講演情報

[T4-P-14]変質岩脈中に密に発達する小断層から推定される地殻浅部の応力状態

*安邊 啓明1,2、中嶋 徹1,3、西山 成哲1、箱岩 寛晶1,4、石原 隆仙1,5、木田 福香1、小北 康弘1、丹羽 正和1 (1. 日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター、2. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門、3. 富山大学、4. 応用地質株式会社、5. 中央開発株式会社)
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キーワード:

岩脈、熱水変質、小断層、応力状態

 一般に地殻の応力状態は,深度方向に変化することが知られている.しかし,応力状態の推定に地質時代の変形構造を利用する場合,形成深度,すなわち応力が働いた深度に関する情報を得ることが難しい.我々は,鳥取県三朝町において変質岩脈(岩脈A)中に密に発達した露頭規模の断層(小断層)群を見出した.岩脈が変質を被った深度や環境,および変質と小断層形成の前後関係を推定できれば,小断層の形成深度を制約できる可能性がある.そこで,岩脈Aおよび近隣の比較的堅固な岩脈(岩脈B)について,XRFによる元素組成分析,XRDによる鉱物学的分析,EPMAによる組成像撮影を行い,岩脈Aの変質環境,および小断層の形成環境を推定した.また,岩脈A中および母岩に発達した小断層について,それぞれ応力逆解析を行い,岩脈A中の小断層の形成機構や母岩との違いを検討した.
岩脈Aは花崗岩に貫入し,黄褐色の粘土状に著しく変質・風化している.幅は約80 cm,南北走向で概ね鉛直に貫入する.顕微鏡下では,微細な斜長石や火山ガラスが識別され,斑状組織様の内部構造を有しており,著しく変質した火山岩であることが分かるが,より詳細に岩種を同定できるような鉱物や初生的な内部組織は観察できなかった.岩脈A内部には厚さ1 mm未満の面状の黒色脈が,数cmから十数cmの間隔で網目状に発達する.多くの黒色脈の面上には条線が見られ,容易に小断層を識別できる.岩脈Bは岩脈Aと同様に花崗岩に貫入しており,黒色で比較的堅固である.石基をなす斜長石結晶が比較的大きく,粗粒なインターサータル組織をなす,直方輝石単斜輝石安山岩である.斜長石は一部変質を受けている,または汚濁帯を形成している.
HFS元素を用いた化学組成の判別によって,岩脈A, Bは同様の化学組成を持つマグマ起源であると推定された.変質・風化指数によると,岩脈Aが相対的に強く風化・変質を受けていると判断される.岩脈Bを源岩,岩脈Aを変質・風化後の岩石であると仮定してアイソコン解析を行ったところ,変質過程でMgO, Cr, Ni, Pb が増加し,CaO, Na2O, K2O, P2O5, Rb, Sr が減少したことが分かった.CaO, Na2O, K2Oの減少は,斜長石や火山ガラスの加水分解による粘土鉱物の生成過程における溶脱で説明できる.XRD分析の結果,岩脈Aにのみハロイサイトが生成していることが分かった.ハロイサイトは,熱水変質作用や地表における風化作用で生成されることが知られている.岩脈A中の黒色脈について組成像観察を行った結果,Mnなどの重元素が濃集した,厚さ数~数十μmの脈状の領域(重元素濃集部)が黒色脈内部に存在することが分かった.Mnは熱水中に溶存しやすいことが知られており,酸化的な環境において沈殿しやすい特徴を持つ.また,重元素濃集部の幾何学形態は,これらの元素が剪断変形と同時に沈殿したことを示唆する.以上の分析・観察から,局所的に湧出した熱水によって岩脈Aが選択的に変質し,地殻浅部の酸化帯(深度数十~百数十m以浅)において岩脈A中の小断層群が形成されたと考えられる.
岩脈A中の小断層群の応力逆解析によって,応力比が低く現世応力と主軸方位が近い応力(応力α)が検出された.多くの小断層はこの応力のσ3 軸または σ2 軸に直交する姿勢である.このような小断層の方位分布は,差応力の小さな応力状態下での異常流体圧などに伴う応力の低下によって,グリフィスの破壊基準に従って形成された可能性がある.また,岩脈A中の小断層群は母岩の花崗岩に発達する小断層群と比較して,応力αで説明可能な滑り方向の小断層の割合が大きい.このことから,地殻浅部では母岩の花崗岩中よりも変質岩脈中で小断層が形成されやすかったと考えられる.
<謝辞> 市村正如氏,田村友識氏には,三朝地域の露頭をご紹介いただいた.山田来樹氏には薄片観察やXRF分析結果の解釈についてご助言いただいた.本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和5–6年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性総合評価技術開発)」の成果の一部である.