講演情報
[T7-P-11]2011年東北地方太平洋沖地震に伴って発生した混濁流の成因は何か:数値実験による検討
*成瀬 元1、中西 諒2 (1. 京都大学、2. 産業技術総合研究所)
キーワード:
土砂重力流、ニューラルネットワーク、逆解析、津波、深海
2011年東北地方太平洋沖地震による津波は日本海溝で混濁流(turbidity current)を引き起こした。この現象は海底設置型圧力計(OBP)および堆積物コアの分析により確認されている。特に、直径75 cm、重さ42 kgのOBPが約1 km移動しており、その移動には2.3 m/s以上の流速が必要であることが分かっている。また、堆積物コアでは広範囲にわたって最大60 cmを超える津波起源の混濁流堆積物(津波タービダイト)が確認されている。本研究では、この津波起源混濁流の発生メカニズムを数値実験を用いて検討した。数値モデルとして2次元浅水混濁流モデルを用い、地震による底質液状化と津波による海底侵食という二つの仮説を検証した。数値実験の結果、地震起因モデルでは混濁流が海溝まで到達可能であるが、観察された広範囲の堆積を再現できないことが判明した。一方、津波起因モデルでは、海底の侵食とそれに伴う懸濁物の自己加速により、複数回のサージに分かれて広域に堆積物を供給する現象が再現され、869年貞観津波に伴う混濁流堆積物の分布とも一致した。しかし、Delft 3Dを用いた津波数値シミュレーションによると、2011年津波でさえも単独では十分な懸濁物を生じさせることが難しいことが示された。このため、地震による底質の液状化と津波による侵食が複合したメカニズム(ハイブリッドモデル)の考慮が必要であると考えられる。また、深層ニューラルネットワーク(DNN)を用いた逆解析により、堆積物コアデータから混濁流の初期条件の復元可能性を検討した。人工データによる予備的な解析では、コアの数を増やすことで混濁流の初期条件推定の精度が向上することが示された。本研究により、津波起因の混濁流が深海堆積物記録の形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなり、巨大地震の歴史復元のための手法的枠組みを提示した。今後は、高解像度の地形データを組み込んだモデルの改良とコア試料のさらなる増加を通じて、逆解析の精度向上を目指す。
