講演情報

[T7-P-2]沖縄県国頭郡に分布する名護層千枚岩の風化過程と赤色土壌への変遷:侵食と堆積およびREE挙動の検討

*山口 季彩1、筬島 聖二1、吉田 孝紀1 (1. 信州大学)
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キーワード:

国頭マージ、風化、土壌生成、希土類元素

 はじめに: 沖縄県は亜熱帯海洋性気候に属し,高温多湿な気候を示す.沖縄本島北部には国頭(くにがみ)マージと呼ばれる侵食性の高い赤色土,黄色土が多く分布しているが,農地の造成方法,形態等と相まって,これらの分布地域では,降雨による土壌侵食のリスクが極めて高い[1].これまでに国頭マージの物理的・化学的性質が報告されているが[1][2],その生成過程および詳細な侵食と流出のプロセスには不明な点が多い.本研究は,沖縄県中北部に分布する名護層千枚岩の風化過程に着目し,その風化生成物が赤色の土壌(国頭マージ)へと変化する過程と,侵食,堆積システムおよびREE挙動について考察することを目的とする.
研究手法:名護層千枚岩を母材とする沖縄県国頭郡大宜味村白浜地区の山中に位置する白浜露頭と,東村川田地区の海岸に位置するアカアササキ露頭(白浜露頭から東方向に5㎞)の2か所において,露頭観察,岩石薄片観察による組織的変化,密度,含水比,空隙率,土壌硬度測定による物性変化,XRDによる鉱物組成変化,XRFおよびICP-MSによる化学組成およびREE組成の変化を検討した.
結果:アカアササキ露頭は,暗灰色を呈する比較的新鮮な名護層千枚岩が,片理や割れ目から風化し赤色に変化する過程が垂直的に保存されている.原岩の方解石や斜長石,緑泥石が消失し,カオリナイトが生成するほか,これに伴うCaOやNa2O,MgOの減少傾向が見られる.一方白浜露頭は全体的に強い風化を被っており,片理構造が破壊された様相を呈する名護層千枚岩と,これを礫質な砂堆積物(国頭礫層)が不整合関係で覆う露頭で,露頭最上部は赤色土壌に変化している.堆積物層内での土壌化に伴い白雲母やカリ長石が消失し,針鉄鉱やギブサイト,バーミキュライトやイライト/スメクタイト混合層粘土鉱物の生成が認められた.鉱物の溶解に伴いK2Oが減少しており,離れた場所に位置する2つの露頭の千枚岩の風化過程をA-CN-K図[3]に表すと,アカアササキ露頭でA-K軸方向に向かったのちに白浜露頭でA頂点方向に向かい,これらの変化に伴ってCIA値[3]は徐々に減少するという一連の傾向を辿る.物性試験では,アカアササキ露頭でのかさ密度減少と含水率,空隙率の増加,白浜露頭では,地表面付近での急激な土壌硬度の低下が認められた.REEのC1コンドライト規格化ダイアグラム[4]によると,アカアササキ露頭と白浜露頭の千枚岩サンプルは上方に向かってLREE濃度が徐々に減少し,ダイアグラムの形状は右下がりから水平に変化する特徴を示し,Eu負異常が徐々に強まる傾向がある.また,アカアササキ露頭の最上部と白浜露頭の不整合面直下の千枚岩はCe正異常を示す.一方,白浜露頭の堆積物は異なる傾向を示し,不整合面直上のサンプルではMREEが溶脱し,Ce異常が認められないU字型,地表面付近のサンプルではCe正異常とHREEの若干の富化が見られるV字型を示している.
議論:千枚岩の風化は片理や割れ目などの構造的特徴に制御されるほか,一次鉱物の溶解と粘土鉱物の生成は,空隙や含水率の増加とこれに伴うかさ密度の減少,土壌の硬度低下と密接に関連していると推測され,物性が変化した箇所は新たな侵食を引き起こす風化段階を示すことが考えられる.アカアササキ露頭と白浜露頭の千枚岩のREEパターンは,ともに風化によってLREEの減少とEu負異常値の増加を示すことから,A-CN-K図やCIA値と同様に,名護層千枚岩の風化を正確に定量できる指標になり得る.白浜露頭の千枚岩や地表付近の堆積物サンプルのREEパターンではCe正異常が認められるにもかかわらず,不整合面直上の礫質堆積物サンプルにおいては生じていない.Ce正異常が地表に露出し酸化的環境下で強風化を被ったことに起因するものと考えると,波浪あるいは河川の作用による不整合面形成時に一度,酸化的環境下で風化を被り,その後堆積物が流入し再度風化を被ったことで白浜露頭が形成された可能性がある.
引用文献:[1]翁長謙良・吉永安俊・渡嘉敷義浩, 1994, 農業土木学会誌, 62巻, 4号, 307-314. [2]宮城調勝・近藤 武, 1990, 農業土木学会論文集, 1990巻, 149号, 39-44. [3]Nesbitt H. W. and Young G. M.,1982, Nature, 299, 715-717. [4]Sun S. S. and McDonough W. F. 1989, Geological Society of London, 42, 313-345.