講演情報

[T14-P-6]九州中部金峰火山に分布する火山岩の全岩化学組成とSr同位体比

*新村 太郎1、山村 文太2、壷井 基裕2、下岡 和也2、荒川 洋二3 (1. 熊本学園大学経済学部、2. 関西学院大学生命環境学部、3. 筑波大学生命環境系)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

金峰山、金峰火山、九州中部、全岩化学組成、全岩微量元素組成、Sr同位体比

 金峰火山は九州中部の有明海の東側に位置する第四紀火山である.東西約10km,南北約13kmの範囲に安山岩を主体とする火山岩が分布し,標高665.2mの一ノ岳(金峰山)を最高峰とした複数のピークからなる山地を形成している.火山フロント上の阿蘇火山から40km西方にあることと,別府-島原地溝帯の南縁にあることから,マグマプロセスについてはプレートの沈み込みと地溝帯の活動の影響が考えられる複雑な位置にある.
 金峰火山の活動時期とその分類について,倉沢・高橋(1963)およびTakai et al.(1984)の研究成果をもとに,土志田ほか(2006)が活動期間全体を把握できるよう系統的に採取した14試料について感度法によるK-Ar年代測定を行って,古期の6試料の年代値は1.38-1.15 Ma,中期の6試料の年代値は0.58-0.50 Ma,新期の2試料の年代値はいずれも0.2 Maであると報告した.地球化学的データは倉沢・髙橋(1963)およびYanagi et al.(1988)によって報告されているが,土志田ほか(2006)による活動時期の再定義がなされる前の分類に従っており,さらに具体的な試料の採取地点が明示されていなかった.その後,新村・荒川(2025)は土志田ほか(2006)による年代報告のある試料採取地点もしくはその近傍から9個の火山岩を採取して87Sr/86Sr比を測定し,最新の年代値と分類に対応させて報告した.
 本報告では新村・荒川(2025)で採取した火山岩9試料について,全岩の主要元素組成と微量元素組成を測定し,その特徴とSr同位体比との関連について報告する.SiO2量は約53-61 wt. %でありすべて安山岩組成の範囲であった.土志田ほか(2006)は新期の一ノ岳火山岩類をデイサイトとして記載していたが,該当する2試料はそれぞれ60.05および60.65 wt. %であり,デイサイト組成に近い安山岩であった.全体の組成の幅が小さいために元素組成の変化から読み取れることは少ないが,全体的な傾向としてSiO2量の最も少ない中期の火山岩と最も多い新期の火山岩が各元素組成の最大値もしくは最小値をとることが多かった.またFeO*/MgO-SiO2図上では古期の火山岩が境界付近にあって中期と新期はカルクアルカリの領域にあった.K2O-SiO2図から全てK量は中程度であった.微量元素では全体としてRb,Th,Ba,Zrなどの不適合元素の濃度が高く,特にSrが約400-1000 ppmという高い値であった.Ba/Zrは2.2-3.6であるために地殻物質の影響の程度はさほど大きくない可能性がある.87Sr/86Sr比と1000/Srの図において,Sr濃度が最も高い試料がSr同位体比が低い位置(87Sr/86Sr比: 0.7038, 1000/Sr: 0.99)にあり,そこから全体として幅をもちながら右上に87Sr/86Sr比が0.705で1000/Srが2.5付近に向かって広がっている.新村・荒川(2025)によって現在報告されてるように中部九州の第四紀火山の中で,金峰火山のSr比の幅が最も大きいが,全岩化学組成における多様性は比較的小さいため,マグマへのSiO2量が多くてSr同位体比が高い浅所の地殻物質の同化や混入とは別のプロセスが87Sr/86Sr比の多様性の主たる原因と考えられる.

【文献】
・倉沢 一・髙橋 清, 1963, 熊本県金峯火山岩類の化学的性質. 地質調査所月報, 14, 4, 364-376.
・新村太郎・荒川洋二, 2025, 九州中部金峰火山に分布する火山岩のSr同位体比, 熊本学園大学論集『総合科学』, 30(2), 55-66.
・Takai M., Miyachi, M. and Hirano, I., 1984, Paleomagnetism and fission-track ages of Kimbo volcano, southwest Japan. Rock Magnetism and Paleogeophysics, 11, 21-25.
・土志田 潔・宇都浩三・松本哲一, 2006, 金峰火山のK-Ar年代. 火山, 51, 1, 31-40.
・Yanagi, T., Arikawa, H., Hamamoto, R. and Hirano, I., 1988, Petrological implications of strontium isotope compositions of the Kinpo volcanic rocks in Southwest Japan: Ascent of the magma chamber by assimilating the lower crust. Geochemical Journal, 22, 6, 237-248.