講演情報

[G-P-47]東南極リュツォ・ホルム湾における貝形虫群集の経時変化

*中里 政貴1、岩谷 北斗1、床平 晃一1、松井 浩紀2、徳田 悠希3、自見 直人4、佐々木 聡史5、石輪 健樹6、藤井 昌和6、鈴木 克明7、板木 拓也7、菅沼 悠介6 (1. 山口大学、2. 秋田大学、3. 鳥取環境大学、4. 名古屋大学、5. 群馬大学、6. 国立極地研究所、7. 産業技術総合研究所)
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キーワード:

南極、リュツォ・ホルム湾、貝形虫、周極深層水、生物擾乱

 南極氷床は、地球上で最も大きな氷塊であり、これがすべて融解した場合、世界的に海水準が約58 m上昇するとされている(Fretwell et al., 2013)。近年、南極氷床の消耗要因として、周囲の水塊と比較して相対的に暖かい周極深層水の影響による氷床底融解が注目されている。東南極のリュツォ・ホルム湾に横たわる白瀬海底谷は、周極深層水の流路として機能し、棚氷底面の融解に寄与することが知られている(Hirano et al., 2020)。本研究は、白瀬海底谷内から採取したコア堆積物試料から産出する微小甲殻類の一分類群である貝形虫をモデル生物として用いて、周極深層水の影響を受けて生物相がどのように変遷したのかを明らかにすることを目的とする。
本研究で用いた試料は、第65次南極地域観測隊により、リュツォ・ホルム湾の白瀬海底谷内(東経38.6960°、南緯69.1319°、水深734 m)にて採取されたコア長約350 cmの柱状堆積物である。本コアの採取された白瀬海底谷の水深600 m以深では、周極深層水に相当する相対的に高温・高塩分・低溶存酸素の水塊が存在するとされる(Sasaki et al., 2022)。コアの岩相は、全体として平行葉理の発達した灰色のシルト質粘土であった。下部層準(120–350 cm)は、やや明度が低く葉理を乱す生痕が認められるのに対し、上部層準(0–120 cm)は、やや明度が高く生物擾乱が少ない。また含泥率は、コアの下部から上部に向けて高くなった。
貝形虫分析の結果として、6属9種60個体の貝形虫化石が産出した。主要タクサは、Cytheropteron perlariaMicrocythere属であった。これらの貝形虫は、リュツォ・ホルム湾において、周極深層水の分布する相対的深海域の泥底環境から主に報告されている(Yasuhara et al., 2007; Sasaki et al., 2022)。貝形虫の個体数は、コア下部の生痕が多くみられる層準から、上部の生物擾乱が少なくなる層準に向けて減少することが明らかになった。また、コア下部層準からは、低溶存酸素環境を示すとされるArgilloecia属(Iwatani et al., 2018)が産出した。これらの堆積相と同調した貝形虫相の変化は、コア下部から上部に向けた周極深層水の強度の変化を記録している可能性がある。
【引用文献】Fretwell et al., 2013, The Cryosphere, 7, 375–393; Hirano et al., 2020, Nature Communications, 11, 4221; Sasaki et al., 2022, Paleontological Research, 27, 211–230; Yasuhara et al., 2007, Micropaleontology, 53, 469–496; Iwatani et al., 2018, Geology, 46, 567–570.