講演情報
[G-P-31]最終間氷期の海成段丘堆積物における光ルミネッセンス年代測定法の適用性検討-北海道根室市ヒキウス露頭での測定事例-
*林崎 涼1、相山 光太郎1、中田 英二1 (1. 電力中央研究所)
キーワード:
光ルミネッセンス(OSL)年代測定、テフラ、最終間氷期、海成段丘堆積物
最終間氷期の海成段丘堆積物でカリ長石の光ルミネッセンス(OSL)年代測定法を実施した.その結果,最終間氷期の年代と調和的な,約12~13万年前のOSL年代値を得ることができた.カリ長石のOSL年代測定法は,最終間氷期の海成段丘堆積物の堆積年代を求めることが可能な手法であると考えられる.
はじめに
OSL年代測定法は,地層中の石英や長石から,その地層の堆積年代を求めることが可能である.しかしながら,日本ではOSL年代測定法の測定事例が少なく,その適用性は明らかになっていない.本研究では,OSL年代測定法の適用性検討のため,北海道根室市ヒキウス露頭で,最終間氷期の海成段丘堆積物におけるカリ長石のOSL年代測定と,段丘堆積物の被覆層におけるテフラ分析を実施した.
調査地点
ヒキウス露頭は,海食崖で確認できる東西約20m,高さ約7mの露頭である(図1).基盤岩は根室層群(三谷ほか, 1958)の砂岩泥岩互層であり,層厚約1.5mの海成段丘堆積物に不整合で覆われる.海成段丘堆積物は,下位より約30cmの礫層,約30cmの礫混じり砂層A,約90cmの礫混じり砂層Bに区分できる.なお,礫混じり砂層Aは低角くさび状斜交層理(Clifton et al., 1971)が確認でき,礫混じり砂層Bは弱い平行層理が確認できる.海成段丘堆積物は厚さ約1mの風成層に覆われ,風成層は厚さ約70cmのクロボク土に覆われる.クロボク土は厚さ約10cmの火山灰層を挟む.小池・町田(2001)は,ヒキウス露頭の位置する海成段丘面が最終間氷期に形成されたと報告している.
分析方法
OSL年代測定用試料は,ステンレスパイプ(直径3 cm,長さ25 cm)を用いて,礫層中のレンズ状の砂層,礫混じり砂層A,礫混じり砂層Bから3つ(HKU-1~3)採取した(図1).OSL年代測定は,以下の手順で実施した.
1.篩(180μmと250μm)とSPT 重液(密度2.53~2.58g/cm3)を用いて,試料からカリ長石粒子を抽出した.
2.pIR200IR290法(Li and Li, 2012)の測定条件でカリ長石のOSL年代値を求めた.
3.OSL年代値の信頼性を確認するため,カリ長石から年代値の若返りの有無を判断するg2day値を求めた.
テフラ分析用試料は,黒ボク土基底より約10cm下の風成層と黒ボク土に挟まる厚さ約10cmの火山灰層から2つ(HKUT-1および2)採取した(図1).テフラ分析では,粒子組成分析と火山ガラスの主成分化学分析を株式会社古澤地質にお願いした.
結果
表1にOSL年代測定結果を示す.OSL年代値は12.9±2.1~13.2±1.0万年前であった.g2days値は-1.43±0.88~1.18±0.76%/decadeであった.
テフラ分析は,HKUT-1に約4万年前のKc-Srと約12万年前のKc-Hb(町田・新井,2003)の火山ガラスが混在していること,露頭中の火山灰層が約4千年前のMa-d1(岸本ほか,2009)に対比されることを明らかにした.
考察
OSL年代値は3試料全てで誤差の範囲内で一致しており,g2days値は3試料全てでOSL年代値の若返りが起きていないと判断できる1.0~1.5%/decadeもしくはそれ以下の値である(Buylaert et al., 2012).これは,信頼できるOSL年代値が得られたことを示していると考えられる.
テフラ分析結果は,海成段丘堆積物が少なくとも約4千年前のMa-d1より古いことを示している.また,HKUT-1に混在する火山ガラスは,海成段丘堆積物が約4万年前より古いことを示す可能性がある.
OSL年代値は,テフラ分析結果と小池・町田(2001)の段丘面区分に調和的である.これは,長石のOSL年代測定法が,最終間氷期の海成段丘堆積物で堆積年代を求めることが可能であることを示していると考えられる.
【引用文献】
岸本博志,長谷川健,中川光弘,和田恵冶(2009) 火山, 54, 15-36.
小池一之,町田 洋(2001)日本の海成段丘アトラス.105p.
町田 洋,新井房夫(2003)新編火山灰アトラス.336p.
三谷勝利,藤原哲夫,長谷川潔(1958)『5 万分の 1 地質図 地質図幅「根室南部」および同説明書』.40p.
Buylaert, J.-P., Jain, M., Murray, A. S., Thomsen, K. J., Thiel, C., and Sohbati, R. (2012) Boreas, 41, 435-451.
Clifton, H. E., Hunter, P. E., and Phillips, R. L. (1971) Journal of sedimentary petrology, 41, 651-670.
Li, B., and Li, S.-H. (2012) Quaternary Geochronology, 8, 49-51.
はじめに
OSL年代測定法は,地層中の石英や長石から,その地層の堆積年代を求めることが可能である.しかしながら,日本ではOSL年代測定法の測定事例が少なく,その適用性は明らかになっていない.本研究では,OSL年代測定法の適用性検討のため,北海道根室市ヒキウス露頭で,最終間氷期の海成段丘堆積物におけるカリ長石のOSL年代測定と,段丘堆積物の被覆層におけるテフラ分析を実施した.
調査地点
ヒキウス露頭は,海食崖で確認できる東西約20m,高さ約7mの露頭である(図1).基盤岩は根室層群(三谷ほか, 1958)の砂岩泥岩互層であり,層厚約1.5mの海成段丘堆積物に不整合で覆われる.海成段丘堆積物は,下位より約30cmの礫層,約30cmの礫混じり砂層A,約90cmの礫混じり砂層Bに区分できる.なお,礫混じり砂層Aは低角くさび状斜交層理(Clifton et al., 1971)が確認でき,礫混じり砂層Bは弱い平行層理が確認できる.海成段丘堆積物は厚さ約1mの風成層に覆われ,風成層は厚さ約70cmのクロボク土に覆われる.クロボク土は厚さ約10cmの火山灰層を挟む.小池・町田(2001)は,ヒキウス露頭の位置する海成段丘面が最終間氷期に形成されたと報告している.
分析方法
OSL年代測定用試料は,ステンレスパイプ(直径3 cm,長さ25 cm)を用いて,礫層中のレンズ状の砂層,礫混じり砂層A,礫混じり砂層Bから3つ(HKU-1~3)採取した(図1).OSL年代測定は,以下の手順で実施した.
1.篩(180μmと250μm)とSPT 重液(密度2.53~2.58g/cm3)を用いて,試料からカリ長石粒子を抽出した.
2.pIR200IR290法(Li and Li, 2012)の測定条件でカリ長石のOSL年代値を求めた.
3.OSL年代値の信頼性を確認するため,カリ長石から年代値の若返りの有無を判断するg2day値を求めた.
テフラ分析用試料は,黒ボク土基底より約10cm下の風成層と黒ボク土に挟まる厚さ約10cmの火山灰層から2つ(HKUT-1および2)採取した(図1).テフラ分析では,粒子組成分析と火山ガラスの主成分化学分析を株式会社古澤地質にお願いした.
結果
表1にOSL年代測定結果を示す.OSL年代値は12.9±2.1~13.2±1.0万年前であった.g2days値は-1.43±0.88~1.18±0.76%/decadeであった.
テフラ分析は,HKUT-1に約4万年前のKc-Srと約12万年前のKc-Hb(町田・新井,2003)の火山ガラスが混在していること,露頭中の火山灰層が約4千年前のMa-d1(岸本ほか,2009)に対比されることを明らかにした.
考察
OSL年代値は3試料全てで誤差の範囲内で一致しており,g2days値は3試料全てでOSL年代値の若返りが起きていないと判断できる1.0~1.5%/decadeもしくはそれ以下の値である(Buylaert et al., 2012).これは,信頼できるOSL年代値が得られたことを示していると考えられる.
テフラ分析結果は,海成段丘堆積物が少なくとも約4千年前のMa-d1より古いことを示している.また,HKUT-1に混在する火山ガラスは,海成段丘堆積物が約4万年前より古いことを示す可能性がある.
OSL年代値は,テフラ分析結果と小池・町田(2001)の段丘面区分に調和的である.これは,長石のOSL年代測定法が,最終間氷期の海成段丘堆積物で堆積年代を求めることが可能であることを示していると考えられる.
【引用文献】
岸本博志,長谷川健,中川光弘,和田恵冶(2009) 火山, 54, 15-36.
小池一之,町田 洋(2001)日本の海成段丘アトラス.105p.
町田 洋,新井房夫(2003)新編火山灰アトラス.336p.
三谷勝利,藤原哲夫,長谷川潔(1958)『5 万分の 1 地質図 地質図幅「根室南部」および同説明書』.40p.
Buylaert, J.-P., Jain, M., Murray, A. S., Thomsen, K. J., Thiel, C., and Sohbati, R. (2012) Boreas, 41, 435-451.
Clifton, H. E., Hunter, P. E., and Phillips, R. L. (1971) Journal of sedimentary petrology, 41, 651-670.
Li, B., and Li, S.-H. (2012) Quaternary Geochronology, 8, 49-51.

