講演情報
[T4-P-15]風化作用で等体積変化している安山岩での元素移動
*中田 英二1 (1. 電力中央研究所)
キーワード:
コアストーン、ボロノイ、等体積変化、LA-ICP-MS
風化の前後で安山岩の体積が変化しないこと,TiやZr, Feがmobileであるもののほとんど移動していないことを示した.
1.はじめに
変質作用に伴う元素移動の議論は変質作用前後でTiやZr, Nbを不動元素とし,単位体積あたりの含有量が変わらないと仮定することで行われている(Taboada et al.,2008; Hayes et al.,2019).しかしながらこの不動元素の仮定が正しいかは明らかではない.このため風化作用に着目し,新鮮岩と風化部が連続するコアストーンの風化部から風化前の含鉄鉱物の分布を求め,新鮮部のそれとの比較と元素移動について紹介する.
2.調査地点
調査地点は,山口県下関市豊田町稲見である.調査地点には前期白亜紀系の関門層群下関層亜層群の単斜輝石安山岩が広く分布している.調査はこの単斜輝石安山岩を対象に実施した.本地域には侵食小起伏面が発達しており,地表部では赤色帯びサプロライト化した単斜輝石安山岩が広く分布している.サプロライトの厚さは20m以上におよぶ.河川争奪の結果,大河川が発達せず,サプロライトは侵食から免れ厚い風化帯が保存されたと推察できる.調査にもちいたコアストーンは地表面で採取した.このコアストーンの直径は約20cmで,表面には厚さ2㎝の風化殻が形成されていた.
3.調査方法
体積変化はコアストーンを切断した面で測定したFeの分布から予想した.使用した機器はHoriba製XGT-7200で,解析はImageJで作成したボロノイ図を利用した.Feは移動元素であるものの風化殻と新鮮岩両者で斑点状に分布している.Feは新鮮岩中に含まれるTi磁鉄鉱や単斜輝石に含まれており,風化殻中でもこれらの斑晶中に赤色に酸化して残留している.Feの二値化はXGT-7200で得られたFeの分布とImageJで抽出した点が概ね一致することを目視で確認し閾値(抽出画素)を設定した上で実施した.このため風化殻と新鮮岩で二値化のための閾値は異なる.ボロノイ図を作成したのち,解析領域に占める各ボロノイ領域の面積分布を頻度グラフにした.元素組成はEPAMとLA-ICP-MSのマルチ分析で実施した(投稿中).検討に用いた元素の数は46である.
4.結果
図1に風化殻と新鮮岩でFeの面積分布の頻度グラフを示した.両者ともに面積分布の頻度グラフはおおむね一致しており,風化殻生成前後で含鉄鉱物の分布面積が変化していないこと,すなわち岩石の体積が変化していない傾向が得られた.このことは密度を測定すれば元素濃度の違いから風化殻生成前後での元素の挙動がわかることを示している.元素濃度と密度計測の結果,風化殻で増加するものよりも減少する元素の方が多く,HREEよりもLREEの方が移動し難いこと,TiやZr , Feはほとんど移動しない元素に相当する傾向が得られた.
5.考察
今回,当該安山岩コアストーンから風化前後で体積変化していない傾向が得られた.このことは既存の報告(White, 1998, Nakata and Ohta, 2022)で行われるiso-volumetricな仮定が正しいことや,TiやZr,Feがほとんど移動しない元素に相当することを示している.今回のコアストーンにはTi磁鉄鉱が多く含まれる.このため帯磁率は新鮮部で大きく,赤色化した風化殻で小さい.SEM観察では白色脱色部にTiに富む球状の粒子が形成されている様子が得られた.この様子はTiが移動元素であることを示している.すなわち,Tiはほとんど移動しない元素に相当するものの,地下水中に溶出する移動元素に該当することになる.この矛盾から,TiはTi磁鉄鉱の溶出に伴い間隙水中に移動するものの,溶出した粒子の極周辺で凝集沈殿したと推察される.すなわちTiはTi磁鉄鉱界面で作られる低pH環境でイオン化したものの,すぐにpHが上昇し,Ti磁鉄鉱周辺に留まり,みかけ上不動元素になっていると推察する.
【引用文献】Taboada, T., et al.,2006 Geoderma , 131, 218-236.Hayes, J. L., et al.,2019 Science Advances, 5, 1-11.White, A. F.,1998 Geochimica et Cosmochimica Acta, 62, 209-226.Nakata, E., Ohta, T. 2022 RMEGV, (1st ed.), 289-295.
1.はじめに
変質作用に伴う元素移動の議論は変質作用前後でTiやZr, Nbを不動元素とし,単位体積あたりの含有量が変わらないと仮定することで行われている(Taboada et al.,2008; Hayes et al.,2019).しかしながらこの不動元素の仮定が正しいかは明らかではない.このため風化作用に着目し,新鮮岩と風化部が連続するコアストーンの風化部から風化前の含鉄鉱物の分布を求め,新鮮部のそれとの比較と元素移動について紹介する.
2.調査地点
調査地点は,山口県下関市豊田町稲見である.調査地点には前期白亜紀系の関門層群下関層亜層群の単斜輝石安山岩が広く分布している.調査はこの単斜輝石安山岩を対象に実施した.本地域には侵食小起伏面が発達しており,地表部では赤色帯びサプロライト化した単斜輝石安山岩が広く分布している.サプロライトの厚さは20m以上におよぶ.河川争奪の結果,大河川が発達せず,サプロライトは侵食から免れ厚い風化帯が保存されたと推察できる.調査にもちいたコアストーンは地表面で採取した.このコアストーンの直径は約20cmで,表面には厚さ2㎝の風化殻が形成されていた.
3.調査方法
体積変化はコアストーンを切断した面で測定したFeの分布から予想した.使用した機器はHoriba製XGT-7200で,解析はImageJで作成したボロノイ図を利用した.Feは移動元素であるものの風化殻と新鮮岩両者で斑点状に分布している.Feは新鮮岩中に含まれるTi磁鉄鉱や単斜輝石に含まれており,風化殻中でもこれらの斑晶中に赤色に酸化して残留している.Feの二値化はXGT-7200で得られたFeの分布とImageJで抽出した点が概ね一致することを目視で確認し閾値(抽出画素)を設定した上で実施した.このため風化殻と新鮮岩で二値化のための閾値は異なる.ボロノイ図を作成したのち,解析領域に占める各ボロノイ領域の面積分布を頻度グラフにした.元素組成はEPAMとLA-ICP-MSのマルチ分析で実施した(投稿中).検討に用いた元素の数は46である.
4.結果
図1に風化殻と新鮮岩でFeの面積分布の頻度グラフを示した.両者ともに面積分布の頻度グラフはおおむね一致しており,風化殻生成前後で含鉄鉱物の分布面積が変化していないこと,すなわち岩石の体積が変化していない傾向が得られた.このことは密度を測定すれば元素濃度の違いから風化殻生成前後での元素の挙動がわかることを示している.元素濃度と密度計測の結果,風化殻で増加するものよりも減少する元素の方が多く,HREEよりもLREEの方が移動し難いこと,TiやZr , Feはほとんど移動しない元素に相当する傾向が得られた.
5.考察
今回,当該安山岩コアストーンから風化前後で体積変化していない傾向が得られた.このことは既存の報告(White, 1998, Nakata and Ohta, 2022)で行われるiso-volumetricな仮定が正しいことや,TiやZr,Feがほとんど移動しない元素に相当することを示している.今回のコアストーンにはTi磁鉄鉱が多く含まれる.このため帯磁率は新鮮部で大きく,赤色化した風化殻で小さい.SEM観察では白色脱色部にTiに富む球状の粒子が形成されている様子が得られた.この様子はTiが移動元素であることを示している.すなわち,Tiはほとんど移動しない元素に相当するものの,地下水中に溶出する移動元素に該当することになる.この矛盾から,TiはTi磁鉄鉱の溶出に伴い間隙水中に移動するものの,溶出した粒子の極周辺で凝集沈殿したと推察される.すなわちTiはTi磁鉄鉱界面で作られる低pH環境でイオン化したものの,すぐにpHが上昇し,Ti磁鉄鉱周辺に留まり,みかけ上不動元素になっていると推察する.
【引用文献】Taboada, T., et al.,2006 Geoderma , 131, 218-236.Hayes, J. L., et al.,2019 Science Advances, 5, 1-11.White, A. F.,1998 Geochimica et Cosmochimica Acta, 62, 209-226.Nakata, E., Ohta, T. 2022 RMEGV, (1st ed.), 289-295.

