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[G-P-32]琵琶湖湖底段丘の深度

*里口 保文1 (1. 琵琶湖博物館)
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キーワード:

琵琶湖、湖底段丘、琵琶湖西岸断層帯、湖盆

 本州中央部にある琵琶湖は,数十万年にわたって長く安定的に湖を形成しており,北湖は約43万年間湖であったと考えられている(Meyers et al., 1993など).このように長く湖を維持できた大きな要因は,湖西地域にある断層群の活動による湖盆の沈降が関係しており,これら断層の活動は琵琶湖の形成史を考えるうえで重要であると同時に,断層運動による地震災害への対応を考える上でも重要視されており,陸域における断層調査(小松原ほか,1998)のほか,湖岸付近の物理探査なども行われてきた(太井子ほか,1987など).西岸地域の断層運動による湖盆の沈降は,湖岸に湖底段丘を形成し,東岸の湖底段丘は陸域における段丘との対比が行われている(植村,2001).琵琶湖西岸では,湖岸から比較的近い距離で急激に深くなるが,国土地理院が提供する湖沼図によれば,狭い範囲ながら湖底段丘がいくつか確認できる.これらの段丘は,過去の湖岸を形成していたものが,その後の堆積作用で埋もれなかった地形を示していると考えられ,これら湖底段丘の存在はその陸側にある断層運動によって湖盆の沈降が起きたことで残されたことが推定される.たとえば, JR志賀駅の北東付近(大津市大物)で行われた深層ボーリング調査(池田ほか,1996)では堆積層の基底の基盤岩が1,090m地下にあることから,それよりも西方の陸域に琵琶湖北湖盆を沈降させる活断層が存在していることを示唆している.このことから,西岸付近に見られる湖底段丘は,過去の琵琶湖北湖盆を維持させる断層運動の履歴を知るヒントが隠されていると考えられる.なお,活断層研究会(1980)や植村・太井子(1990)などで指摘されている西岸湖底断層については,前述の深層ボーリング調査の結果から,また,太井子ほか(1987)や植村・太井子(1990)などによる物理探査断面においても湖盆形成に関わる断層の存在を明確に確認することはできず,湖底段丘崖がデルタ堆積物によって形成されていることが確認できることから,琵琶湖北湖盆を形成する運動にはほぼ影響を与えていないといえる.琵琶湖北湖の西岸付近では,地形的に湖底段丘と認識されるものは,おおよそ1m,9m,10m,12m,21m,25m,29m,32m,38m,45m,53m,58m,65m,67m,69m付近の深度に認められる.これらのいくつかは,広い深度範囲にあるものや,平面的に狭い範囲のものが多く,段丘とは認定しづらいものも含まれる.琵琶湖西岸は,堆積物を供給する山地までの距離が近いため,湖岸付近のデルタプレーンが,断層運動による沈降によって深い深度へもたらされ,その後の堆積物に埋積されたものが多いことが推定され,堆積物供給が少なかった時期や場所は一部分が残されたと考えられる.なお,前述の湖底段丘の深度を見ると,多くは数メートル間隔で段丘面の深度が確認される一方で,例えば12mと21mでは10m以上の間隔があることから,この間には地形として残っていない堆積面があった可能性が考えられる.太井子ほか(1987)や東岸地域で行われた宮田ほか(1990)の探査断面においても,過去の堆積平面の上位にその後のデルタ堆積物によって覆われているものを確認することができることからも推定される. 【引用文献】池田ほか,1996,志賀町史第一巻,滋賀県志賀町,14-49.:活断層研究会,1980,日本の活断層,東京大学出版会,p363.:小松原ほか,1998,地質調査所月報,49,447-460.:Meyers et al., 1993, Quat. Res., 39, 154-162. :宮田ほか,1990,地質学雑誌,96,839-858.:太井子ほか,1987,京都大学防災研究所年報,no.30B-1,373-382.:植村,2001,比較変動地形論.古今書院,p203.:植村・太井子,1990,地理学評論,63A,722-740.