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[G-P-42]山陰東部,浜坂地域の鮮新統層序の改訂

*羽地 俊樹1、工藤 崇1 (1. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)
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キーワード:

地質図、鮮新世、新第三系、鳥取、兵庫

 発表者らは現在,5万分の1地質図幅「浜坂」の作成に取り組んでおり,同図幅は今年度末に出版予定である.「浜坂」図幅では,古第三系・新第三系の層序区分が大幅に改訂される見込みとなった.本発表では鮮新統層序の改定案を報告する.なお古第三系及び中新統の層序はそれぞれ,本大会の佐藤ほか(ポスター発表)及び羽地(口頭発表)で紹介する.
 浜坂地域は日本海に面した鳥取・兵庫県境域に位置する.本発表では浜坂地域の鮮新統を湯層,貫入岩,大羽尾溶岩,蒲生火山噴出物,鐘尾火砕流堆積物,稲葉山溶岩,摩尼火山噴出物,照来層群に区分する.いずれも陸成層である.
湯層(新称) 兵庫県新温泉町湯東方に分布し,礫岩を主体とした砕屑岩と流紋岩軽石凝灰角礫岩からなる火砕流堆積物で構成される.本層はこれまで,中新統や鮮新統照来層群に一括されていた(例えば,弘原海・松本,1958;池辺,1963).
貫入岩 兵庫県新温泉町の2地域に分布し,古第三系及び中新統を貫く流紋岩貫入岩である.中新統と比して新鮮であることから下部鮮新統と見なした.
大羽尾溶岩(羽地ほか,2025 鳥取県岩美町羽尾鼻を構成する玄武岩の陸上溶岩である.4.3 Ma頃のK‒Ar年代値が得られている.
蒲生火山噴出物(新称) 鳥取・兵庫県の県境をなす尾根部及び兵庫県三成山付近に分布する玄武岩〜粗面安山岩の溶岩,火砕岩,貫入岩からなる.岩石学的特徴から累重関係にある2つのタイプに区分されるが,両タイプともに岩美町蒲生東部付近が噴出源と推定され,複成火山的な火山の噴出物と考えられる.K‒Ar年代値から下位のタイプは4.2〜3.8 Ma頃,上位のタイプは3.7〜3.3 Ma頃に形成したものと判断される.本火山噴出物はこれまで浜坂火山(先山ほか,1995)と呼称されていた.
鐘尾火砕流堆積物(新称) 新温泉町鐘尾山付近で蒲生火山噴出物に挟在する流紋岩火砕岩で,本研究で新たに見出されたものである.同火山噴出物上部の溶岩に挟まれることから,3.7〜3.3 Ma頃の火砕流堆積物である.
摩尼火山噴出物(新称) 鳥取市摩尼山付近に分布する玄武岩質安山岩及び玄武岩の溶岩,火砕岩及び貫入岩である.降下堆積物の層相から,摩尼山周辺が噴出源と推定される.溶岩のK‒Ar年代値から形成年代は3.6〜3.2 Ma頃と考えられる.先行研究では後述する稲葉山溶岩とともに稲葉山玄武岩(上村ほか,1979)に一括されていた(例えば,松本,1991).
稲葉山溶岩(改称) 鳥取市稲葉山付近に分布する玄武岩質安山岩の溶岩からなる.K‒Ar年代値などから形成年代は2.8 Maと考えられる.上村ほか(1979)の稲葉山玄武岩に相当するが,岩質の全容が未解明であるため改称した.
照来層群(再定義) 本報告では照来層群を「照来コールドロンの陥没盆地内部とその近辺に分布し,照来コールドロンの形成に関連する一連の火山活動及び陥没盆地の埋積に伴って形成された地層群」と再定義する.照来コールドロンは,兵庫県と鳥取県の県境付近において南北17 km×東西14 kmの規模を持つ(小室ほか,2002).
 本報告では照来層群を湯谷層,中辻層,歌長層,寺田層に区分した.これらの地層は複雑な指交関係にある.湯谷層は礫岩を主体とした不淘汰な砕屑岩からなる.中辻層は凝灰質な礫岩や砂岩といった再堆積性の火山砕屑物を主体とし,泥岩を伴い,スランプ堆積物を多く含む.歌長層は主に流紋岩溶岩,貫入岩及び火砕岩からなり,3つの部層(相谷川流紋岩火砕岩部層,飯野火山砕屑岩部層,桐岡流紋岩部層)に細分される.寺田層は安山岩溶岩及び貫入岩からなり,火山砕屑岩及び礫岩を伴う.歌長層及び寺田層からは多数の放射年代値が得られており,本地域に分布する照来層群の堆積年代は3.0〜2.6 Ma頃と判断される(例えば,羽地ほか,2023).

【引用文献】弘原海・松本,1958,地質学雑誌,64,625‒637.池辺,1963,山陰海岸国立公園候補地学術調査報告書,17‒54.上村ほか,1979,5万分の1地質図幅「若桜」及び同説明書.松本,1991,地質学雑誌,97,697‒712.先山ほか,1995,人と自然,6,149‒170.小室ほか,2002,火山,47,9‒15.羽地ほか,2023,地質学雑誌,129,341‒354.羽地ほか,2025,地質学雑誌,131,39‒44.