講演情報
[G-P-41]島根県東部中新統古浦層・成相寺層に見られる黒色泥からなるインジェクタイトの特徴と成因
*波多野 瑞姫1、酒井 哲弥1、三瓶 良和1 (1. 島根大学)
キーワード:
インジェクタイト、古浦層、成相寺層、島根半島
島根半島東部に分布する中新統古浦層・成相寺層から,複数の地点・層準で泥質インジェクタイトが見つかった.この泥質インジェクタイトは,灰色の含礫泥岩と礫をほとんど含まない黒色泥岩からなる2つのタイプが見られた.今回対象とした黒色泥からなるインジェクタイトは,古浦層の上部と成相寺層下部で見つかった.これらは泥に貫入した流紋岩マグマの熱によって流動化したと考えられる.ここでは,このインジェクタイトの特徴を述べるとともに,黒色泥が流動化した過程について考察する.古浦層(20―18Ma)上部は,河川や氾濫原堆積物などの陸成層・汽水湖の堆積物からなる.これは日本海拡大に伴う本格的なリフティング初期の堆積物である.その上位に重なる成相寺層の下部は,黒色泥岩や水中火山の噴出物を主体とした地層で,リフティング最盛期に形成された地層である.この黒色泥(注:ここでは貫入時に未固結であったことを踏まえ,泥と呼ぶこととする)は,岩脈や岩床として複数箇所で貫入しており,それらは板状,パイプ状の形態を示す.板状のものは厚さが最大で30cm程度のものから,1cm以下のラミナ状のものまで様々である.ラミナ状のものの内部には,長径が数mmから3cm程度の角礫状の流紋岩片が含まれる.パイプ状のものは層理面に斜交,直交して貫入するものが多い.パイプ状のものがうねる形を示す場合もある.貫入した黒色泥の表面にはグルーブキャスト状の筋の見られるものもある.直径が20cm弱の大型のパイプ状の貫入部には,変形を受けた炭化木片も見つかった.上位の成相寺層でも同様に流動化した黒色泥が見つかった.ここではデイサイト溶岩片と黒色泥とが直接混合しており.フルイダルペペライトの特徴を示す.ここで見られる黒色泥も,古浦層のものと同様に不規則な形を示す.古浦層で見つかった黒色泥の岩石切片の観察から,一部には空隙がみられ,空隙に黄鉄鉱の析出も認められた.薄片観察からは,黒色泥には剪断変形を受けたもの,塑性的に変形を受けたものが見られた.塑性的な変形をしたものの内部には石英脈の発達が確認された.露頭での観察結果と合わせると,これらの地層に貫入した黒色泥は,高い粘性を持っていたこと,泥の定置後に熱水の影響を受けたと見られる. 黒色泥の流動化には,流紋岩質・デイサイト質マグマの貫入が関係していると考えられる.マグマの貫入に伴う有機物の熱分解によるCO2などの発生,マグマの火山ガス中の揮発性物質や水が,地下の流体流動の発生源になる可能性が指摘されている(例えばJiliang et al., 2018).流紋岩片を含む黒色泥の存在はマグマと泥との混合を表し,空隙の存在は泥の移動にガスが関与した可能性を示唆する.今回の事例では明らかに黒色泥が流動化していることから,地下200~300m程度の浅い深度において未固結の泥にマグマが貫入したことによるものと解釈される.また,現在,黒色泥の起源を明らかにするためにCNS分析を実施している.当日は,その結果についても報告する予定である.古浦層や成相寺層では,これまでに泥火山の痕跡は見つかっていないが,ここで報告する事例は,泥火山の起源となる物質の発生現場のとても良い地質記録と言えよう.参考文献 Jiliang,W., Shiguo,W., Xiu,K., Benjun,M., Wei,L., Dawai,W., Jinwei,G., Wnali,C., 2018, Subsurface fluid flow at an active cold seep area in the Qiongdongnan Basin, T northern South China Sea. Journal of Asian Earth Sciences 168 (2018) 17–26
