強化的な摩擦特性が、動的破壊の進展を抑制するバリアーとして働いた可能性を強く示唆している。この地域で観測された顕著な余効すべりも、このような摩擦特性によって説明可能である。ただし、実際の断層帯は高間隙水圧下にあることから、今後は水飽和条件での系統的な実験を実施し、より現実的な地下環境での摩擦特性を評価する必要がある。
文献
Aoyagi, Y., Kimura, H., & Mizoguchi, K. (2020). Earth, Planets and Space, 72, 1-14.Hashimoto, M. (2020). Earth, Planets and Space, 72, 1-27.Scholz, C. H. (1998). Nature, 391(6662), 37-42.Shirahama, Y., Yoshimi, M., Awata, Y., Maruyama, T., Azuma, T., Miyashita, Y., ... & Miyakawa, A. (2016). Earth, Planets and Space, 68(1), 1-12.遠田晋次, 鳥井真之, 小俣雅志, 三五大輔, & 石澤尭史. (2021).活断層研究, 2021(54), 39-56.Yue, H., Ross, Z. E., Liang, C., Michel, S., Fattahi, H., Fielding, E., ... & Jia, B. (2017). Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 122(11), 9166-9183.
文献
Aoyagi, Y., Kimura, H., & Mizoguchi, K. (2020). Earth, Planets and Space, 72, 1-14.Hashimoto, M. (2020). Earth, Planets and Space, 72, 1-27.Scholz, C. H. (1998). Nature, 391(6662), 37-42.Shirahama, Y., Yoshimi, M., Awata, Y., Maruyama, T., Azuma, T., Miyashita, Y., ... & Miyakawa, A. (2016). Earth, Planets and Space, 68(1), 1-12.遠田晋次, 鳥井真之, 小俣雅志, 三五大輔, & 石澤尭史. (2021).活断層研究, 2021(54), 39-56.Yue, H., Ross, Z. E., Liang, C., Michel, S., Fattahi, H., Fielding, E., ... & Jia, B. (2017). Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 122(11), 9166-9183.
