講演情報

[G-P-44]飛騨外縁帯早稲谷地域(福井県大野市東部)におけるペルム系小椋谷層の岩相層序と砕屑性ジルコンU-Pb年代

多田 陸2,3、鈴木 敬介4、*栗原 敏之1 (1. 新潟大学理学部、2. 新潟大学大学院自然科学研究科、3. 株式会社大林組、4. 産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門)
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飛騨外縁帯、ペルム紀、砕屑性ジルコンU-Pb年代

 【はじめに】
 飛騨外縁帯のペルム系小椋谷層は,福井県大野市東部の小椋谷を模式地とする砕屑岩層である.小椋谷層は,模式地周辺にて,石灰岩を含む泥岩からなる下部,砂岩主体の中部および泥岩主体の上部に分けられ,中部からは中期ペルム紀の腕足類や紡錘虫などの化石が報告されている[1].小椋谷層とその南側に分布する火山岩・火山砕屑岩層(米俵層)とは整合あるいは不整合関係で接すると考えられるが,その詳細は不明である.
 福井県大野市東部にある早稲谷は,小椋谷から西に直線距離で7 kmほど離れた地点に位置する.先行研究の岩相記載によれば,本地域には小椋谷層中部が露出するとされている[2].しかし,これまで早稲谷から化石の産出は認められておらず,模式地との対応関係や,米俵層との層序関係についても議論の余地が残されている.そこで本発表では,早稲谷地域に分布する小椋谷層の岩相層序と砕屑性ジルコンU–Pb年代を報告する. 

【地質概説】
 早稲谷地域の小椋谷層は,東北東-西南西から北東-南西方向の走向を有し,南~南東に40~80°程度傾斜する,北上位の逆転層である.全層厚は600 m以上である.早稲谷に沿う林道は本地域南方に位置する伊勢峠へと繋がっており,このルートでは南に向かって小椋谷層の砕屑岩と米俵層の火山岩・火山砕屑岩が観察できる.

【岩相層序と試料採取地点】
 早稲谷地域の小椋谷層は,火山礫凝灰岩,石灰岩,泥岩,砂岩からなる下部,石灰岩と砂岩泥岩互層からなる中部,泥岩主体の上部に分けられる.本研究では,下部と中部から1試料ずつ砂岩を採取し,砕屑性ジルコンU–Pb年代測定を行った.

【砕屑性ジルコンU–Pb年代】
 下部の砂岩からは,前期ペルム紀(290–280 Ma),石炭紀(350–300 Ma),デボン紀(375–360 Ma)の幅広い年代を示すジルコンが認められる.このうち,前期ペルム紀の年代は最も卓越したピークを示し,次いで中期石炭紀(330–320 Ma)の年代が小規模なピークを示す.350 Ma,360 Ma,375 Maのジルコンは1粒ずつ含まれる.中部の砂岩には,後期石炭紀~中期ペルム紀(310–270 Ma)の年代を示すジルコンが含まれる.290–270 Maの区間に単峰型のピークが認められる.

【議論】 
 測定した砂岩試料の最も若いピークの年代は,前~中期ペルム紀である.特に,中部からの年代データは,小椋谷層の模式地にて報告されている腕足類・紡錘虫の年代と調和的である[1].また,下部の砂岩には石炭紀のジルコンが豊富に含まれ,これらは石炭系と考えられている米俵層に由来する可能性がある.小椋谷層下部に含まれる火山礫凝灰岩は米俵層にも認められ,早稲谷地域には石炭系~中部ペルム系にかけての連続的な層序が残されている可能性が高い. 
 小椋谷層は岐阜県高山市北部のペルム系(水屋ヶ谷層,空山層および森部層)とともに,アジア大陸東縁の単一の堆積盆にて形成されたと考えられている[2].本研究では,小椋谷層と各地のペルム系との対比に必要な年代データが整備されたほか,石炭系に由来する砕屑性ジルコンも検出された.今後,米俵層からも年代データが得られれば,石炭系においても対比が進み,ペルム系と合わせた地史を確立できるであろう.

引用文献:[1] Tazawa and Matsumoto (1998). Sci. Rep., Niigata Univ., Ser. E (Geology), 13, 1-19. [2] Suzuki and Kurihara (2021). J. Asian Earth Sci., 219, 104888.