講演情報

[G-P-48]東シナ海奄美大島付近の黒潮流域における有孔虫を用いた堆積作用の検討

*山﨑 誠1、藤澤 優月2、青木 翔吾1、長谷川 四郎3、天野 敦子4 (1. 秋田大、2. ENEOSグローブ株式会社、3. 東北大・博、4. 産総研)
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キーワード:

海底表層堆積物、堆積過程、底生有孔虫、東シナ海

 東シナ海は,ユーラシア大陸と台湾,琉球列島,九州に囲まれる縁海で,与那国島西方から黒潮が流入し,トカラ海峡より太平洋へと注ぐ.西部の大陸棚から沖縄トラフと琉球列島,その東側の琉球海溝にかけては海底地形の変化が大きい.特に琉球列島の島嶼や海丘群は複雑な地形をなし,海洋表層を流れる海流と地形の相互作用によって,堆積作用も複雑である.例えば,トカラ列島周辺海域では,黒潮が蛇行して島嶼部を通過する際の流向・流速の変改に応じて局所的に堆積,輸送,侵食の各プロセスが卓越し,多様な底質を形成している(鈴木ほか,2023).こうしたなか,イシサンゴ類やコケムシ類,有孔虫類などの生物起源砕屑物にも,海底での水流による摩滅・変質や掃き寄せによる淘汰などの影響が認められ,それらの一部は暗褐色や赤褐色に変色している(鈴木ほか,2022;長谷川,2023).このことは,東シナ海の海洋底堆積物に含まれる有孔虫化石などを環境指標として用いた古海洋環境の復元では,海底や海洋表層の水流によって二次的に運搬された個体と,初生的にその場に堆積した個体を,量的・質的に区別する必要があることを意味する.本研究では,深度ごとに棲み分けをおこなう底生有孔虫の生態的特徴に注目し,海洋表層堆積物中の有孔虫粒子の堆積過程を検討することを目的とする.調査海域として長谷川・内村(2017)により主要底生有孔虫種の水深に伴う遷移にもとづいて群集の予察的な分帯がなされている奄美大島周辺海域を対象とした.本研究では特に,底生有孔虫の殻質の比率と殻の変色について報告する.
 試料は,産業技術総合研究所により実施された調査航海(GK15-2,GK17-2)で採集された海底表層堆積物のうち,水深84 mから1541 mまでの15試料を用いた.調査地域の底質は,水深123 mまでは極粗粒砂,それ以深の水深953 mまでは中粒から極細粒砂からなる砂質堆積物で,それ以深では,泥質堆積物よりなる(西田ほか,2016;杉崎ほか,2018).水深1000 m付近まで分布するこれらの砂質堆積物は,沖縄南方から奄美大島北方まで広く分布するRyukyu Sand Sheet(Nishida et al., 2022)に相当すると判断される.
 底生有孔虫の殻質の構成割合は,全体的にガラス質殻の割合が高いが,浅海で磁器質殻が8–20%を占め,600 m以深では,膠着質殻の割合が増加し,最大で60%(水深963 m)に達する.これは他海域と同様な一般傾向にある.しかし,大陸斜面のSt. 1026(799 m)では,上記の傾向に反し,磁器質殻は21%と高く,膠着質殻は7.8%と低い.また,一部の試料では,先行研究同様,有孔虫殻の淡黄色〜黄褐色の変色が観察された.これらを変色の程度から3段階(変色無,淡黄色,黄褐色)に区別したところ,分析した試料のうち浅海域のSite 844(123 m)とSt. 881(188 m)の2地点で変色個体(淡黄色+黄褐色)がそれぞれ80.2%,62.6%と高い割合を占めた.500 m以深では,変色個体の産出は稀か皆無だが,例外的にSt. 1026では,55.3%の変色個体が確認された.この変色個体には,長谷川・内村(2017)で定義されたI帯(120 m以浅)を特徴付けるAmphistegina属やElphidium属を含んでいた.また,同地点では,中期更新世に絶滅した浮遊性有孔虫化石Globorotalia tosaensisが確認された.以上をふまえると,(1)底生有孔虫殻の殻質の構成割合は,基本的に浅海域から深海域に至る海底で環境に応じた棲み分けを反映している,(2)有孔虫殻の変色は地点ごとに度合いと頻度が異なり,その分布傾向から,主に浅海域に変色個体が集中する,(3)底生有孔虫の生息深度,殻質の比率,変色個体の産出に基づくと,大陸斜面Site 1026には,浅海域ないし周辺の露頭を起源とする堆積粒子の移動・運搬が推測される.
引用文献
長谷川・内村, 2017, 地質調査総合センター速報, no. 72, 85–91; 長谷川, 2023, 地質調査研究報告, 74, 301–314; 西田ほか, 2016, 地質調査総合センター速報, no. 70, 66–74; Nishida et al., 2022, Mar. Geol., 444, doi: 10.1016/j.margeo.2021.106707; 杉崎ほか,2018, 地質調査総合センター速報, no. 75, 84–96; 鈴木ほか, 2022, 地質調査研究報告, 73, 275–299; 鈴木ほか, 2023, 地質調査研究報告, 74, 259–286.