講演情報

[G-P-37]和歌山県白浜町に分布する塔島礫岩層の堆積相と砕屑性ジルコンU-Pb年代

*別所 孝範1、山本 俊哉2、小倉 徹也3、後 誠介4 (1. 大阪市立自然史博物館、2. 和歌山県立田辺高校、3. 大阪市教育委員会、4. 和歌山大学)
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キーワード:

和歌山県白浜町、塔島礫岩層、堆積相、砕屑性ジルコンU-Pb年代

 はじめに
 紀伊半島西部の和歌山県白浜町臨海には塔島礫岩層が分布している(田辺団体研究グループ,1984).満塩ほか(1998)は本層を塔島層と呼び,四国各地の前期更新統に対比し,その堆積環境として扇状地や三角州を想定した.今回,その堆積環境や堆積年代そして礫の供給源などを明らかにすることを目的として,その岩相,礫の種類,粒度,円磨度,古流向そして挟まれる砂岩層の砕屑性ジルコンのU-Pb年代などを検討した.
地質概説と岩相  
 塔島礫岩層は白浜町臨海で下位の田辺層群白浜累層と傾斜不整合で接する.白浜累層は礫混じりの成層砂岩からなり,礫には結晶片岩や石英が多い.塔島礫岩層は成層した礫岩層からなり,薄層でレンズ状の砂岩層を狭在する.走向は南-北もしくはN10°~15°Eで西にゆるく(10°~30°)傾く.層厚は65m以上である.砂岩層の多くには平行層理や斜交層理が発達し,まれに炭質物からなる平行層理も見られる.礫岩は基質の少ない礫支持礫岩で,一部では基質を欠く,いわゆる透かし礫岩層も見られる.礫岩の一部にはインブリケーションや斜交層理が観察される.
礫の種類,礫径,円磨度,古流向 
 礫の種類,礫径,円磨度は6地点で検討した.約1m2グリッドで礫の長軸の大きいものから50個ないし100個検討した.礫種は,どの地点でも砂岩礫(約85%),凝灰岩礫(約10%)が多く,その他,頁岩,チャート,火山岩,石英,花崗岩,黒色片岩,流紋岩などの礫も見られる.砂岩礫には白色で軟質のものと,黒灰色で硬質のものとが識別できる.凝灰岩礫には白色のものと青緑色のものが識別できる.礫径はどの地点でも中礫 ~大礫が大半を占め,巨礫は含まれない.円磨度は亜角礫ないし亜円礫が多くを占めている.砂岩礫で白色軟質のものと,黒灰色で硬質のものとでは前者の方で円磨度が高い傾向にある.斜交層理ならびに礫のインブリケーションが示す古流向は概ね,北東から南西を示す.
砂岩層の砕屑性ジルコンU-Pb年代
 塔島礫岩層に含まれる細礫混じりの粗粒砂岩層(厚さ45㎝)で U-Pb年代を測定した.分析した60個のジルコンのうち,58粒子がコンコーダントと判定された.1600~1800Ma(先カンブリア時代)が3粒子,400Ma台が1粒子,200Ma付近(三畳紀~ジュラ紀)が6粒子,100Ma台~60Ma台(白亜紀後期~古第三紀暁新世)まで連続的に48粒子が分布する.最若粒子は63.4Ma(古第三紀暁新世ダニアン)で,この粒子を含め誤差3σで重複する粒子が11粒子存在し,これらの加重平均67.8±0.7Ma(白亜紀後期マーストリヒチアン)を最若粒子集団年代とする.
考察 
 塔島礫岩層の主たる岩相は礫支持の成層礫岩で,斜交層理やインブリケーションが見られ,透かし礫岩の部分もある.狭在するレンズ状砂岩薄層には斜交層理や平行層理もみられる.こうした岩相の特徴から堆積環境としては礫質網状河川が想定される.
 礫岩の多くを占める砂岩礫の起源としては下位の田辺層群や四万十帯付加体が想定される.青緑色凝灰岩礫は本層の北側に分布する四万十付加体竜神層中の軽石凝灰岩に酷似している.木村ほか(1996)によると,この岩石のフィッション・トラック年代は69.8±3.7Ma ,67.5±3.4Maで塔島礫岩層中の砂岩のU-Pb年代値(67.8±0.7Ma)に近い.こうした点からこの礫は竜神層に含まれる軽石凝灰岩にその起源が求められる.塔島礫岩層の古流向が北東から南西を示すこともこの想定と調和的である.    
 塔島礫岩層に含まれる砂岩層のU-Pb年代の最若粒子集団年代値は67.8±0.7Maを示し,本層は白亜紀後期マーストリヒチアン以降に堆積したことを意味している.最近明らかにされた下位の田辺層群のU-Pb年代は19.4±0.6 Maで中新世前期を示している(安邉ほか,2025).塔島礫岩層は田辺層群を不整合で覆っているので,これより若い年代が期待されるが,今回はそのような若い粒子は見いだされなかった.安邉ほか(2025)では,「紀伊半島周辺では約15Ma (中新世中期)に大規模な火成活動が起こっているが,これを示唆するジルコンは田辺層群に含まれておらず,田辺層群は15Ma以前に堆積した」と考察している.塔島礫岩層中の砂岩層にもこのような若いジルコン粒子は含まれず,その堆積時期は15Ma以前であると推定される.以上のことから,塔島礫岩層の堆積年代は中新世前期~中期に想定される可能性が高い.
文献
 安邉ほか,2025,地質雑,131,59-70 /木村ほか,1996,地質雑,102,116-124/満塩ほか,1998,高知大学研報,47,49-57/田辺団体研究グループ(1984),地球科学,38,249-263.