講演情報
[T4-P-17]摩擦溶融を伴って繰り返す斑レイ岩質断層の地震性すべりにおける力学・エネルギー・微細構造の進化
*サルカール デュティ プラカシュ1、廣瀬 丈洋2、谷川 亘2、濱田 洋平2、奥田 花也2 (1. 山口大学、2. 高知コア研究所)
キーワード:
摩擦熔融、繰り返し地震すべり、すべり弱化機構、弱化エネルギー
断層に沿った地震活動は、剪断破壊の不安定化により、断層コアおよび周囲の破砕帯にダメージが蓄積されることで発生すると考えられている。こうした断層はしばしば繰り返して地震性すべりを経験し、その過程で断層帯の構造的不均質性および力学的特性が複雑に変化する。しかし、これらの繰り返す地震性すべりに伴う断層の力学特性、エネルギー収支、ならびに微細構造の進化については、依然として不明な点が多い。本研究では、模擬的な斑レイ岩質断層を用いて多重すべりパルス実験を実施し、繰り返す高速剪断に伴う断層の力学特性と構造が変化する過程を明らかにすることを目的とした。実験は常温・乾燥条件下で実施され、Belfast産斑レイ岩の中空円筒試料を使用し、JAMSTEC高知コア研究所設置の流体制御型高速摩擦試験機(Pressurized High Velocity rotary shear apparatus, PHV)を用いた。すべり速度は約1 m/s、法線応力は約4 MPaの条件でせん断を加えた。各すべりパルス(模擬的な地震イベント)の変位は3.8 mで、最大で5回のすべりパルスを1試料に対して実施した。断層面のヒーリングおよびその時間依存性を評価するため、各すべりパルス間の保持時間を4条件(10秒、100秒、1000秒、3600秒)設けた実験を実施した。すべりパルスに伴う軸方向の短縮が確認され、その累積短縮量は最大で約1 mmに達した(5パルス実験)。実験中には、摩擦試料の接触面において摩擦発熱が生じ、赤外線カメラによる測定から、模擬断層面では1100〜1300℃に達することが確認された。この温度上昇に伴って断層面の部分的な熔融が生じ、すべてのすべりパルスにおいて二段階のすべり弱化挙動が観察された。最初の弱化はすべりの初期に、次の弱化は第二のピーク応力の後にみられ、それぞれフラッシュヒーティングおよび熔融層の形成・成長に起因すると解釈される。興味深いことに、すべり弱化に必要な変位量はパルスの繰り返しに伴って減少し、各パルスにおける最大温度も段階的に低下した。回収試料については、X線CTおよび走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた薄片観察により、微細構造の進化を詳細に検討した。その結果、各すべりパルス後に形成された厚さ100〜200 µmの熔融層が保存されており、シュードタキライト様の組織が確認された。特にパルス間の保持時間が100秒の試料においては、複数段階の熔融層が保存されており、さらに隣接する粉砕部への熔融物の注入構造が観察された。以上の結果は、摩擦熔融を伴うすべり弱化に必要なエネルギーが、地震性すべりの繰り返しとともに段階的に減少することを示しており、断層帯のエネルギー収支および力学特性の進化に対する新たな制約を提供するものである。
