講演情報

[T4-P-13]南部琉球弧および沖縄トラフに産する苦鉄質および珪長質火山岩の岩石学

*鵜澤 直己1、市山 祐司1、三澤 文慶2、石塚 治2 (1. 千葉大学、2. 産業技術総合研究所)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

沖縄トラフ、琉球弧

 西南日本には、フィリピン海プレートの沈み込みにより琉球弧が形成されており、その背後には、背弧海盆である沖縄トラフが形成されている。沖縄トラフは、海底拡大が始まる前の活動的な背弧海盆の希少な例として、火成岩類の岩石学的理解を深めることは、島弧−背弧海盆系の形成過程を理解する上で非常に重要である。琉球弧−沖縄トラフはトカラ海峡および慶良間海裂で北部、中部、南部の3つの領域に分けられる[1]。北部から中部では玄武岩質安山岩〜安山岩質の火山フロントを形成しており[2]、北部の背弧側では安山岩〜デイサイト質の、中部の背弧側では玄武岩質と珪長質の火成活動が報告されている[3‒5]。南部では陸上火山島は存在せず、火山フロントの位置が不明瞭であるが、珪長質および苦鉄質岩が海底火山から採取されている。南部琉球弧−背弧リフトでは未だ火成プロセスに関する研究が少ないものの、背弧リフト(八重山地溝帯)内の玄武岩のうち、東縁に位置する伊良部海丘の玄武岩は、同じ地溝帯内の他の場所と比較してスラブ蛇紋岩や変質した海洋地殻由来の流体の寄与が特に強い可能性が指摘されている[6]。伊良部海丘は、地溝帯内に形成された玄武岩質火山であるが、火山フロントに近く、マントルへの流体流入量が高いため、島弧火山岩の特徴を持つと考えられる。また、南部琉球弧では珪長質火山岩が得られているが、岩石学的性質について検討された例は少なく、その特徴や成因については不明な点が多い。本研究では、伊良部海丘の玄武岩質火山岩の岩石学的な特徴づけを行い、北部琉球弧に産する苦鉄質火山岩との比較を行った。また、南部琉球弧の珪長質岩と伊豆・マリアナ弧や東北日本弧で見られる珪長質岩を比較検討し、南部琉球弧−沖縄トラフの火成活動を包括的に解明することを目的とする。
 本研究では、「しんかい 2000」および「ハイパードルフィン」によって南部琉球弧−沖縄トラフの第2小浜海丘、鳩間海丘、第4与那国海丘、伊良部海丘、石垣グラーベン(航海番号:KY14-02、 KS-24-1、N96-07、 NT09-10_leg2、 NT11-17、 NT11-20、NT13-25、YK00-06_leg2)から採取された珪長質および苦鉄質岩の試料を用いた。伊良部海丘の苦鉄質岩はかんらん石、単斜輝石、斜長石、直方輝石斑晶を含む玄武岩~安山岩で、鏡下観察により上記の順で斑晶鉱物が結晶化したと考えられる。伊良部海丘の苦鉄質岩の全岩化学組成は、北部および中部琉球弧に産する苦鉄質岩のトレンドと重なる、島弧ソレアイト的な分化トレンドを示し、中部沖縄トラフのトレンドとは異なる。共存するかんらん石斑晶のFo値(67−85)と斜長石斑晶のAn値(61−91)は、島弧火成岩の組成トレンドと一致し、島弧火成岩とMORBの中間的なトレンドを示す中部沖縄トラフとは異なる。また、伊良部海丘の単斜輝石斑晶には、極めてMgに富み(Mg#=0.93−0.96)、TiO₂に乏しい(<0.2 wt.%)単斜輝石が包有され、枯渇したMgに富むマグマの関与が暗示される。北部および中部琉球弧に産する苦鉄質岩と比較すると、伊良部海丘の苦鉄質岩のLILE/HFSE比は同等の値を示し、北部〜中部琉球弧マントルと同様の流体流入の関与が示唆される。南部琉球弧に産する珪長質岩はデイサイトから流紋岩質で、斜長石、角閃石、石英、不透明鉱物の斑晶が見られ、稀に斜長石、角閃石、単斜輝石、不透明鉱物の組み合わせからなる苦鉄質深成岩片が観察される。全岩や斜長石の化学組成は採取場所によって不均一であり、単一の苦鉄質マグマからの結晶分別作用によって形成される可能性は低く、地殻の部分溶融で形成された可能性が考えられる。このことは、苦鉄質包有物を含むことからも支持される。化学組成の不均質は地殻物質の部分溶融程度の違い、または地殻物質の化学組成の違いに起因していると考えられる。微量元素の特徴は、伊豆・マリアナ弧よりも東北日本弧の珪長質火山岩に類似しており、大陸縁辺部で形成される珪長質火山岩の特徴を示す。

参考文献
[1]Kizaki, 1986, Tectonophysics, 125, 193-207.
[2]中野・下司, 2008, 地質調査研究報告, 59, 197-201.
[3]松本・松本, 1966, 火山. 第 2 集, 105-115.
[4]Shinjo et al., 1999, J. Geophy. Res., 104, 10591-10608.[5]Shinjo and Kato, 2000, Lithos, 54, 117-137.
[6]Zhang et al., 2021, J. Geophy. Res., 126, e2021JB021709