講演情報
[T7-P-14]2024年スペイン洪水に伴うクレバススプレー堆積物の現地調査
*山田 昌樹1、笹本 弦1、DRAEGER Amy2、KASSEM Hachem2、VILLAFAÑE Patricio3、DELLA VEDOVA Micaela4、GARNIER Roland5、渡部 真史2 (1. 信州大学、2. サウサンプトン大学、3. バレンシア大学、4. アルゼンチン国立科学技術研究会議・トゥクマン国立大学、5. バスク応用海洋科学研究所)
キーワード:
河川氾濫、洪水堆積物、破堤堆積物、バレンシア
2024年10月29日に発生したスペインの洪水は,近年ヨーロッパで観測された中でも最も壊滅的な災害の一つであり,広範囲にわたって甚大な被害をもたらした.この洪水により,バレンシアやマラガなどの都市を含むスペイン南東部の沿岸および内陸部で200人以上が犠牲となり,数万世帯が浸水した.さらに,農業や交通インフラにも深刻な影響が及んだ.
このような現世で発生した大規模洪水の現地調査は,イベントの規模や河川氾濫プロセスを明らかにする上で極めて重要である.スペインでは,バレンシア州政府(Generalitat Valenciana)が2024年10月29日のDANA(Depresión Aislada en Niveles Altos)に伴う浸水被害について,浸水範囲および浸水深の地理情報を公開している.これにより,本洪水の広域的な氾濫状況を把握することは可能であるが,それだけでは局所的な氾濫や堆積のプロセスを詳細に復元することは困難である.
このような背景のもと,私たちは2025年7月1日〜7日にかけて,スペイン・バレンシア州カタロハのチュリア川右岸に広がる水田地帯において現地調査を実施した.調査地域は,イベント直後に撮影された空中写真の判読に基づき,大規模なクレバススプレー地形が確認された場所を選定した.バレンシア州政府が公開する地理情報によれば,当該地域の最大浸水深はおおむね1 m前後であった.発生から9ヶ月が経過し,地域の復旧作業が進んでいたため,多くの場所では洪水によって形成された堆積物がすでに除去されていた.しかし,現地作業員の協力により,クレバススプレー堆積物を含む断面の一部を重機により残してもらうことができた.これにより,幅約43 mにわたる連続的な河川と直交する地層断面を対象とした調査が可能となった.
残された断面に対しては,ねじり鎌を用いて表面を整形した上で,堆積物の記載および1 m間隔での層厚測定を実施した.また,iPhone 15 Pro MaxにインストールしたPolycamアプリを用いて,LiDARスキャンおよびフォトグラメトリー撮影を行い,断面を三次元的に記録した.さらに,粒度分析を目的として,5 m間隔でクレバススプレー堆積物の最下部・中央部・最上部の3層準から試料を採取した.
クレバススプレー堆積物は明褐色を呈し,主に細粒砂から構成されていた.下位の水田土壌は黒色を呈し,その表面には稲刈り後に焼却された稲株の根元が認められたため,地層境界の識別は容易であった.この境界面は極めて明瞭かつ侵食的であり,典型的なイベント堆積物の特徴を示していた.観察した全長43 mの地層断面において,クレバススプレー堆積物の層厚は20〜65 cmの範囲で大きく変化しており,調査地に顕著な地形的起伏がないにもかかわらず,著しい厚さの変化が確認された.クレバススプレー堆積物の層相は大きく3つに区分されると考えられる:下位から,(1)クライミングリップル葉理を示す泥質砂層,(2)平行葉理を示す砂層,(3)斜交葉理を示す砂層である.本要旨は現地調査直後に作成しており,詳細な解析データはまだ示すことができないが,大会当日までには粒径分布および堆積構造の分析を進め,クレバススプレー堆積物の形成プロセスや堤防決壊の経緯について考察する予定である.
このような現世で発生した大規模洪水の現地調査は,イベントの規模や河川氾濫プロセスを明らかにする上で極めて重要である.スペインでは,バレンシア州政府(Generalitat Valenciana)が2024年10月29日のDANA(Depresión Aislada en Niveles Altos)に伴う浸水被害について,浸水範囲および浸水深の地理情報を公開している.これにより,本洪水の広域的な氾濫状況を把握することは可能であるが,それだけでは局所的な氾濫や堆積のプロセスを詳細に復元することは困難である.
このような背景のもと,私たちは2025年7月1日〜7日にかけて,スペイン・バレンシア州カタロハのチュリア川右岸に広がる水田地帯において現地調査を実施した.調査地域は,イベント直後に撮影された空中写真の判読に基づき,大規模なクレバススプレー地形が確認された場所を選定した.バレンシア州政府が公開する地理情報によれば,当該地域の最大浸水深はおおむね1 m前後であった.発生から9ヶ月が経過し,地域の復旧作業が進んでいたため,多くの場所では洪水によって形成された堆積物がすでに除去されていた.しかし,現地作業員の協力により,クレバススプレー堆積物を含む断面の一部を重機により残してもらうことができた.これにより,幅約43 mにわたる連続的な河川と直交する地層断面を対象とした調査が可能となった.
残された断面に対しては,ねじり鎌を用いて表面を整形した上で,堆積物の記載および1 m間隔での層厚測定を実施した.また,iPhone 15 Pro MaxにインストールしたPolycamアプリを用いて,LiDARスキャンおよびフォトグラメトリー撮影を行い,断面を三次元的に記録した.さらに,粒度分析を目的として,5 m間隔でクレバススプレー堆積物の最下部・中央部・最上部の3層準から試料を採取した.
クレバススプレー堆積物は明褐色を呈し,主に細粒砂から構成されていた.下位の水田土壌は黒色を呈し,その表面には稲刈り後に焼却された稲株の根元が認められたため,地層境界の識別は容易であった.この境界面は極めて明瞭かつ侵食的であり,典型的なイベント堆積物の特徴を示していた.観察した全長43 mの地層断面において,クレバススプレー堆積物の層厚は20〜65 cmの範囲で大きく変化しており,調査地に顕著な地形的起伏がないにもかかわらず,著しい厚さの変化が確認された.クレバススプレー堆積物の層相は大きく3つに区分されると考えられる:下位から,(1)クライミングリップル葉理を示す泥質砂層,(2)平行葉理を示す砂層,(3)斜交葉理を示す砂層である.本要旨は現地調査直後に作成しており,詳細な解析データはまだ示すことができないが,大会当日までには粒径分布および堆積構造の分析を進め,クレバススプレー堆積物の形成プロセスや堤防決壊の経緯について考察する予定である.
