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[G-P-33]神奈川県中央部,鮮新-更新統中津層群神沢層の砂岩礫のモード組成

*河尻 清和1 (1. 相模原市立博物館)
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キーワード:

鮮新 - 更新世、中津層群、神沢層、砂岩礫、モード組成

 関東平野西縁部には粗粒砕屑岩を含む鮮新 - 更新世の海成層および河川成層が分布しており,その中でも中津層群は最も南に位置する海成層である(例えば,松川ほか,2006;植木,2013).これらの地層には角礫〜円礫からなる地層が含まれており,礫の供給源を推定することは,周辺地域の古地理を復元する上で重要である.演者は中津層群の礫岩に関する研究を進めているが(河尻,2004,2014,2016;河尻・柏木,2012),今回,中津層群の後背地を推定するために,中津層群神沢層の砂岩礫についてモード組成を測定した.本報告はその測定結果について報告するものである.
中津層群は,神奈川県中央部相模原市,愛川町,厚木市の相模川,中津川,小鮎川沿いにわずかに露出し,下位より,小沢層,神沢層,清水層,大塚層,塩田層に区分されている(Ito,1985).下部は砂岩および礫岩からなるが,上部ほど細粒かつ火山砕屑物を多く挟在するようになり,最上部は泥岩と凝灰岩の互層からなる.白亜紀〜古第三紀の四万十累帯小仏層群もしくは相模湖層群を不整合に覆い、後期更新世の段丘堆積物に覆われる.
今回,モード組成を検討した神沢層の砂岩礫は,相模原市立博物館に保管されている礫岩から抽出した.これらの礫岩は愛川町角田小沢から神奈川県立博物館が掘削調査(長谷川ほか,1991)をした時に採集され,長谷川ほか(1991)によってd層とされた部分である.現在この場所は私有地のため立ち入り禁止となっている.この地点の神沢層の礫岩は,長谷川ほか(1991)によれば,最大礫径約18cmで,礫種は粘板岩(約19%),珪岩(約9%),粗粒凝灰岩類(約6%),礫岩(約1.5%)である.河尻・柏木(2012)によって,神沢層のチャート礫から,三畳紀中世~新世,泥質チャート礫からジュラ紀中世 Callovian 末~同新世 Oxfordian を示す放散虫化石が報告されている.
神沢層の中粒砂岩礫のうち,変形および変成していないものを,14 試料を選んでモード測定をおこなった.カリ長石を染色した薄片を用い、泥岩擬礫をのぞく 600 点以上をポイントカウント法により測定した.データの集計はGazzi-Dickinson法にしたがった.神沢層のいずれの砂岩礫も主に石英,長石,珪長質凝灰岩および珪長質火山岩片により構成される.長石は斜長石を主とするものが多いが,カリ長石も含まれ,試料によっては長石の半数近くを占める場合がある.珪長質凝灰岩および珪長質火山岩以外の岩石片は,安山岩~玄武岩,チャート,頁岩,アプライトなどが含まれる.まれに,グラノファイアーや千枚岩〜結晶片岩なども認められる.重鉱物として,ジルコン,電気石,黒雲母,白雲母,緑泥石,燐灰石,褐れん石,緑れん石,ざくろ石が含まれ,まれにルチル,スピネル,普通角閃石,斜ゆうれん石が含まれる.含まれる重鉱物の量と種類は試料により異なる.
神沢層の下位の小沢層の砂岩礫は,石英および岩片の量比に基づき,石英に富むものと岩片に富むものとに分けられるが(河尻,2014),神沢層の砂岩礫は明瞭に区分されない.また,神沢層の砂岩礫のうち,比較的岩片に富むものは小沢層の岩片に富むものとよく似た組成を示すが,比較的石英に富むものは小沢層の石英に富むものよりも岩片を多く含み,小沢層の砂岩礫とは異なる組成を示す.中津層群小沢層および神沢層の砂岩礫と酒井(1987)による関東山地の秩父南帯および四万十累帯の砂岩の組成を比較すると,小沢層の石英に富む砂岩礫は秩父南帯または四万十累帯小河内層群から,岩片に富む砂岩礫は四万十累帯小河内層群または小仏層群から供給された可能性が高い.一方で,神沢層の比較的岩片に富む砂岩礫は小沢層と同様な後背地から供給されたが,比較的石英に富む砂岩礫は小沢層のものとは異なり,主に四万十累帯相模湖層群から供給されたと考えられる.

引用文献
長谷川ほか,1991,神奈川県立博物館研究報告(自然科学),6,1-98.
Ito, 1985, Jour . Geol. Soc. Japan, 91, 213-232.
河尻清和,2004,相模原市博研報,13,57-62.
河尻清和,2014,相模原市博研報,22,109-115.
河尻清和,2016,相模原市博研報,24,16-23.
河尻清和・柏木健司,2012,相模原市博研報,20,65-74.
松川ほか,2006,東京学芸大紀要自然科学,58,173-203.
酒井 彰,1987,五日市地域の地質.75p.
植木岳雪,2013. 八王子地域の地質第5章,37-60.