講演情報
[G-P-43]山陰東部,浜坂地域の古第三系火成岩の地質と年代
*佐藤 大介1、羽地 俊樹1、仁木 創太2、平田 岳史3 (1. 産総研地質調査総合センター、2. 名古屋大学、3. 東京大学)
キーワード:
地質図、古第三紀、U–Pb年代、古応力、山陰
産総研地質調査総合センターでは,現在5万分の1地質図幅「浜坂」を作成している(羽地ほか,印刷中).本地域は日本海に面した鳥取・兵庫県境域に位置する.その地質は,古第三系・中新統北但層群(羽地,本学会要旨)・鮮新統(羽地・工藤,本学会要旨)・第四系に大別される.このうち,本報告では古第三系に着目する.
本地域の古第三系は主に花崗岩・火砕岩からなり,岩相の類似性から山陰地方で代表的な上部白亜系鳥取花崗岩・矢田川層群に対比されていた(鳥取県,1966).しかし露頭調査において深成岩・火山岩ともに岩相差が認められたため,地層・岩体区分を行い,その形成年代を検討した.また,要旨では割愛するが,古第三系岩脈を用いた応力解析結果も報告する.
地 質
古第三系は本地域中央部に広く分布するほか,北東部及び南西部にも分布する.産状,貫入・被覆関係から,赤崎川層・長谷層・田井花崗岩・上町層・久松山花崗岩・浦富花崗岩・指杭層に区分される.以下,分布域ごとに各地質体を概説する.
北東部 赤崎川層の露出は僅かである.細粒の結晶片に富む流紋岩溶結火山礫凝灰岩からなり,田井花崗岩による接触変成作用を被る.田井花崗岩は中粒黒雲母花崗岩を主体とし,普通角閃石を含むことがある.指杭層は岩相及び産状から火砕岩相・礫岩相・貫入岩相に区分される.火砕岩相は礫岩相に覆われ,火砕岩相・礫岩相は貫入岩相に貫入される.火砕岩相は主に流紋岩溶結火山礫凝灰岩,礫岩相は角礫〜亜角礫からなる礫岩,貫入岩相は斑状流紋岩で構成される.田井・浦富花崗岩に被覆・貫入する.
中央部 長谷層は浦富花崗岩中のルーフペンダントとしてまとまって分布し,浦富花崗岩による接触変成作用を被る.デイサイト〜流紋岩溶結火山礫凝灰岩からなり,岩片を多く含む.浦富花崗岩は中央部に広く分布する.岩相及び産状から中−粗粒斑状相・細−中粒相・細粒相に区分される.中−粗粒斑状相は中−粗粒斑状黒雲母花崗岩,細−中粒相は細−中粒黒雲母花崗岩からなる.中−粗粒斑状相・細−中粒相は本岩体の主岩相をなし,両岩相は漸移関係である.細粒相は細粒黒雲母花崗岩からなり,中−粗粒斑状相・細−中粒相にほぼ水平に貫入する.細−中粒相から32.4〜31.5 Maの閃ウラン鉱U–Th–total Pb年代(Yokoyama et al., 2016)とジルコンU–Pb年代(菅森ほか,2019)が報告された.また,浦富花崗岩中には捕獲岩が多数認められる.捕獲岩はトーナル岩〜石英閃緑岩からなり,本地域の他深成岩体に比べて高い岩石帯磁率を示す.
南西部 上町層は,本地域南西端に小規模に分布するほか,久松山花崗岩のルーフペンダントとしても産する.結晶片に富む流紋岩溶結火山礫凝灰岩からなり,久松山花崗岩による接触変成作用を被る.久松山花崗岩は細粒斑状黒雲母花崗岩からなり,しばしば微文象組織が発達する.
年 代
岩相差や接触変成の有無などから,上記地質体の形成時期は様々であると判断された.そこでfsLA-ICP-MSを用いてジルコンU–Pb年代測定を実施した.対象は浦富花崗岩を除く地質体及び浦富花崗岩中の捕獲岩である.測定の結果,各最若年粒子集団から以下の206Pb/238U年代の加重平均値(誤差2σ)を得た.
捕獲岩(トーナル岩):63.6 ± 0.3 Ma(MSWD = 0.3)
赤崎川層(流紋岩溶結火山礫凝灰岩):62.6 ± 0.4 Ma(MSWD = 0.5)
長谷層(デイサイト〜流紋岩溶結火山礫凝灰岩):43.2 ± 1.2 Ma(MSWD = 2.0)
田井花崗岩(中粒角閃石含有黒雲母花崗岩):40.4 ± 0.2 Ma(MSWD = 1.4)
上町層(流紋岩火山礫凝灰岩):35.9 ± 0.1 Ma(MSWD = 1.0)
久松山花崗岩(細粒斑状黒雲母花崗岩):34.2 ± 0.2 Ma(MSWD = 1.6)
指杭層(流紋岩溶結火山礫凝灰岩):29.2 ± 0.3 Ma(MSWD = 0.4)
指杭層(斑状流紋岩):29.0 ± 0.2 Ma(MSWD = 1.3)
U–Pb年代から,本地域の古第三系は古第三紀初頭〜後半の幅広い時期に形成し,その火成活動の特徴として63 Ma,43〜40 Ma,36〜32 Ma,29 Maの4つの火成パルスが識別される.また,長谷層・上町層には65 Ma頃のU–Pb年代を示す捕獲ジルコンが含まれること,浦富花崗岩中に63.6 Maの捕獲岩が存在することから,本捕獲岩が帰属する深成岩体のほか,本地域には65 Ma頃の火成岩が広く伏在ないし露出していたことを示唆する.
引用文献
羽地・工藤・佐藤(印刷中)5万分の1地質図幅「浜坂」.
菅森ほか(2019)地質学会第126年大会要旨,T6-P-1.
鳥取県(1966)鳥取県地質図.
Yokoyama et al. (2016) Mem. Natl. Mus. Nat. Sci., Tokyo, 51, 1–24.
本地域の古第三系は主に花崗岩・火砕岩からなり,岩相の類似性から山陰地方で代表的な上部白亜系鳥取花崗岩・矢田川層群に対比されていた(鳥取県,1966).しかし露頭調査において深成岩・火山岩ともに岩相差が認められたため,地層・岩体区分を行い,その形成年代を検討した.また,要旨では割愛するが,古第三系岩脈を用いた応力解析結果も報告する.
地 質
古第三系は本地域中央部に広く分布するほか,北東部及び南西部にも分布する.産状,貫入・被覆関係から,赤崎川層・長谷層・田井花崗岩・上町層・久松山花崗岩・浦富花崗岩・指杭層に区分される.以下,分布域ごとに各地質体を概説する.
北東部 赤崎川層の露出は僅かである.細粒の結晶片に富む流紋岩溶結火山礫凝灰岩からなり,田井花崗岩による接触変成作用を被る.田井花崗岩は中粒黒雲母花崗岩を主体とし,普通角閃石を含むことがある.指杭層は岩相及び産状から火砕岩相・礫岩相・貫入岩相に区分される.火砕岩相は礫岩相に覆われ,火砕岩相・礫岩相は貫入岩相に貫入される.火砕岩相は主に流紋岩溶結火山礫凝灰岩,礫岩相は角礫〜亜角礫からなる礫岩,貫入岩相は斑状流紋岩で構成される.田井・浦富花崗岩に被覆・貫入する.
中央部 長谷層は浦富花崗岩中のルーフペンダントとしてまとまって分布し,浦富花崗岩による接触変成作用を被る.デイサイト〜流紋岩溶結火山礫凝灰岩からなり,岩片を多く含む.浦富花崗岩は中央部に広く分布する.岩相及び産状から中−粗粒斑状相・細−中粒相・細粒相に区分される.中−粗粒斑状相は中−粗粒斑状黒雲母花崗岩,細−中粒相は細−中粒黒雲母花崗岩からなる.中−粗粒斑状相・細−中粒相は本岩体の主岩相をなし,両岩相は漸移関係である.細粒相は細粒黒雲母花崗岩からなり,中−粗粒斑状相・細−中粒相にほぼ水平に貫入する.細−中粒相から32.4〜31.5 Maの閃ウラン鉱U–Th–total Pb年代(Yokoyama et al., 2016)とジルコンU–Pb年代(菅森ほか,2019)が報告された.また,浦富花崗岩中には捕獲岩が多数認められる.捕獲岩はトーナル岩〜石英閃緑岩からなり,本地域の他深成岩体に比べて高い岩石帯磁率を示す.
南西部 上町層は,本地域南西端に小規模に分布するほか,久松山花崗岩のルーフペンダントとしても産する.結晶片に富む流紋岩溶結火山礫凝灰岩からなり,久松山花崗岩による接触変成作用を被る.久松山花崗岩は細粒斑状黒雲母花崗岩からなり,しばしば微文象組織が発達する.
年 代
岩相差や接触変成の有無などから,上記地質体の形成時期は様々であると判断された.そこでfsLA-ICP-MSを用いてジルコンU–Pb年代測定を実施した.対象は浦富花崗岩を除く地質体及び浦富花崗岩中の捕獲岩である.測定の結果,各最若年粒子集団から以下の206Pb/238U年代の加重平均値(誤差2σ)を得た.
捕獲岩(トーナル岩):63.6 ± 0.3 Ma(MSWD = 0.3)
赤崎川層(流紋岩溶結火山礫凝灰岩):62.6 ± 0.4 Ma(MSWD = 0.5)
長谷層(デイサイト〜流紋岩溶結火山礫凝灰岩):43.2 ± 1.2 Ma(MSWD = 2.0)
田井花崗岩(中粒角閃石含有黒雲母花崗岩):40.4 ± 0.2 Ma(MSWD = 1.4)
上町層(流紋岩火山礫凝灰岩):35.9 ± 0.1 Ma(MSWD = 1.0)
久松山花崗岩(細粒斑状黒雲母花崗岩):34.2 ± 0.2 Ma(MSWD = 1.6)
指杭層(流紋岩溶結火山礫凝灰岩):29.2 ± 0.3 Ma(MSWD = 0.4)
指杭層(斑状流紋岩):29.0 ± 0.2 Ma(MSWD = 1.3)
U–Pb年代から,本地域の古第三系は古第三紀初頭〜後半の幅広い時期に形成し,その火成活動の特徴として63 Ma,43〜40 Ma,36〜32 Ma,29 Maの4つの火成パルスが識別される.また,長谷層・上町層には65 Ma頃のU–Pb年代を示す捕獲ジルコンが含まれること,浦富花崗岩中に63.6 Maの捕獲岩が存在することから,本捕獲岩が帰属する深成岩体のほか,本地域には65 Ma頃の火成岩が広く伏在ないし露出していたことを示唆する.
引用文献
羽地・工藤・佐藤(印刷中)5万分の1地質図幅「浜坂」.
菅森ほか(2019)地質学会第126年大会要旨,T6-P-1.
鳥取県(1966)鳥取県地質図.
Yokoyama et al. (2016) Mem. Natl. Mus. Nat. Sci., Tokyo, 51, 1–24.
