講演情報
[T7-P-15]福島県中央部,磐梯火山南西麓に分布する岩屑なだれ堆積物の特徴
*古庄 航輝1、小荒井 衛1 (1. 茨城大学)
キーワード:
磐梯火山、猫魔火山、岩屑なだれ、山体崩壊
はじめに
「岩屑なだれ」とは,山地の崩壊で生産された土砂が水に不飽和な状態で移動する現象である.高速度・高移動性で特徴づけられる.磐梯火山の山麓には,多数の岩屑なだれ堆積物が存在する.これらの堆積物を対象とした地質記載は断片的で,運搬過程には不明点が多い.本研究では,磐梯火山南西麓に分布する岩屑なだれ堆積物のうち,翁島岩屑なだれ堆積物と古観音岩屑なだれ堆積物に着目し,堆積物の特徴を調査したので報告する.
翁島岩屑なだれ堆積物
【概要】
翁島岩屑なだれ堆積物は,46 kaに発生した磐梯火山の山体崩壊の産物である.その層厚は60~120 m,体積は4 km3強,H/L(H:標高差,L:流走距離)は0.086と推定されている(山元・須藤,1996).堆積域の全域に流れ山が認められる.
【地質記載】
本堆積物は,堆積域全体で,岩塊相と基質相からなる構造が認められる.堆積域の中央部では岩塊相が卓越し,縁辺部では基質相が卓越する傾向がある.岩塊相には,溶岩からなるものと火砕岩からなるものがある.岩塊相における溶岩の破砕の程度は様々で,現在までの調査では,運搬距離との相関は認められない.基質相は,火山灰から火山岩塊サイズの粒子からなる.角礫の他に円礫も認められ,円礫が卓越する場合もある.
古観音岩屑なだれ堆積物
【概要】
古観音岩屑なだれ堆積物は,猫魔火山で発生した斜面崩壊の産物である(古庄・小荒井,2024JpGU).堆積物中の木片から,18-17 kaの年代値が報告されている(山元・須藤,1996;山元・阪口,2023).堆積域に明瞭な流れ山は認められない.
【地質記載】
本堆積物は,堆積域全体で基質相が卓越し,岩塊相が認められたのは堆積域中央部の1地点のみであった.岩塊相は,溶岩からなる.基質相は火山灰から火山岩塊サイズの粒子からなる.角礫の他に円礫も認められ,まれに木片が認められる.本研究で明らかになった分布域(およそ5.3 km2)と平均層厚(およそ5 m)から,その体積は0.027 km3,H/Lは0.161と推定された.
考察
【堆積物の特徴の比較】
翁島岩屑なだれ堆積物と古観音岩屑なだれ堆積物は,共に岩塊相と基質相からなるが,割合が大きく異なる(流れ山の有無とも整合的).これは,層厚の小さな岩屑なだれほど,基底部との剪断によって岩塊相が破砕・混合されやすい可能性を示唆する.また,両堆積物は共に基質相に円礫を含む.岩屑なだれ堆積物に含まれる円礫は,運搬過程で取り込まれたものと考えられ,どちらの堆積物も運搬過程において流路の礫を取り込む作用が働いていたことが示唆された.特に,翁島岩屑なだれ堆積物は基底部より20 m以上上位の部分に円礫が認められ,基質相の混合が大規模に発生していたことを示唆する.
【規模と移動性の関係】
小規模(<1km3)岩屑なだれは移動性が低い可能性が指摘されている(Shea and van Wyk de Vries,2008)が,古観音岩屑なだれ堆積物のH/L(H:標高差,L:流走距離)は大規模な岩屑なだれと同程度の値であった.これは,伊藤(2019)で指摘された通り,小規模岩屑なだれであっても,同規模の非火山性地すべりに比べて高い移動性をもつことを支持する.
参考文献
古庄・小荒井 (2024) JpGU要旨. 伊藤 (2019) 火山, 64, 153-167. Shea and van Wyk de Vries (2008) Geosphere, 4, 657-686. 山元・阪口 (2023)地域地質研究報告(5万分の1地質図幅), 産総研地質調査総合センター, 97p. 山元・須藤 (1996) 地調月報, 47, 335-359.
「岩屑なだれ」とは,山地の崩壊で生産された土砂が水に不飽和な状態で移動する現象である.高速度・高移動性で特徴づけられる.磐梯火山の山麓には,多数の岩屑なだれ堆積物が存在する.これらの堆積物を対象とした地質記載は断片的で,運搬過程には不明点が多い.本研究では,磐梯火山南西麓に分布する岩屑なだれ堆積物のうち,翁島岩屑なだれ堆積物と古観音岩屑なだれ堆積物に着目し,堆積物の特徴を調査したので報告する.
翁島岩屑なだれ堆積物
【概要】
翁島岩屑なだれ堆積物は,46 kaに発生した磐梯火山の山体崩壊の産物である.その層厚は60~120 m,体積は4 km3強,H/L(H:標高差,L:流走距離)は0.086と推定されている(山元・須藤,1996).堆積域の全域に流れ山が認められる.
【地質記載】
本堆積物は,堆積域全体で,岩塊相と基質相からなる構造が認められる.堆積域の中央部では岩塊相が卓越し,縁辺部では基質相が卓越する傾向がある.岩塊相には,溶岩からなるものと火砕岩からなるものがある.岩塊相における溶岩の破砕の程度は様々で,現在までの調査では,運搬距離との相関は認められない.基質相は,火山灰から火山岩塊サイズの粒子からなる.角礫の他に円礫も認められ,円礫が卓越する場合もある.
古観音岩屑なだれ堆積物
【概要】
古観音岩屑なだれ堆積物は,猫魔火山で発生した斜面崩壊の産物である(古庄・小荒井,2024JpGU).堆積物中の木片から,18-17 kaの年代値が報告されている(山元・須藤,1996;山元・阪口,2023).堆積域に明瞭な流れ山は認められない.
【地質記載】
本堆積物は,堆積域全体で基質相が卓越し,岩塊相が認められたのは堆積域中央部の1地点のみであった.岩塊相は,溶岩からなる.基質相は火山灰から火山岩塊サイズの粒子からなる.角礫の他に円礫も認められ,まれに木片が認められる.本研究で明らかになった分布域(およそ5.3 km2)と平均層厚(およそ5 m)から,その体積は0.027 km3,H/Lは0.161と推定された.
考察
【堆積物の特徴の比較】
翁島岩屑なだれ堆積物と古観音岩屑なだれ堆積物は,共に岩塊相と基質相からなるが,割合が大きく異なる(流れ山の有無とも整合的).これは,層厚の小さな岩屑なだれほど,基底部との剪断によって岩塊相が破砕・混合されやすい可能性を示唆する.また,両堆積物は共に基質相に円礫を含む.岩屑なだれ堆積物に含まれる円礫は,運搬過程で取り込まれたものと考えられ,どちらの堆積物も運搬過程において流路の礫を取り込む作用が働いていたことが示唆された.特に,翁島岩屑なだれ堆積物は基底部より20 m以上上位の部分に円礫が認められ,基質相の混合が大規模に発生していたことを示唆する.
【規模と移動性の関係】
小規模(<1km3)岩屑なだれは移動性が低い可能性が指摘されている(Shea and van Wyk de Vries,2008)が,古観音岩屑なだれ堆積物のH/L(H:標高差,L:流走距離)は大規模な岩屑なだれと同程度の値であった.これは,伊藤(2019)で指摘された通り,小規模岩屑なだれであっても,同規模の非火山性地すべりに比べて高い移動性をもつことを支持する.
参考文献
古庄・小荒井 (2024) JpGU要旨. 伊藤 (2019) 火山, 64, 153-167. Shea and van Wyk de Vries (2008) Geosphere, 4, 657-686. 山元・阪口 (2023)地域地質研究報告(5万分の1地質図幅), 産総研地質調査総合センター, 97p. 山元・須藤 (1996) 地調月報, 47, 335-359.
