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[T14-P-3]多角的視点による玉来川溶岩の分類の再検討

*武富 真由1、辻 智大1、山本 裕二2 (1. 山口大学、2. 高知大学)
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キーワード:

玉来川溶岩、火山テクトニクス、古地磁気、火山活動、化学分析

 [はじめに]  玉来川溶岩は,大分-熊本構造線に沿うように阿蘇カルデラ中心から移動したマグマであり(Miyoshi et al., 2013),阿蘇カルデラ東壁から約20 km東方の玉来川,大谷川の谷沿いに広域に分布する(小野ほか,1977).しかし,玉来川溶岩の広域的な特徴及び噴出源は詳しく分かっていない.加えて,小林(2010)では,Aso-2噴火の前兆現象であると言われ,玉来川溶岩の広域的な特徴と噴出源を理解することは,カルデラ噴火の前兆現象を理解するうえで重要であると考える.玉来川溶岩の広域的な特徴の再検討のため, 模式的地域である玉来川および約7km南方の大野川において,地形学的検討,地表踏査,斑晶モード組成分析,XRF分析,古地磁気方位測定を行なった.古地磁気方位測定に関しては,山本(2020)を参考にしてサンプリングを行い,高知大学の自動交流消磁スピナー磁力計を用いて測定を行った.
[調査結果] 玉来川および大野川において,玉来川溶岩(Tm)は既存の谷地形を埋めるように分布していた.鏡下観察では,玉来川沿いのTmは大野川沿いのTmに比べて斑晶量が多く,斜長石を多く含み,石基のサイズが粗い.
[モード組成分析結果] 鏡下観察において,Tmの南北の谷で斑晶鉱物組み合わせに違いがないか検証するためにモード組成分析を行った.斑晶量比は玉来川にて9.5~11.3%,大野川にて5.7~7.7%である.また,玉来川沿いのTmの斜長石の割合は7.4~9.3%,単斜輝石の量比は1.8~2.5%,大野川にてTmの斜長石の量比は4.9~6.0%,単斜輝石の量比は0.6~1.9 %である.玉来川のTmのTm方が大野川のTmよりも斑晶が多く,玉来川では大野川よりも斜長石を多く含んでいる.
[XRF分析結果] 玉来川で2カ所,大野川で4カ所行った.玉来川沿いのTmのSiO2は60.3~60.9 wt.%であった.大野川沿いのTmの4カ所では,SiO2の量比にバリエーションがあり,60.1~64.0 wt.%であった.玉来川沿いのTmのNa2O+K2Oは,7.4~7.5 wt%である.大野川沿いのTmのNa2O+K2Oは,7.3~8.1 wt%である.SiO2とNa2O+K2Oのハーカー図は,SiO2が増加するとNa2O+K2Oが増加する。
[古地磁気分析結果] 玉来川沿いのTmの2つの地点において,それぞれ5試料と2試料の分析を行った.大野川沿いのTmの1つのサンプルで5つ試料の分析を行った.分析結果を平均すると,玉来川のTmは偏角=-41.9,伏角=44.4(α95=16.0)の古地磁気方位である.大野川のTmは偏角=17.5,伏角=64.8(α95=3.6)の古地磁気方位である.
[考察] 大野川沿いのTmの古地磁気方位が偏角,伏角ともに玉来川沿いのTmとは異なることから,玉来川と大野川のTmは同時期に流れていないと考えられる.Tmの古地磁気方位は,既存研究のAso-1火砕流堆積物,Aso-2火砕流堆積物の古地磁気方位(中島ほか,1998;Fujii et al., 2001)と一致するものはなかった.また,大野川のTmはXRF分析結果にばらつきがあることから,大野川は複数回の噴火による溶岩である可能性がある.TmのSiO2とNa2O+K2Oの関係から,Tmはアルカリ岩系に含まれ,大野川のTmは結晶分化が進んだものであると考えられる.また,Tm上位のテフラの層序が玉来川と大野川で異なる(武富・辻,2024).これらに加えて,Tmが谷埋めの溶岩であること,玉来川と大野川の間には地形的な高まりが存在することから,南北でTmの噴出源が異なる可能性がある.玉来川のTmについては,阿蘇カルデラから大分-熊本構造線沿いにマグマが移動したとする説(Miyoshi et al., 2013)で説明可能である.しかし,大野川沿いのTmにおいては,谷の上流は大分-熊本構造線の方向ではなく南西を向いているため,大野川のTmは大分-熊本構造線沿いに移動したマグマ由来であるとは考えにくい.また,大野川沿いのTmの分布域が竹田断層と一致することから,大野川沿いのTmは竹田断層が関与した可能性がないか検討する必要がある.
[引用文献] Miyoshi et al(2013)Chemical Geology, 352, 202–210., 小林(2010)日本鉱物科学会, P15,. 小野ほか (1977) 地域地質研究報告(5万分の1図幅), 地質調査所, 74-94p., 山本(2020)まぐね, 15., 中島ほか(1998)第四期研究37, p371-383., Fujii et al(2001)EPS, 53, 1137–1150. 武富・辻, 火山学会講演要旨, 2024, p79,