講演情報

[T7-P-16]下原洞穴遺跡における堆積物の微細形態と堆積相

*大部 悦子1、具志堅 亮2、石原 与四郎3 (1. 福岡大学大学院理学研究科、2. 天城町教育委員会、3. 福岡大学)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

洞穴遺跡、堆積相、微細形態、自然堆積、人為的堆積

 下原洞穴遺跡は,徳之島西部,鹿児島県大島郡天城町西阿木名に所在する洞穴遺跡である.下原洞穴遺跡は海岸から約500 m内陸にあり,開口部の幅は27 m,高さ1~5 mで標高約90 m 付近の陥没ドリーネの淵に下部洞口,そして斜面途中に小規模な上部洞口を持つ石灰岩洞窟である2.地形および周辺地質,そして洞壁で観察される岩相から,本洞窟は徳之島層上部の砕屑性石灰岩中に形成されたと考えられている1.下原洞穴の考古学的堆積物からは,2万5000年前~7000年前の年代が得られており,土器,石器,人骨や動物の骨などの遺物が多く産出する2.これらの詳細は天城町教育委員会(2024)によって概略的にまとめられたが,詳細な微細形態と堆積相の関連は明らかになっていない.本研究では,下原洞穴遺跡で許可を得て採取した土壌試料から,微細形態を検討し,堆積相との関連を明らかにした.
検討に用いた土壌試料はギブス包帯を用いて4箇所で採取した.試料は60℃のオーブンで乾燥後,不飽和ポリエステル樹脂,硬化促進剤,アセトンを100:1:100で混合したものを試料に注ぎ,真空チャンバー内で浸潤させた.その後切片を作成し,スラブ・薄片の観察を行った.また,天城町教育委員会(2024)で用いられた薄片試料も用いた.
検討の結果,下原洞穴遺跡では自然堆積相が5種類,人為的堆積相が4種類,これらが二次的に変形・変化した堆積物が2種類に区分された.自然堆積相は(1)小プールの堆積物,(2)斜面堆積物,(3)初生的な堆積物,(4)崩壊埋積堆積物,(5)風化堆積物に区分され,人為的堆積相は(1)燃焼構造,(2)掘削・充填構造,(3)攪拌構造,(4)再堆積が認められる.二次変形による堆積相は(1)洗い出し,(2)踏みつけが認められた.
プールの堆積物は,細粒均質な石灰質シルトや粘土質の堆積物からなり,礫と互層することから小規模なプール等での比較的急速な堆積が推定される.斜面堆積物は,徐々に粗粒化する石灰岩角礫の細粒部と粗粒部の互層からなり,洞窟内の不安定な斜面や落盤からの礫の再移動が推定される.初生的な堆積物は,やや固結した石灰質な小礫混じりシルトで,上位層形成時における掘り込みによって多くの部分が削り込まれており,詳細は不明である2.崩壊埋積は,掘り込み坑部を埋める粗粒で空隙が多く,貝殻片や植物片,骨片など様々な粒子みられる堆積物である.風化は,淡色を呈し,白色の粒子(方解石)がみられる堆積物である.方解石の分布は斜面上側で厚いが,調査トレンチ全域に顕著な違いはないことから,天井部等の乾燥などによる風化だと推定される2
一方,人為的堆積物のうちの燃焼構造は,有機質な石灰質粘土~シルト上に厚く固結した灰層や赤色の焼土といった炉跡の構成要素がみられるため,ヒトによる燃焼があったと推定される.掘削・充填構造は,下に凸のレンズ状の団粒密集帯や皮膜状に礫を覆う構造,目視で明瞭に判断できる侵食面がみられることから,繰り返し掘削・充填が行われたと推定される.攪拌構造は,石灰岩片,団粒,貝殻片等が不均質に混じり,まだら状の様相を呈する.再堆積は,細礫~粗粒砂層が斜交層理を形成しており,良く踏み固められている場合や化石を含む場合がある2
洗い出しは,礫混じりの淘汰の悪い石灰質シルトや粗粒化した粒子がみられ,石筍直下における滴下水などの影響があったと推定される.踏みつけは,やや固結し比較的密な基質を形作る細粒~粗粒砂層で,生き物の利用による踏みつけがあったと推定される.
下原洞穴遺跡では自然・人為・二次変形の堆積相が確認され,2万5000年前からのヒトや生物の活動の痕跡が自然堆積物と層序的あるいは側方関係にあることが明らかとなった.認められた堆積相区分を遺跡のピット内に反映すると,自然堆積相は全ての時代でみられる傾向があった.一方,人為堆積相は7200~1万4000年前に顕著にみられるが,燃焼行為に関しては2万5000年前のV層でも認められている.また,他の層準でも生き物の利用の痕跡がみられ,下原洞穴遺跡全体としてヒトや生物の利用が多くあったと考えられる.二次的な変形相は,最下層である2万5000年前の地層や表層の0層で顕著にみられる.

引用文献:※1 天城町教育委員会,2020,下原洞穴遺跡コウモリイョー遺跡発掘調査報告書:平成28~31年度町内遺跡発掘調査等事業に係る埋蔵文化財発掘調査報告書,217p.;※2 天城町教育委員会,2024,下原洞穴遺跡総括報告書:平成28年~令和5年度町内遺跡発掘調査等事業に係る発掘調査報告書,316p.