講演情報

[T7-P-12]浅海域における津波による海底侵食量の検討

*横山 由香1、松中 哲也2、落合 伸也2、坂本 泉1 (1. 東海大学海洋学部、2. 金沢大学環日本海域環境研究センター)
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2011年東北地方太平洋沖地震津波、津波堆積物

 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震津波(以下,2011年東北沖地震津波)によって東北地方太平洋沿岸域は甚大な被害を受けた.2011年東北沖地震津波後は,海域から陸域にかけて津波堆積物に関する研究が行われ,堆積物が広範囲にわたって分布することが報告された.三陸海岸浅海域では,津波による地形変化,津波堆積物の特徴・分布,津波時堆積過程および地震津波発生から約10年間での経年変化検討が行われている(横山他,2024など).それらの特徴から,津波が海域に広く堆積物を運搬すること,それに伴い海底面を攪乱・侵食することが明らかとなった.しかし,地震津波以前の情報が少ない浅海域では,津波が海底に与えた直接的な影響の全容は明らかとなっていない.本研究では,津波による海底の侵食量を検討するべく,津波によって侵食される以前の海底面の復元を試みる.
 海底面の復元は,岩手県陸前高田市広田湾で2015年採取した堆積物試料(水深30 m)を用いて行った.堆積物試料のうち,津波前層の堆積速度を求め,本来の海底面(津波が発生しなかった場合の面)と実際に採取された試料から確認された海底面(津波による影響を受けた後の面)の差を得ることで,津波が海底面をどれほど侵食したのかを推定することを試みた.堆積速度は,金沢大学所有のゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペクトルメトリー法によってPb-210およびCs-137を検出し求めた.また,合わせてC-14年代測定を用いた.ガンマ線スペクトルメトリー法では,9層(津波堆積物層:5層,津波前層:6層),C-14年代測定では津波前層から3層の分析を行った.
 その結果,津波堆積物層(0~13 cm層)では,Cs-137とPb-210ともに確認されたが,津波前層では未検出となった.したがって,津波前層は,少なくとも100年以上前に堆積した層であることが示唆された.また,Cs-137は津波堆積層最上位(0~6 cm)でのみ検出され,その下位では未検出となった.これより,6 cmを境にその上位と下位で堆積時期または過程が異なることが推察される.2011年東北沖地震津波時には,地震発生後の3月12日に福島第一原発の事故対応によるガス放出が行われ,地震後の調査から,ガス放出に伴いCs-137も放出されたことが確認されている.実際に,東日本の広範囲の沿岸海底堆積物からCs-137が検出された(乙坂,2013).したがって,本研究で確認されたCs-137は,福島第一原発由来のものと推定され,最上位は3月12日以降に堆積した堆積物と推定される.最上位の堆積物は,粗粒シルトからなり,津波による影響があった3月11日には堆積せず,津波の影響がなくなった3月12日以降にゆっくりと海底に堆積したと考えられる.
 津波前層から210-PbおよびCs-137が検出されなかったため,津波堆積物層直下にあたる津波前層(①14~15 cm層,②16~17 cm層,③17~18 cm層)においてC-14分析を行った.その結果,津波堆積物層直下の堆積年代は①1631~1669 calAD,②1616~1646 calAD,および③1540~1635 calADと推定された.単純計算で堆積速度を考えると,①~③の約4 cm堆積するには,最も早い場合で約30年(0.13 cm/年),最も遅い場合では約130年(0.03 cm/年)かかる.この結果から,非常に簡易的に海底面の復元を考える.堆積物試料の18 cm層が,1635 calADだと仮定すると,2011年までは342年間あるため,堆積速度が最も速い場合では,2011年時には層厚44.5 cm堆積していた可能性が考えられる.しかし,実際には,層厚18 cmしかないことから,約25 cm分減少したと考えられる.逆に堆積速度が最も遅い場合では,海底面下に層厚10.3 cm堆積したと考えられ,むしろ津波後で堆積物量が増えたと推察される.津波時には,海底侵食が起きた後または同時に,堆積物が形成され,堆積速度・場所によっては,結果として侵食で減少する量より,新規に堆積した堆積物量が多い可能性が示唆された.これらは,あくまで単純計算からの推察結果のため,地形・堆積構造・粒度組成とも合わせ,年代結果をより慎重・詳細に解析を行う必要がある.
[引用文献]横山ほか(2024)JPGU2025,MIS-07.乙坂(2013)Isotope News, 710, 12-15.