講演情報
[T14-P-5]荻岳の火山岩と先阿蘇火山岩類の岩石学的特徴の比較
*福田 颯亮1、辻 智大1 (1. 山口大学)
キーワード:
荻岳、先阿蘇火山岩類
【はじめに】 荻岳は阿蘇火山の東方約15 kmに位置している火山である.この火山は山体のほとんどが周辺の台地を構成している阿蘇火砕流堆積物に埋もれており,山体の上部のみが堆積物から露出している.そのため阿蘇火砕流堆積物のAso-1~Aso-4との層序関係や詳細な活動年代は制約されていない.また現在の活火山フロントよりも前弧域に位置しており,山体の成因も不明である.荻岳について小野ほか(1977)では,先阿蘇火山岩類の一部ではないかと言われているが,先阿蘇火山岩類との連続性を直接観察することが出来ないため,両岩石の関係性については議論の余地がある.荻岳の岩石と先阿蘇火山岩類を比較することは,阿蘇カルデラ周辺地域および荻岳周辺地域の複雑なマグマ供給システムの再検討につながる.そのため本研究では,荻岳の岩石と岩相の類似性が認められる先阿蘇火山岩類の坂梨流紋岩を岩石記載と全岩化学組成分析から比較し,荻岳が先阿蘇火山岩類の特徴を呈するか検討することを目的とする.
【結果】 荻岳の岩石の斑晶鉱物は斜長石(1.5~5.8 vol. %),角閃石(0.1~1 vol. %),黒雲母(<0.1~0.4 vol. %),不透明鉱物(0~0.5 vol. %)に加え単斜輝石(0~1.6 vol. %)と直方輝石(0~0.9 vol. %)が含まれるものがあり,両輝石斑晶の周縁に角閃石が生成しているものもある.直方輝石+単斜輝石+角閃石+不透明鉱物の集斑晶が見られる.石基はガラス質でハイアロオフィティック組織かハイアロピリティック組織を示すが,鉱物結晶の大きさや量比にばらつきがある.それに対し坂梨流紋岩の斑晶鉱物は斜長石(3.3~6.8 vol %),角閃石(0~0.7 vol. %),黒雲母(0~0.2 vol. %),不透明鉱物(<0.1~0.6 vol. %)であり輝石は含まれない.石基はガラス質が顕著で鉱物結晶も荻岳の岩石に比べ少なく小さい. 荻岳の岩石のSiO2含有量は約68.84 wt. %であることからデイサイトである.そして荻岳と三好ほか(2009)で示された坂梨流紋岩(普通角閃石黒雲母流紋岩:タイプH)を含む8タイプの先阿蘇火山岩類で全岩化学組成値が一致するものはなかった.また,作成したハーカー図からK2O,P2O5,Y,Rbの各元素は荻岳と坂梨流紋岩(普通角閃石黒雲母流紋岩:タイプH,三好ほか,2009)がその他の先阿蘇火山岩類(タイプA~G,三好ほか,2009)の組成トレンドから外れ,その二つがおおよそ平行に別の組成トレンドを形成している.
【考察】 全岩化学組成分析の結果,複数の元素において荻岳と坂梨流紋岩がその他の先阿蘇火山岩類の組成トレンドから外れ,おおよそ平行な別の組成トレンドを呈したことと,両岩石の斑晶鉱物について輝石を除いて鉱物種や含有量比が類似していることから,坂梨流紋岩は,荻岳を形成したマグマからの分別結晶作用によって形成された可能性があると考えられる.両岩石の化学組成の差異は輝石に由来しており,荻岳の化学組成から輝石を除くことで坂梨流紋岩の化学組成が得られる可能性がある.三好ほか(2009)において坂梨流紋岩(普通角閃石黒雲母流紋岩:タイプH)は,そのほかの先阿蘇火山岩類(タイプA~G)からの単純な分別結晶作用によって生成されないとしていることも本考察と矛盾しない. これらのことから,阿蘇カルデラ東部の坂梨地域から荻岳周辺地域にかけてタイプA~G(三好ほか,2009)の先阿蘇火山岩類とは別のマグマ活動があり,荻岳と坂梨流紋岩が形成された可能性が考えられる.つまり,先阿蘇火山岩類や現在の活火山フロントよりも前弧域に先阿蘇火山岩類とは別のマグマ活動によって形成された火山が存在していたことが示唆される.今後は荻岳のデイサイトに含まれる鉱物の化学組成分析を行い,分別結晶作用について詳細な考察やマグマの形成についてほかの原因の検討を行う必要がある.また,坂梨流紋岩の活動年代(0.41±0.04 Ma, 0.45±0.03 Ma, Kaneoka and Suzuki,1970)と荻岳の活動年代の関連性についても議論する必要がある.
【引用文献】小野晃司ほか (1977) 地域地質研究報告 5万分の1図幅, 23,Kaneoka, I. and Suzuki, M. (1970) Journal of the geological society of Japan, Vol. 76, No. 6, p. 309-313,三好雅也ほか (2009) 地質学雑誌, 115, 672-687.
【結果】 荻岳の岩石の斑晶鉱物は斜長石(1.5~5.8 vol. %),角閃石(0.1~1 vol. %),黒雲母(<0.1~0.4 vol. %),不透明鉱物(0~0.5 vol. %)に加え単斜輝石(0~1.6 vol. %)と直方輝石(0~0.9 vol. %)が含まれるものがあり,両輝石斑晶の周縁に角閃石が生成しているものもある.直方輝石+単斜輝石+角閃石+不透明鉱物の集斑晶が見られる.石基はガラス質でハイアロオフィティック組織かハイアロピリティック組織を示すが,鉱物結晶の大きさや量比にばらつきがある.それに対し坂梨流紋岩の斑晶鉱物は斜長石(3.3~6.8 vol %),角閃石(0~0.7 vol. %),黒雲母(0~0.2 vol. %),不透明鉱物(<0.1~0.6 vol. %)であり輝石は含まれない.石基はガラス質が顕著で鉱物結晶も荻岳の岩石に比べ少なく小さい. 荻岳の岩石のSiO2含有量は約68.84 wt. %であることからデイサイトである.そして荻岳と三好ほか(2009)で示された坂梨流紋岩(普通角閃石黒雲母流紋岩:タイプH)を含む8タイプの先阿蘇火山岩類で全岩化学組成値が一致するものはなかった.また,作成したハーカー図からK2O,P2O5,Y,Rbの各元素は荻岳と坂梨流紋岩(普通角閃石黒雲母流紋岩:タイプH,三好ほか,2009)がその他の先阿蘇火山岩類(タイプA~G,三好ほか,2009)の組成トレンドから外れ,その二つがおおよそ平行に別の組成トレンドを形成している.
【考察】 全岩化学組成分析の結果,複数の元素において荻岳と坂梨流紋岩がその他の先阿蘇火山岩類の組成トレンドから外れ,おおよそ平行な別の組成トレンドを呈したことと,両岩石の斑晶鉱物について輝石を除いて鉱物種や含有量比が類似していることから,坂梨流紋岩は,荻岳を形成したマグマからの分別結晶作用によって形成された可能性があると考えられる.両岩石の化学組成の差異は輝石に由来しており,荻岳の化学組成から輝石を除くことで坂梨流紋岩の化学組成が得られる可能性がある.三好ほか(2009)において坂梨流紋岩(普通角閃石黒雲母流紋岩:タイプH)は,そのほかの先阿蘇火山岩類(タイプA~G)からの単純な分別結晶作用によって生成されないとしていることも本考察と矛盾しない. これらのことから,阿蘇カルデラ東部の坂梨地域から荻岳周辺地域にかけてタイプA~G(三好ほか,2009)の先阿蘇火山岩類とは別のマグマ活動があり,荻岳と坂梨流紋岩が形成された可能性が考えられる.つまり,先阿蘇火山岩類や現在の活火山フロントよりも前弧域に先阿蘇火山岩類とは別のマグマ活動によって形成された火山が存在していたことが示唆される.今後は荻岳のデイサイトに含まれる鉱物の化学組成分析を行い,分別結晶作用について詳細な考察やマグマの形成についてほかの原因の検討を行う必要がある.また,坂梨流紋岩の活動年代(0.41±0.04 Ma, 0.45±0.03 Ma, Kaneoka and Suzuki,1970)と荻岳の活動年代の関連性についても議論する必要がある.
【引用文献】小野晃司ほか (1977) 地域地質研究報告 5万分の1図幅, 23,Kaneoka, I. and Suzuki, M. (1970) Journal of the geological society of Japan, Vol. 76, No. 6, p. 309-313,三好雅也ほか (2009) 地質学雑誌, 115, 672-687.
