講演情報

[T7-P-17]インドネシア・Topogaro(トポガロ)洞窟遺跡における堆積物の特徴

*佐藤 碧海1、石原 与四郎2、藤田 祐樹3、小野 林太郎4 (1. 福岡大学大学院、2. 福岡大学、3. 国立科学博物館、4. 国立民族学博物館)
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キーワード:

トポガロ洞窟遺跡、考古学的堆積物、スラウェシ島、堆積相、団粒構造

 洞窟は,砕屑性,化学的,生物源堆積物が混在する重要な環境であるとともに,その保存と研究にも有利である.しかしながら,同じ洞窟内でも,その堆積史は洞窟の形態,堆積物の流入経路,地表環境に関連した洞窟の発達史によって場所ごとで異なることが知られている.洞窟遺跡におけるその堆積遺跡におけるその堆積物に関しても,自然堆積と人為的堆積物が混在するため,さらに複雑になる.その識別は巨視的な堆積相解析に加えて,顕微鏡スケールでの微細形態学的観察が必要である. 東インドネシアのスラウェシ島に位置するトポガロ洞窟遺跡は,40,000年以上にわたる豊富な考古学的データを提供するいくつかの洞窟や岩陰の複合体である.最近の発掘は,トポガロ2と呼ばれるチャンバーで行われ,現在の表面から5 m以上の深さまで文化層が露出していることが明らかになっている(Ono et al.,2023).現在の最下層は42,000~41,000 cal BPであり,スラウェシ島におけるホモ・サピエンスの早期の存在と更新世のサフル大陸への北方ルートを通る移住の可能性を示す重要な遺跡であると位置づけられる(Ono et al.,2023). トポガロ洞窟遺跡はいくつかの洞窟や岩陰からなり,海抜90 mのドリーネの壁に沿って位置する3 つの大きな洞窟(トポガロ1~3)と4 つの岩陰(トポガロ4~7)で構成される(Ono et al.,2021,2023).トポガロ2にはいくつかのピットが設けられているが,最も深いSector A(深度約500 cm)は2×2 mの区画が組み合わされて設定されている.トポガロ洞窟遺跡は厚い堆積層をもつが,遺跡を構成する洞窟堆積物の形成過程の詳細は明らかになっていない.本遺跡の堆積速度は比較的大きく,先に述べたように人為的な痕跡は認識が難しくなることが予想される.本研究では,このSector Aで採取された堆積物の微細形態や粒度組成から,これらの堆積物の形成過程を検討した. 本研究では,現地におけるピット壁面の層相観察に加え,約10 cmまたは約20 cm置きに採取された試料について,64 µm,238 µmの篩にかけて細粒子と粗粒子を分類した.また,Sector AのA1,A5,A7から堆積物の特徴を確認するためのブロック試料については,それぞれX線CT撮影を行い,試料は乾燥させた上,樹脂を浸潤したあとに切断・研磨し,堆積物の特徴を観察した.堆積物の検討の結果,全体としては,顕著な団粒構造の発達や,下部での堆積物の違いが顕著であることがわかった.上部ではハチの巣穴の密集やヒトの持ち込みによる貝殻片が見られるやや固結した土壌となっており,中部では団粒粒子を主体とするシルト質土壌で,貝殻片や骨片が認められる.これらはしばしば不連続面をもって互層しており,洞口あるいは洞奥にあるドリーネから続く斜面堆積物が間欠的に崩壊・移動し,Sector A付近が徐々に埋積して平坦なっていく過程で,時折ヒトや動物の影響があったことを示唆する.特にハチの巣穴の密集はジバチのものと考えられ,当時長期間床面であったことが示唆される.一方,下部(400 cmより下位)では,同じく団粒を主体とするものの青灰色~暗灰色のシルト~砂質土壌になっており,またしばしば粒子にマンガン酸化物の沈着することや,色調の異なる団粒が多く認められることから,堆積物が水中で堆積した可能性が示唆される.いずれの層準からも石器や化石が見つかっており,継続的なヒトの関与があったはずであるが,特に上部・中部と下部では大きな環境の違いがあったことが推定され,洞窟の利用の形態も変化した可能性がある.
引用文献
Ono, R. et al.,2021,Development of bone and lithic technologies by anatomically modern humans during the late Pleistocene to Holocene in Sulawesi and Wallacea.Quaternary International,596,124-143.
Ono, R. et al, 2023, The Goa Topogaro complex:Human migration and mortuary practices in Sulawesi during the Late Pleistocene and Holocene.L’anthropologie,127