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[T14-P-4]九州における西南日本弧と琉球弧のマグマ発生機構

*山中 壮馬1、柴田 知之1 (1. 広島大学)
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キーワード:

島弧マグマ、スラブ溶融、西南日本弧、琉球弧、スラブ温度、質量収支計算

 西南日本弧では、沈み込むスラブの年齢が若い(< 26 Ma)ことなどからスラブの溶融によってマグマが発生すると考えられている(e.g. Shibata et al., 2014)。このようなマグマは、低いYや重希土類元素濃度と高いSr/Y比等で特徴づけられるとされる(e.g. Defant & Drummond, 1990)。一方琉球弧では、スラブの年齢が古く(40-60 Ma)、スラブ由来の流体がマントルを溶融し、マグマを形成すると考えられている(e.g. Shinjo et al., 2000)。西南日本弧と琉球弧の境界は阿蘇火山周辺であるとされるため(e.g. Mahony et al., 2011; Shibata et al., 2014)、上述のように西南日本弧と琉球弧でマグマの成因が異なるならば、阿蘇やその周辺火山(九重や霧島)を境にマグマのSr/Y比などが大きく異なるはずである。そこで、本研究では、九州の西南日本弧と琉球弧に属する第四紀島弧マグマの発生機構を解明するため、島弧縦断方向の地球化学的変化傾向を、本研究における九重火山群の分析試料に加え、先行研究の文献値から検討することとした。さらに、質量収支計算を行い、九州の各島弧火山で産する火山岩類の内、Sr-Nd-Pb同位体組成から最も初生的であると考えられる各試料の微量元素パターンの再現を試みた。
 西南日本弧のマグマのSr/Y比は、島弧縦断方向に沿って連続的に変化することが指摘されている(Shibata et al., 2014)。しかしながら、その島弧縦断方向のSr/Y比の連続的変化は、琉球弧まで続く。このことは、各弧でマグマの成因が異なっているのではなく、島弧縦断方向に沿って、連続的に初生マグマの生成過程が変化していることを示唆しているのかもしれない。
 琉球弧まで続く、島弧縦断方向に沿ったSr/Y比の連続的変化の原因を探るため、質量収支計算を行った。計算には、Open-system-melting(Ozawa & Shimizu, 1995等)を採用した。各端成分は、西南日本弧上の火山は四国海盆で生成された玄武岩、琉球弧上の火山は西フィリピン海盆で生成された玄武岩、フィリピン海プレート上の堆積物、Indian MORBの起源マントルを使用した。また、スラブの部分溶融度の決定には、Rhyolite-MELTS(Ghiorso and Gualda, 2015)を用いた。
 まず、九州における西南日本弧上火山の安山岩・デイサイトマグマの微量元素パターンについて、単純なスラブの部分溶融での再現を試みた。しかし、軽希土類元素やSr等の濃度に対する重希土類元素の濃度の再現が困難であった。同様に、九州における琉球弧上火山のマグマの微量元素パターンについて、流体の付加によるマントル溶融での再現を試みたが、Rb・Ba・Th・U濃度等の再現が困難であった。
 そこで着目したのが、下部海洋地殻からの脱水流体の付加により、上部海洋地殻が溶融するという近年提案されたプロセスである(e.g. Turner & Langmuir, 2024)。この仮説を検証するため、九州における物理探査データ(e.g. Nakajima et al., 2019)やスラブのP-T経路(van Keken et al., 2018)、含水鉱物の脱水曲線、MORBのwet solidus等からマグマの発生機構を再検討した。
 その結果、九州直下においても、下部海洋地殻からの脱水流体の付加を受け、脱水後の海洋地殻や堆積物が溶融する可能性が示唆された。そして、堆積物や上部海洋地殻等由来の流体はマントルを溶融する可能性を考慮に入れ、九州におけるマグマの発生機構を推定した。
 そのメカニズムを再現した計算を行った結果、少なくとも姫島から桜島までの初生マグマの微量元素パターンは、スラブ由来の流体がマントルを溶かしてできるマントルメルトと、下部海洋地殻からの流体の付加を受け溶融した脱水後の海洋地殻や堆積物メルトを混合させることで、再現可能であることが分かった(測定値に対する計算値の平均RD ≤ ~15%)。また、姫島から桜島にかけて、つまり、直下スラブの年代が古くなるにつれて、スラブメルトの寄与率は連続的に減少する。このことは、Sr/Y比の島弧縦横断的変化の原因が、直下スラブの年齢(温度)の変化によるものであることを示唆しているのかもしれない。したがって、九州の島弧初生マグマの化学組成は直下スラブの温度に大きく依存している可能性がある。

 引用文献:Defant, M.J. & Drummond, M.S., 1990, Derivation of some modern arc magmas by melting of young subducted lithosphere, Nature, 347, 662–665/Ghiorso, M.S., Gualda, G.A., 2015, An H2O–CO2 mixed fluid saturation model compatible with rhyolite-MELTS, Contrib. Mineral. Petrol., 169 (6), 1–30/van Keken, P.E. et al., 2018, Mafic high-pressure rocks are preferentially exhumed from warm subduction settings. Geochem. Geophys. Geosyst/Mohoney, S.H. et al., 2011, Volcano-tectonic interactions during rapid plate-boundary evolution in the Kyushu region, SW Japan, Geol. Soc. Am. Bull., 123, 2201–2223/Nakajima, J., 2019, Revisiting intraslab earthquakes beneath Kyushu, Japan: Effect of ridge subduction on seismogenesis, Journal of Geophysical Research, Solid Earth, 124, 8660–8678/Ozawa, K., Shimizu, N., 1995, Open-system melting in the upper mantle: constraints from the Hayachine–Miyamori ophiolite, northeastern Japan, Journal of Geophysical Research 100 (B11), 22315–22335/Shibata, T. et al., 2014, Along-arc geochemical variations in quaternary magmas of northern Kyushu Island, Japan. Geol. Soc. London Spec. Publ., 385, 15–29/Shinjo, R. et al., 2000, Geochemical variation within the northern Ryukyu arc: Magma source compositions and geodynamic implications, Contrib. Mineral. Petrol., 140, 263–282/Turner, S.J., Langmuir, C.H., 2024, An alternative to the igneous crust fluid + sediment melt paradigm for arc lava geochemistry Sci. Adv., 10, eadg6482